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14945. 匿名 2024/05/09(木) 21:47:35
>>14450《ア・ポステリオリ》22
⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け⚠️ほんのり🐚
ゆっくり、何か迷うような指の動きから目が離せない。
静かな部屋に、ジャケットの袖から腕を抜く衣擦れの音が響く。
脱がせたジャケットをそっとソファに置いた宇髄さんの手が、再び私の腰に添えられた。その手がそっと背中を撫で上げて、そのまま後頭部を包み込む。
覗き込まれるように、綺麗な瞳に捉えられた。
ついさっきまで。
宇髄さんの手のひらから伝わってきたのは、温かい安心感だったのに。
私の内側から溶かして解していくように、ゆっくり身体に触れられている今は、何かが違うような気がして。触れられた腰から背中、そして思考まで、甘い痺れで麻痺させられていく。
少し目を伏せて顔を傾けた宇髄さんの顔が迫ってきて、息を呑んだ。
宇髄さんの唇と私の唇が触れるまで、後数センチ。
いつも、背中にしがみつきながら感じていた心地良い体温に正面から包まれて。
今まで見たことがなかった表情と、今まで触れたことがなかった空気に。
どうしたらいいのかわからなくなって、ぎゅっと宇髄さんのワイシャツを握ってしまった時────。
はっとしたような表情を見せた宇髄さんは身体を離し、短く息を吐いて目を逸らした。軽々持ち上げた私を、そっとソファにおろす。
「掛けとくわ、これ」
私のジャケットを持って、立ち上がった。
宇髄さんは壁を越えてこなかった。
でも、私は越えたい────。
咄嗟に、歩き出した宇髄さんのワイシャツの袖を掴んでしまった。
狡かったと思う。疲れ果てて弱っている宇髄さんにつけ込んだことは。
でも、彼女の代わりでもなんでもいい。
誰かの代わりでもいいから、もう一度。
腕の中に引き入れて欲しかった。
つづく+30
-5
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14949. 匿名 2024/05/09(木) 21:49:21
>>14945《ア・ポステリオリ》23
⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け⚠️🐚
少し袖を引き寄せただけで、優しい宇髄さんはすぐに私の意図を汲んでくれたようだった。
覆い被さってきた大きな身体に組み敷かれ、背中がソファにゆっくり沈み込んでいく。
何度も何度も角度を変えて触れ合わせる唇の間から互いの余裕のない息が漏れ出して、堪らず宇髄さんのワイシャツのボタンに指を掛けた。
初めて知った、何の隔たりもなく触れる宇髄さんの体温。柔らかい唇と、厚い舌。
漏れ出してしまう声が恥ずかしくて、何度も顔を背けてしまう。その度に、私の頬に触れてくる宇髄さんの手のひらが焦れるように正面を向かせ、上がった息も、漏れ出してしまいそうな「好き」の言葉も、全部宇髄さんの唇によって封じ込められてしまう。
頭を抱え込まれ全身包まれて、優しく揺れていたソファのスプリングが軋む音と、耳元で聞こえる息遣いが段々と激しくなっていくのを聞きながら。
身体は素直に喜んでいるのに、気持ちが追いつかないままで胸は苦しくて。
ただ、ずっと。宇髄さんの名前を呼んでいた。
はっと目を覚ますと宇髄さんの腕の中にいて、慌てて大きな身体を揺する。
「宇髄さん…!朝!」
「…んー、何時?……うわっ、ヤバ!ギリギリだわ」
時計を見て跳ね起きた宇髄さんは、シャワーを浴びていつも通りに身支度を整えて、
「悪りぃ、先行くわ…お前はゆっくりしてから出な。昨日預けた鍵で締めといて」
と、あっという間にいなくなってしまった。
静かなリビングで一人、昨夜脱ぎ散らかしたブラウスやスカートを拾い上げて、ふと、冷静になった頭で考える。
初めて会った時に言っていたのに…。
こういう雰囲気になって、断ったり断れなかったりするのが嫌になって。
だから、“友達”が欲しい、って────
私は、壁を越えたのではなくて。
ただ、壊しただけだったんじゃないか────
素足から伝わるリビングの床の冷たさが、全身を覆い尽くす。
宇髄さんが脱がしてくれたジャケットが、ソファの背もたれに置かれているのが目に入る。
何やってんだろうな…私。
少し皺になったそれに腕を通すことはもうなくて、結局一つも内定を得ないまま卒業を迎えた。
つづく+27
-7
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