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15850. 匿名 2024/05/11(土) 06:44:58
>>771悲恋 🍃⚠解釈違い①※3話くらいの予定。書き終わってないけど出来たとこから落とします🙇
どうしてあなたに恋をしてしまったのだろう。
「――そりゃまァ、単に毛色の違う男が珍しかっただけでしょう」
風がふわりと彼の髪を揺らす。確かに珍しい毛色ではあるな、とぼんやりと思う。眩しい日差しが春の終わりを思わせる、そんな朝だった。
「俺は旦那様や坊ちゃんはもちろん、お嬢さんの周りにいらっしゃるお上品なお坊ちゃん方とは明らかに違いますからねェ」
「……まあ、それはそうね」
けれど果たしてそれだけだろうか。例えば彼が庭師ではなくどこぞの良家の御曹司であったなら、私はこの人を好きにならなかった?そこまで考えて苦笑いしながら首を振る。
「毛色は関係ないわね。私はあなたがどんな色に染まっていたってきっと好きになったわ」
「お嬢さんは世間ってモンを知らな過ぎですよ」
呆れたような口調でそんな事を言うので、その顔を覗き込んで「じゃあ私は?」と尋ねる。
「あなたにとって私は毛色の違う女かしら?」
この人の周りには一体どんな女がいるのだろう。彼が愛した女とは一体どんな人なのだろう。
「聞いてどうするんです。真似事でもしてみるつもりで?」
「……しないわね」
意味のない真似事など、私はしない。
「ありのままの私を愛してもらえばいいだけのことよ」
私の言葉に彼は「いいですねェ」と可笑しそうに笑った。
「今度新しい服を見に行きましょうか」
母の言葉に私は読んでいた本から顔を上げる。それは私に縁談の話がある時に母がいつも口にする言葉だった。
これまで何度か持ち上がった縁談話は全て立ち消えになっていた。両親は私が「あの男は嫌だ」と言えば、無理強いをすることはなかったし、大して理由も聞かずに反故にする事もあった。
それでも、と母の顔を見て思う。今回ばかりはもう逃れる事は出来ないのかもしれない。物言わずとも瞳が訴える。猶予は十分に与えたでしょう?と。いつまでも幼子のように我儘を押し通す事など不可能だと分かっている。
私は本を閉じると「わかりました」と頷いた。母がこちら身を乗り出して、私の前髪をそっと払った。
「……聞かないのね、お相手の事」
「必要ないわ」
あの人でないのなら、相手は誰だって同じなのだから。
中庭の隅で満開を迎えた赤いシャクナゲが時を得顔に咲き誇っている。
誘われるように傍まで行くと、花の隙間から色素の薄い髪が揺れているのが覗き見えた。
「……何を遊んでいるの」
彼の膝の上にはどこから入り込んで来たのか、白い猫が丸まっている。
「お嬢さんはいつも俺を見つけますねェ」
「当然でしょ」
ふんと鼻を鳴らすと隣に腰を下ろした。抱えた膝に顎を乗せて、猫の背を撫でる彼の手をじっと見つめる。
「どうかしました?」
無言で首を振ると、猫の鼻先に指を伸ばした。眠そうな瞳を開いた猫が私の指先に鼻を摺り寄せる。
「……いいわね、お前は」
ぽつりと呟いた私の言葉に、彼が不思議そうに首を傾げた。
あなたのその手が私に触れる事はきっと永遠にないのだろう。
叶う事などないと、わかっていたはずだった。それでも私はあなたのものになりたかった。
「羨ましい」と呟きながらそっと目を閉じる。
こんな気持ちを持て余すのならば、あなたに恋などしなければ良かった。
つづく+14
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