ガールズちゃんねる
  • 15050. 匿名 2024/05/09(木) 23:03:41 

    >>15045《ア・ポステリオリ》25
    ⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け

    「…ってか、何そのでけぇ荷物」
    「久しぶり。これは色々…」

    いつものようにヘルメットを渡してくる宇髄さんに、やんわり押し返した。

    「私今から学校行こうと思ってて。卒業式でゼミの教授とお話しできなかったからお礼言いたいし、他にも色々やることがたくさんあって…」

    私の話しを聞いているのかいないのか、宇髄さんは「へー…」と相槌を打ちながら、勝手に私の頭にヘルメットを被せて顎下のベルトを留めてしまった。

    「…聞いてる?私学校行くんだけど…」
    「送ってくから乗れよ」
    「すぐそこだから…」
    「いいから、乗れって」

    動揺を隠しながら後ろに跨って、宇髄さんの背中にしがみつくと。何だろう…少しの違和感を覚えて、でもそれの正体がわからない。違和感の正体を探っているうちに、正門が横目に見えた。

    「あ…えっ…あーー!学校通り過ぎた!」
    「うるせぇなぁ…ついでにコンビニ付き合えよ」
    「コンビニは通り過ぎないでね!」
    「どうしよっかねぇ。通り過ぎるかもしんねぇなぁ」

    笑っている宇髄さんの背中にくっついて、ぎゅうぎゅうと腕に力を込めて抗議の意を示す。
    このままあっちこっち連れ回されてしまうのかもしれない、春だから。
    でも、春だけど…変わらない様子の宇髄さんに少し戸惑う。

    何を話していいのかわからなくて黙っていると、信号待ち中、前を向いたまま宇髄さんが一気に言った。

    「俺ねー、仕事辞めたわ」
    「え…」

    信号が青になって、ゆっくり動き出す。

    「ちょっと揉めたけどな。退職願出してから課長のイビリがすごくって、それで参っちまって。お前にも会えねぇくらい落ちててさ…」
    「…そうだったんだ」
    「ずっと連絡できなくて悪かったな…。かっこ悪りぃとこ、見せたくなくってよ」
    「…いつもかっこいいよ、宇髄さんは」
    「おー、嬉しいこと言ってくれんじゃん。もう引き継ぎも顧客への挨拶周りも終わって、やっと人心地ついた感じ」

    いつの間にか、コンビニは通り過ぎてしまっていた。

    「よかった…ずっと顔色悪かったから」
    「心配掛けて悪かったな。だからパァーッとお疲れ様会しようぜ!頑張ったよな、俺ら」

    今は、私の顔色が悪いかもしれない​────。
    気付かれないように、「そうだね、今度しようね」と明るい声を返した。

    つづく

    +26

    -6

  • 15062. 匿名 2024/05/09(木) 23:12:03 

    >>15050
    ちょ、ちょっ…ちょっとぉ!どうなっちゃうのよ…

    +19

    -3

  • 15086. 匿名 2024/05/09(木) 23:29:19 

    >>15050
    ずっと追っています(´;-;`)

    +16

    -3

  • 15095. 匿名 2024/05/09(木) 23:36:51 

    >>15050《ア・ポステリオリ》26
    ⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け

    遠くのコンビニに寄って、それからうんと遠回りして、宇髄さんは私を大学の正門まで送ってくれた。

    「じゃ、ありがとね」
    「おー。あ、終わったら連絡しろよ。迎え来るわ」
    「いいよいいよ、大丈夫だよ」

    手を振る私を見て、宇髄さんがうんと優しい表情を浮かべている。

    「何…?どうしたの?」
    「なぁ、来週桜見に行かね?」

    ​────桜。

    「あー…もう南の方は咲いてるらしいけど、こっちはまだじゃないかなぁ」
    「マジか。再来週くらい?」
    「どうだろ。いつか見れたらいいね」

    そっか…桜を見たいと思うという事は。宇髄さんは過去を吹っ切れたんだ。仕事のことも、彼女のことも、もう何もしがらみなく前へ進んでいく姿が目に浮かんで、自然と笑みが溢れた。

    “友達”だから終わりも始まりもない私たちは、またいつか。
    「久しぶり!」って連絡して、「最近どう?」「まぁまぁだよ」って笑い合って。「じゃあ、またね」って。それを繰り返しながら、それぞれの道を歩いていくんだろう。

    また連絡すると言って、宇髄さんは大きなエンジン音を響かせて去って行った。

    ふと、さっきの少しの違和感の正体がわかってしまった。宇髄さんの匂いが、いつもと違ったんだ。コンビニに寄った時に、煙草を買わなかったことを思い出す。
    さっきのが本当の宇髄さんの匂いだったんだと気付いた時には、もう、宇髄さんの姿は見えなくなっていた。

    ​❀ ❀ ❀ ❀ ❀

    用事を済ませ、喉の渇きを潤そうと大学構内のカフェテリアに入る。アイスカフェラテを飲みながら空港へのバスの時間を調べていると、

    「男女間の友情って成立すると思う?」

    近くのテーブルから聞こえてきた、女の子たちの会話に耳をそばだてる。

    「……まぁでもさ、実際そういう関係になってみないとわかんないよね」

    一人がまとめるように言って、それもそうだとみんな頷いている。そう。そんなの実際そうなってみないとわからない。

    でも。私のこの四年間の経験から言わせてもらうと、男女間の友情は​成立しない。

    友情を育もうと思うくらい、一緒にいて居心地がいいのなら。もっと一緒にいたくなって、それでもまだ足りなくなって。
    その人の全てに触れたくなってしまって。あと少し、手を伸ばせば触れられる距離にいるのなら。

    “友達”でなんていられるわけがないのだ。

    つづく

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