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15095. 匿名 2024/05/09(木) 23:36:51
>>15050《ア・ポステリオリ》26
⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け
遠くのコンビニに寄って、それからうんと遠回りして、宇髄さんは私を大学の正門まで送ってくれた。
「じゃ、ありがとね」
「おー。あ、終わったら連絡しろよ。迎え来るわ」
「いいよいいよ、大丈夫だよ」
手を振る私を見て、宇髄さんがうんと優しい表情を浮かべている。
「何…?どうしたの?」
「なぁ、来週桜見に行かね?」
────桜。
「あー…もう南の方は咲いてるらしいけど、こっちはまだじゃないかなぁ」
「マジか。再来週くらい?」
「どうだろ。いつか見れたらいいね」
そっか…桜を見たいと思うという事は。宇髄さんは過去を吹っ切れたんだ。仕事のことも、彼女のことも、もう何もしがらみなく前へ進んでいく姿が目に浮かんで、自然と笑みが溢れた。
“友達”だから終わりも始まりもない私たちは、またいつか。
「久しぶり!」って連絡して、「最近どう?」「まぁまぁだよ」って笑い合って。「じゃあ、またね」って。それを繰り返しながら、それぞれの道を歩いていくんだろう。
また連絡すると言って、宇髄さんは大きなエンジン音を響かせて去って行った。
ふと、さっきの少しの違和感の正体がわかってしまった。宇髄さんの匂いが、いつもと違ったんだ。コンビニに寄った時に、煙草を買わなかったことを思い出す。
さっきのが本当の宇髄さんの匂いだったんだと気付いた時には、もう、宇髄さんの姿は見えなくなっていた。
❀ ❀ ❀ ❀ ❀
用事を済ませ、喉の渇きを潤そうと大学構内のカフェテリアに入る。アイスカフェラテを飲みながら空港へのバスの時間を調べていると、
「男女間の友情って成立すると思う?」
近くのテーブルから聞こえてきた、女の子たちの会話に耳をそばだてる。
「……まぁでもさ、実際そういう関係になってみないとわかんないよね」
一人がまとめるように言って、それもそうだとみんな頷いている。そう。そんなの実際そうなってみないとわからない。
でも。私のこの四年間の経験から言わせてもらうと、男女間の友情は成立しない。
友情を育もうと思うくらい、一緒にいて居心地がいいのなら。もっと一緒にいたくなって、それでもまだ足りなくなって。
その人の全てに触れたくなってしまって。あと少し、手を伸ばせば触れられる距離にいるのなら。
“友達”でなんていられるわけがないのだ。
つづく+31
-7
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15097. 匿名 2024/05/09(木) 23:38:43
>>15095
読んでるよ(´;ω;`)+19
-5
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15100. 匿名 2024/05/09(木) 23:40:20
>>15095《ア・ポステリオリ》最終話(⚠️バドエン)
⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け
空港に迎えに来てくれた妹を人混みの中から見つけて、つい吹き出してしまった。
「相変わらず派手だね、頭から足の先まで」
「目立ってなんぼ!見つけやすかったっしょ?」
「まぁね…」
ハンドルを切りながらも身振り手振り忙しなくお喋りする妹の話に、助手席に座って耳を傾ける。
「就活始まったらさ!髪も真っ黒にしなきゃいけないし、ネイルもできないし、今のうちに思いっきりしとくの!」
「そっか…就活か…」
「アドバイスしてね、色々!」
「…私が就活についてアドバイスしてたら、お父さんもお母さんも呆れるでしょ」
「えっ、お姉ちゃん一人でよく頑張ったよねって話してたよ?」
一人じゃなくて。
「“友達”がいたから。一人じゃなかったよ」
車窓に流れる薄桃色の花びらたちが、嫌でも視界に入り込んでくる。
桜前線が東京に届く頃。
宇髄さんは、桜を見に行くだろうか。
そして、新しい恋をして、次の年、またその次の年。誰かと桜を見るだろうか。
私は桜の季節になる度に。
宇髄さんが恋しくなってあの煙草を吸って。
桜を避けるように海を眺めて。
そうしたら、いつか。
宇髄さんの気持ちがわかる日が、来るんだろうか。
終
(長くなってしまいましたが、読んでくださった方、途中🌾や➕ポチしてくださった方、ありがとうございました!とても嬉しかったです♡)+33
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17394. 匿名 2024/05/12(日) 16:25:05
>>9556 🪦供養🪦
《ア・ポステリオリ》ハピエンルート①(>>15095の26話からこちらに読み進めたらハピエンです)
⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け
もうここに来ることもないだろうと少し感傷に浸り
ながら正門をくぐると、あるはずのないものが目に入って、はっと足を止めた。
────宇髄さんのバイク。
そしてそれに跨る、大好きな人。
「おう。終わった?」
どうして…
一時間程前に私をここで降ろして、帰っていったはずなのに。
もう会えないと思っていたのに────
反応しない私を見かねたのか、バイクから降りスタンドを立てた宇髄さんが、ゆっくりこちらへ歩いてくる。
「あのさぁ…」
ゆっくりこちらへ歩いてくる宇髄さんと私の間の距離が、どんどん縮まっていく。
手を伸ばせば触れられる距離。手を伸ばしてしまわないように、ぐっと堪えた。
「何か俺に隠してることあんだろ」
隠していることが。
就職が決まらなかったことなのか。
このまま飛行機に乗って実家に帰ろうとしていることなのか。
もう“友達”として側にいるのが辛くなってしまうくらい、宇髄さんのことを好きになってしまったことなのか。
「あのなー、どんだけ一緒にいると思ってんだ。いつもと様子がちげぇことくらいお見通しよ?」
バイクに乗って背中にぎゅっとするのが好きだったこと。
朝、宇髄さんより早く目が覚めた日は、こっそり寝顔を眺めていたこと。
どんなに辛いことがあった日も、宇髄さんがバイクに乗って迎えに来てくれたら、顔を見ただけで気持ちが癒されたこと。
隠していることなんて、数え切れないくらいたくさんある。
「俺には…話してくんねぇの?」
宇髄さんの大きな手が、私の指先をそっと掬い上げて遠慮がちにきゅっと握った。指の先から伝わる優しい体温と寂しげに伏せた目に、胸が締め付けられる。
つづく+21
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