ガールズちゃんねる
  • 15648. 匿名 2024/05/10(金) 22:31:43 

    >>15020 つづき ⚠️
    「チョコが溶けるその前に」24

    この世に神様なんていない
    だって辛いことが多過ぎる
    なぜなんの罪もない人間が
    苦しまなければならないの

    "ガル子ちゃん"
    柔らかく透き通った声で私を呼ぶいつかのモブ乃さんの笑顔が、鮮やかに甦る。

    まだ安静が必要だと言うモブ原さんを説得して、冨岡さんの元へ向かった。
    「お館様が、モブ乃さんの護衛をやめた後も密かに様子を探るように指示を出していたそうです。近々…鬼の始祖との総力戦が為されるだろうとのお見立てから、鬼の動向を探るために」
    鬼の始祖、という言葉に心臓がどくんと脈打つ。
    「それで、探っていた隊士からの報告でついに昨夜…一瞬の出来事だったようです。その後、姿を見失ったと」
    「冨岡さんは…この事…」
    「先程、お話しました」
    「……冨岡さんの、様子は…?」
    「冷静に…気丈に振る舞われておりました。…もしかすると、こうなる事を予想していたのかもしれません」
    「そうですか……」


    屋敷で鍛錬していた冨岡さんは、たしかに気丈に見えた。
    「相変わらず騒々しいな、お前は…そんなに動いたらまた傷口が開くぞ」
    「…モブ乃さんが……」
    「ああ、聞いた」
    「…なんでそんなに、冷静でいられるんですか?」
    「柱稽古に参加することにした。その準備がある」
    「モブ乃さんは、…どうなっちゃうんですか…?」
    木刀を振って私の質問に答えない冨岡さんの代わりに、モブ原さんが言った。
    「鬼となってしまった以上、──頸を斬るしかありません」
    「待って…待ってください、…人間に戻す方法は、無いんですか…?」
    「…残念ながら、今の段階ではありません。研究はしているようですが…」
    こんな事になるなら、あの時結婚を止めていれば良かった。冨岡さんから離れようとするモブ乃さんを、止めれば良かった。あの時でも決して遅くはなかったのに。
    「昨夜ということは、まだそこまで人は喰っていないはず。なるべく被害が広がる前に対処してほしいと伝えてくれ」
    耳を疑った。
    昨日まで確かに人間だった人、しかも想い人に対して"人を喰う"などと生々しい言葉を淡々と使う冨岡さんに私は面食らった。
    「こうなると、次の狙いのガル子さんのところへ鬼が来るのも時間の問題です」
    「だろうな」
    「水柱はしばらくガル子さんに付いてお守りするように、とお館様が」
    「…承知した」
    私はさっきからずっと引っかかっていたことを聞いた。
    「…モブ乃さんのところへ行かなくていいんですか?」

    つづく

    +25

    -4

  • 15650. 匿名 2024/05/10(金) 22:35:51 

    >>15648
    ドキドキしてきました…!

    +19

    -1

  • 15676. 匿名 2024/05/10(金) 22:57:39 

    >>15648
    ⚠️
    (´;ω;`)ガル子…義勇さん…

    +23

    -1

  • 15683. 匿名 2024/05/10(金) 23:09:24 

    >>15648 つづき ⚠️
    「チョコが溶けるその前に」25

    「モブ乃さんの頸を斬るのは、冨岡さんじゃなくていいんですか?」
    淡々と冷静に話す冨岡さんに、無性に腹が立った。
    「もし私なら…自分が鬼になってしまったら、せめてあなたに斬ってほしいと思います」
    「行かない」
    「…早く止めないと、モブ乃さんが人間を傷つけちゃう…そんなの、嫌です…」
    「俺の仕事じゃない」
    「冨岡さん…!」
    「俺は一度、隊律違反を犯している」
    木刀を振っていた腕を止めて、冨岡さんは続けた。
    「過去に鬼を見逃している。お館様のご厚意で罰は免れたが、再度隊律違反を犯すことは許されない。お前を守れとお館様から命令が出た以上、ここを離れることは出来ない」

    だったらなぜそんな顔するの
    嘘つき
    行きたいって
    ほんとは今すぐ駆けつけたいって
    心で叫んでるくせに  

    「冨岡さん…、お願いします、冨岡さんじゃなきゃ……」
    「鍛錬の邪魔だ、どいてろ」

    結局、冨岡さんはモブ乃さんの元へは行かなかった。 

    それから3日後。 
    冨岡さんの鴉が、手紙を足に巻き付けて現れた。
    嫌な予感がした。
    冨岡さんは、モブ原さんに手紙を読むように言った。
    「水柱の推測通り、亡くなった元のご主人と暮らしていた家に現れたそうです」
    「……それで」
    咄嗟に耳を塞いだ。
    でも、報告を読み上げるモブ原さんの声は、静まり返った屋敷に無常にも響いた。

    「先程、───討伐したそうです」

    "ガル子ちゃんと話してると、妹と話してるみたいで楽しいわ"
    "あなたは、幸せになってね──"

    どうして人の幸せばかり願うの
    モブ乃さんも 冨岡さんも
    なぜ自分の幸せは手放すの

    本当に美しい人だった
    その数奇な人生さえも魅力にしてしまうほどに
    最期に何を見て何を思ったのだろう

    とうに香りの消えた藤の花の御守りが、モブ乃さんの形見になった。

    つづく

    +28

    -3