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14489. 匿名 2024/05/08(水) 23:00:02
>>14462 つづき ⚠️
「チョコが溶けるその前に」22
「ガル子さんが書いてくださった地図を元に調べたところ、ガル子さんのご自宅がある場所は現在は緑地ですので、特に手掛かりはありませんでした。となると、水柱とも話したのですがやはりこちらへ来てしまった時の状況が重要になると考えます。ガル子さんが落ちたとされる川は──ガル子さん?大丈夫ですか?」
「あ…はい!」
あれから数日、モブ原さんは私を未来に返すために試行錯誤していた。
私は今になってモブ乃さんの気持ちがわかる気がした。
私の病室前には護衛の隊士が常駐し、24時間体制で見回りをしてくれている。本来の任務があるだろうに彼らの仕事を増やしてしまい、自分が守られる側になった申し訳なさを感じていた。
気がかりはもうひとつ、未来に戻ってしまったらモブ原さんや──冨岡さんに会えなくなってしまう、という事だった。
でもモブ原さんは淡々としていて、冨岡さんに至ってはあれから顔も出してくれない。
惜しまれたいわけではないけれど、なんだかそれが少し寂しかった。
(ダメだ、もう我儘言わないって決めたんだから…)
いつまでもこちらにいるわけにはいかない、それは心のどこかでわかっていた。戻り方がわからないのを理由に、その方法を探す事もなく周りの人達の優しさに甘えてしまっていた。
きっと家族も友達も心配してる。鬼殺隊にも、これ以上迷惑をかけられない。
私は、元の世界に戻らなければ。
ベッドから起き上がれるようになったタイミングで、リハビリが始まった。
これがなかなか大変で、自分の思う通りに身体が動かないもどかしさを痛感した。
でもこの動けない身体では帰れるものも帰れないだろうと自分を鼓舞した。
リハビリ中に一瞬よろめいた時、誰かが私の肩を抱いた。誰かなんて、見なくてもわかる。
「…冨岡さん。ありがとうございます」
「傷が深かった、あまり無理するな」
「大丈夫です!あの、助けていただいてありがとうございました」
「…傷を負わせてしまって、悪かった」
「冨岡さんが謝る事ないです。それは、私が全面的に悪いので……」
「…どうした?」
「なんでもないです」
「なんでもない、という顔ではないな」
「…少し傷が痛いだけです。そろそろ休憩します。冨岡さんもお忙しいでしょう、戻られたほうが…、」
言い終わらないうちに、ふわりと身体が宙に浮く感覚を覚えた。冨岡さんに横抱きにされたのだと気づくのに数秒かかった。
「寝台に運ぶ」
「え、冨岡さん!下ろしてください!自分で歩けますから!」
「ちょっと大人しくしてろ」
「わ、わたし重いですから!!下ろして!」
冨岡さんは私の訴えなどお構いなしに歩き出した。
お願いだからこれ以上構わないで
決心が鈍ってしまいそうだから
もう少しで息がかかりそうなほどの久しぶりの距離に、自分の心臓の音がうるさかった。
つづく+26
-6
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14498. 匿名 2024/05/08(水) 23:12:54
>>14489
冨岡さんの優しが嬉しいけど辛いよね、がる子ちゃん…+20
-3
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14509. 匿名 2024/05/08(水) 23:33:39
>>14489
えーどうなるの土器土器+21
-3
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15020. 匿名 2024/05/09(木) 22:45:08
>>14489 つづき ⚠️
「チョコが溶けるその前に」23
病室まで行くと、冨岡さんは私をベッドに下ろし病衣を脱ぐように指示した。
自分の羽織を脱ぎ隊服の袖口のボタンを外している冨岡さんを見て戸惑っていると、そんな私に気づいて小さく溜息をついた。
「…傷を診るだけだ。たぶん傷口が開いてる」
ベッドサイドの引き出しから痛み止めと縫合道具を取り出す冨岡さんの動きに迷いは無く、私も縫われる覚悟を決めた。
「脱いだ病衣で前を隠せ」
冨岡さんに背を向け病衣を脱ぎ、言われた通りにベッドに腰掛ける。
この人の視線がいま自分の背中に注がれていると思うと、妙な緊張を覚えた。
鬼殺で角張った手が、巻かれた包帯を取るために私に触れる。
指紋の流れがわかるほどザラついた指先が、触れた箇所に熱を与えた。
「…うつ伏せに」
ベッドに上がり、下向きで横たわる。
ぎしり、と足元から聞こえた軋みで、冨岡さんもベッドに上がったのだとわかった。
真上にある照明を、コードを引っ張り傷口に垂らして近付ける。電球の熱を背中にじんわりと感じていると、冨岡さんはオレンジ色に照らされた傷口に消毒液をかけ何箇所か痛み止めを打った。
その手際の良さに驚く。日輪刀を扱う器用さは知っていたが、手先も器用なのは意外な発見だった。…いや、この人は何人もの女の人を抱いたんだから当然か、とそこまで思って考えるのをやめた。
「縫うぞ」
いよいよだ、と歯を食いしばる。
ちくり、と針が背中の皮膚を貫通するのがわかり、痛さで身体を強張らせた。
「痛いな。枕を咥えて痛みを逃がせ」
二度目の針の感覚が来たところで、思わず声が漏れる。
「ガル山、力を抜け」
無理、と頭を左右に振って訴えると、私の耳元に顔を近付けて「呼吸を俺に合わせろ」と囁いた。
「吸って…吐いて。…ゆっくり」
無我夢中で呼吸を真似た。でも、痛みが邪魔をして上手く出来ない。
「焦らなくていい。よく聞け」
耳元で繰り返される規則正しい息遣いをしばらく聞いていると、徐々に身体の力が抜けた感じがした。
「上手だ。…そのまま続けて」
縫合作業に戻ると、針を動かしながら「すまなかった」と静かに呟いた。
「…たぶん、痕が残ると思う」
あなたが気に病む必要は無い、と伝える代わりにせめて冨岡さんが手を動かしやすいようにじっと耐える。
「本当は、無傷で帰してやりたかった」
そんな事思ってたなんて、知らなかった。
「お前には、この傷も含めてお前の全部を受けとめてくれる男と未来とやらで幸せになってほしいと思っている」
私に触れながらそう言うこの人は、なんて残酷なのだろう。
まるでその言葉を私に刻み込むように、ひと針、またひと針と丁寧に傷口を縫っていく。
「出来た」
「頑張ったな」と私の頭を優しく撫でるその手が欲しいのに。何をどうしたって叶わない。
せめて泣いてるのを悟られないように、呼吸を整えるフリをして枕に顔を埋めた。
その報せが入ったのは、それから数日経ったある日のことだった。
モブ乃さんが、鬼となった。
つづく+27
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