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15020. 匿名 2024/05/09(木) 22:45:08
>>14489 つづき ⚠️
「チョコが溶けるその前に」23
病室まで行くと、冨岡さんは私をベッドに下ろし病衣を脱ぐように指示した。
自分の羽織を脱ぎ隊服の袖口のボタンを外している冨岡さんを見て戸惑っていると、そんな私に気づいて小さく溜息をついた。
「…傷を診るだけだ。たぶん傷口が開いてる」
ベッドサイドの引き出しから痛み止めと縫合道具を取り出す冨岡さんの動きに迷いは無く、私も縫われる覚悟を決めた。
「脱いだ病衣で前を隠せ」
冨岡さんに背を向け病衣を脱ぎ、言われた通りにベッドに腰掛ける。
この人の視線がいま自分の背中に注がれていると思うと、妙な緊張を覚えた。
鬼殺で角張った手が、巻かれた包帯を取るために私に触れる。
指紋の流れがわかるほどザラついた指先が、触れた箇所に熱を与えた。
「…うつ伏せに」
ベッドに上がり、下向きで横たわる。
ぎしり、と足元から聞こえた軋みで、冨岡さんもベッドに上がったのだとわかった。
真上にある照明を、コードを引っ張り傷口に垂らして近付ける。電球の熱を背中にじんわりと感じていると、冨岡さんはオレンジ色に照らされた傷口に消毒液をかけ何箇所か痛み止めを打った。
その手際の良さに驚く。日輪刀を扱う器用さは知っていたが、手先も器用なのは意外な発見だった。…いや、この人は何人もの女の人を抱いたんだから当然か、とそこまで思って考えるのをやめた。
「縫うぞ」
いよいよだ、と歯を食いしばる。
ちくり、と針が背中の皮膚を貫通するのがわかり、痛さで身体を強張らせた。
「痛いな。枕を咥えて痛みを逃がせ」
二度目の針の感覚が来たところで、思わず声が漏れる。
「ガル山、力を抜け」
無理、と頭を左右に振って訴えると、私の耳元に顔を近付けて「呼吸を俺に合わせろ」と囁いた。
「吸って…吐いて。…ゆっくり」
無我夢中で呼吸を真似た。でも、痛みが邪魔をして上手く出来ない。
「焦らなくていい。よく聞け」
耳元で繰り返される規則正しい息遣いをしばらく聞いていると、徐々に身体の力が抜けた感じがした。
「上手だ。…そのまま続けて」
縫合作業に戻ると、針を動かしながら「すまなかった」と静かに呟いた。
「…たぶん、痕が残ると思う」
あなたが気に病む必要は無い、と伝える代わりにせめて冨岡さんが手を動かしやすいようにじっと耐える。
「本当は、無傷で帰してやりたかった」
そんな事思ってたなんて、知らなかった。
「お前には、この傷も含めてお前の全部を受けとめてくれる男と未来とやらで幸せになってほしいと思っている」
私に触れながらそう言うこの人は、なんて残酷なのだろう。
まるでその言葉を私に刻み込むように、ひと針、またひと針と丁寧に傷口を縫っていく。
「出来た」
「頑張ったな」と私の頭を優しく撫でるその手が欲しいのに。何をどうしたって叶わない。
せめて泣いてるのを悟られないように、呼吸を整えるフリをして枕に顔を埋めた。
その報せが入ったのは、それから数日経ったある日のことだった。
モブ乃さんが、鬼となった。
つづく+27
-5
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15029. 匿名 2024/05/09(木) 22:50:44
>>15020
この冨岡さん、刺さりまくりで涙出そう…+16
-3
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15058. 匿名 2024/05/09(木) 23:09:19
>>15020
傷を縫ってるだけなのになんとも色っぽくてせつない…
と思ったら最後…!+19
-2
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15103. 匿名 2024/05/09(木) 23:43:03
>>15020
めっちゃドキドキしながら読んでたら、嘘でしょ…モブ乃さん…!!+18
-3
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15229. 匿名 2024/05/10(金) 07:34:48
>>15020
読んでます
せつない(´;ω;`)+14
-3
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15259. 匿名 2024/05/10(金) 09:33:30
>>15020
⚠️
なんで義勇さんは口数少ないのにこんなに色気があるの…!!もーめちゃくちゃギュッと来てます!!
続き楽しみにしてます+18
-3
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15269. 匿名 2024/05/10(金) 09:47:24
>>15020
ここ数話、ずっと胸が苦しくなりながら読んでます。
傷の手当てをしてくれる冨岡さんが色っぽくて、でも切なくて、この感情をどうしたらいいのか…🥲+17
-4
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15648. 匿名 2024/05/10(金) 22:31:43
>>15020 つづき ⚠️
「チョコが溶けるその前に」24
この世に神様なんていない
だって辛いことが多過ぎる
なぜなんの罪もない人間が
苦しまなければならないの
"ガル子ちゃん"
柔らかく透き通った声で私を呼ぶいつかのモブ乃さんの笑顔が、鮮やかに甦る。
まだ安静が必要だと言うモブ原さんを説得して、冨岡さんの元へ向かった。
「お館様が、モブ乃さんの護衛をやめた後も密かに様子を探るように指示を出していたそうです。近々…鬼の始祖との総力戦が為されるだろうとのお見立てから、鬼の動向を探るために」
鬼の始祖、という言葉に心臓がどくんと脈打つ。
「それで、探っていた隊士からの報告でついに昨夜…一瞬の出来事だったようです。その後、姿を見失ったと」
「冨岡さんは…この事…」
「先程、お話しました」
「……冨岡さんの、様子は…?」
「冷静に…気丈に振る舞われておりました。…もしかすると、こうなる事を予想していたのかもしれません」
「そうですか……」
屋敷で鍛錬していた冨岡さんは、たしかに気丈に見えた。
「相変わらず騒々しいな、お前は…そんなに動いたらまた傷口が開くぞ」
「…モブ乃さんが……」
「ああ、聞いた」
「…なんでそんなに、冷静でいられるんですか?」
「柱稽古に参加することにした。その準備がある」
「モブ乃さんは、…どうなっちゃうんですか…?」
木刀を振って私の質問に答えない冨岡さんの代わりに、モブ原さんが言った。
「鬼となってしまった以上、──頸を斬るしかありません」
「待って…待ってください、…人間に戻す方法は、無いんですか…?」
「…残念ながら、今の段階ではありません。研究はしているようですが…」
こんな事になるなら、あの時結婚を止めていれば良かった。冨岡さんから離れようとするモブ乃さんを、止めれば良かった。あの時でも決して遅くはなかったのに。
「昨夜ということは、まだそこまで人は喰っていないはず。なるべく被害が広がる前に対処してほしいと伝えてくれ」
耳を疑った。
昨日まで確かに人間だった人、しかも想い人に対して"人を喰う"などと生々しい言葉を淡々と使う冨岡さんに私は面食らった。
「こうなると、次の狙いのガル子さんのところへ鬼が来るのも時間の問題です」
「だろうな」
「水柱はしばらくガル子さんに付いてお守りするように、とお館様が」
「…承知した」
私はさっきからずっと引っかかっていたことを聞いた。
「…モブ乃さんのところへ行かなくていいんですか?」
つづく+25
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