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14415. 匿名 2024/05/08(水) 22:05:51
⚠️デート企画⚠️解釈違い
>>9082ナンパから助けてくれる
>>4166一応男なんで
>>14269
「ミズクラゲの恋」 第七話
「あ、何かの撮影やってる」
イルカエリアを出たら、テレビの撮影をしてるっぽい集団がいた。
「あ、まずい……」
慌てて向きを変えようとした愈史郎に、向こうのほうが先に気づいた。
「あー!愈史郎だ」
駆け寄ってきたのは、私でも知ってるアイドルのモブ美ちゃん。細い!可愛い!真っ白で発光してるみたいにキラキラしてる!
「ちょっとー。この間の話、わたし聞いてないんだけどー」
鼻にかかった声まで可愛い。天は何物与えてるんだろう。感動している私と対照的に、愈史郎はわかりやすく焦っていた。
「ガル子、ごめん。事務所の後輩なんだ。ちょっとだけいいか」
「もちろん。私はあっちで休んでるね」
きっとリアルな話なんだろう。
愈史郎はさっきまでとは全然違って、困った顔をしたり、お兄さんみたいな顔をしながら話している。
はたから見ていてもお似合いの二人。
愈史郎にとってはあっちの世界が本物で、今日は企画なんだなぁ。
当たり前だけど、推しにもプライベートがあるんだよね。
スムーズにリードしてくれるけど、今日のこなれた感じは絶対彼女いるよね。
「はぁ、リアコは辛い」
ふと、さっきのミズクラゲを思い出した。
海のクラゲと水族館のクラゲは住む世界が違いすぎて絶対に一緒に泳ぐことはない。
少し現実に引き戻されそうになっていたら、知らない2人連れの男の人が近づいてきた。
「ねーねー。何してんの?暇だったら一緒にまわろうよ」
え?これナンパ?
「結構です。連れがいるんで」
精一杯そっけなく言ったけど、全然響いてないっぽい。
「連れって女の子?それなら4人でちょうどいいじゃん」
しつこいなぁ。でも強く断って怒らせるのも怖い。
この場を離れようか。でも、そうしたら愈史郎と逸れちゃう。連絡先も知らないのに。困っていたら、遠くから愈史郎が走ってきた。
「こいつは俺の彼女だから」
軽く息を弾ませたまま、相手を一瞥すると私の手を取ってさっさと歩き出した。
置き去りにした男たちの「え?あれってもしかして……」「ゆしろ……」という声が聞こえた。
「バレたか。逃げるぞ」
愈史郎の声を合図に、私たちは手を繋いだまま走り出した。
走って走って海沿いまできたら、遊覧船乗り場で「出航しまーす」という声が聞こえてきて、船に駆け込んだ。
ガラガラの遊覧船の一番後ろの隅に座って逃げ切ったことを実感したら、ふつふつと笑いが込み上げてきて、涙が出るほど笑った。
「さっき、待たせてごめんな」
「全然平気。それより、愈史郎は写真とか撮られたらまずかったんじゃないの?わたし自分でなんとかしたのに」
「なに言ってんだ。遠くからでもわかるくらい顔が引き攣ってたぞ。彼女がナンパされているのに黙っていられるか。俺も一応男だから、ガル子一人くらい守れる」
企画だって分かってる。それでも嬉しかった。
続く
+22
-3
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14563. 匿名 2024/05/09(木) 01:08:45
>>14415
美クラゲと醜クラゲ、愈史郎らしいワードだなと笑ったけど、ガル子ちゃんがしんみりしていて切なくなる…読んでます!+21
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14756. 匿名 2024/05/09(木) 15:42:19
⚠️デート企画⚠️解釈違い
>>9152三徹目の推し
>>14415
「ミズクラゲの恋」 第八話
遊覧船は静かに岸を離れた。緩やかな振動が身体に伝わり、麗らかな春の日差しと相まって心地いい。
窓側に座らせてもらった私はしばらく景色を楽しんでいたけれど、ちょっと面白いものを見つけた。
「ねぇ、愈史郎…」
横を向くと彼は腕と足を組んで目を閉じていた。
……寝てる。
寝息も立てずに静かに。
寝顔、見ていたいけど見られていたって知ったら嫌がるかな?私は借りていたキャップを愈史郎に深めに被せて、また船の外を見た。
海から吹いてくる風がきもちいい。この時間が贅沢すぎる。推しを独り占めしているみたい。
小さく周遊するだけの遊覧船は、しばらくすると岸に戻ってしまって、私は近づいてきた係員さんに手首のリストバンドを見せて、もう一周乗せてほしいと口パクでお願いした。
二週目の途中、愈史郎がガバッと身体を起こした。
「いま何時だ?」
「もうすぐ5時だよ」
はぁ、と大きなため息をついた愈史郎が顔を上げた。
「起こ……。いや、違うな。ガル子は悪くない。俺の失態だ」
愈史郎は髪の毛に指を通して頭を掻いた。
「最近仕事を詰め込んでて、この3日間まともに寝てないんだ。って、そんなの言い訳にならないな」
「え、全然気にしなくていいよ。私も走ってちょっと疲れたし」
「なに言ってんだ。今日は終わりの時間も決まってるのに」
「本当に大丈夫だって。愈史郎ってもしかして、けっこう完璧主義?」
「……かもしれないが、そうじゃなくてもデート中に寝る男は嫌だろ」
「私は彼女に気を許してるっぽくて嬉しかったよ」
ぽかんと口をあけた愈史郎は、それ以上は何も言わずポンっと私の頭に手を置いた。
「ガル子が満足ならそれでいいことにしてやる」
パークの閉園時間は5時半。腕時計を確認したけれど「まぁ、ここで急いでも船が早く着くわけじゃないか」と、気を取り直したように愈史郎の口元に微笑が戻ってきた。
「ガル子は残りの時間、何がしたい?」
「そうだな。おしゃべりがしたいかな」
もう、イベントは十分に楽しんだ。あとはゆっくり声を聞きたい。
「ガル子は俺のどんなところが好きなんだ?」
いきなりの直球な質問にセンチメンタルな気分が吹き飛んでむせそうになった。
「え、なに?急に」
「ん?今朝の話だと初対面の人間に『醜女』っていう中二病の男が来ると思ったんだろ?その魅力を聞いておきたいと思って」
腿に肘を置き、頬杖をついた顔をこちらに向けて返事を待ってる。
どうしよ。心の準備ができてなくて心臓の音だけが響いている。私はゆっくり深呼吸をして、言葉を選んだ。
「私、映画やドラマで愈史郎のいろんな顔を見ているけど、一番は泣いている顔に心を打たれたんだよね」
見つめられながら語るのは少し恥ずかしいけれど、あの時の感動を直接伝えたい。
「前に見た映画で愈史郎が泣いているシーンで、泣き顔があまりに綺麗で痛いくらい気持ちが伝わって気づいたら私も泣いていた。天邪鬼な役だったけど、本当は感受性が強くて繊細なんだなあって思ったんだ」
そう、あの顔を見て恋におちた。
愈史郎は茶化すわけでも照れるわけでもなく真剣な顔で私の話を聞いていて、小さな声で「ありがとう」と言った。
「じゃあ、俺の番だな」
「え?何が?」
「何がって?ガル子の好きなところ」
続く+21
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