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13951. 匿名 2024/05/07(火) 22:57:10
>>13946《ア・ポステリオリ》16
⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け(※元カノの話してます)
持っていたペンを仕舞って、ノートを閉じた。
「…ん?どうした?」
「あ…あとはまた今度にしよっかな」
「そ?じゃあもう寝るか。明日早いしな」
「そうだね。歯磨きしてくる」
何気ない風を装ってバッグの中にノートとペンケースを入れ込んでから、洗面所へ向かった。
さっき。
私を見て、宇髄さんが彼女といた頃の自分を思い出して。そして、彼女の気持ちをなぞっていたとしたら…
これ以上、彼女とのことを思い出したり思い出に浸ってあんな顔をするのをやめて欲しくて、慌てて作業を中断した。
この気持ちを言葉で表現すると、紛れもなく『嫉妬』。
いつから…?いつから私こうだった…?
でも。
バイクの後ろでバランスを取るのも慣れたのに、まだ宇髄さんの背中にぴったりくっついて、お腹に腕を回してぎゅっとしているのは────
そういう気持ちを見ないふりをして。
気付かないふりをしていたけれど。
初めてバイクの後ろに乗った日から、宇髄さんの背中の体温に触れると、なんとも言えない心地良さと高揚感を得ていた私の身体は最初から。
宇髄さんを“友達”とは認識していなかったのかもしれない。
そこに。やっとと言うべきか。
────心と頭が追いついた。
宇髄さんへの気持ちを自覚してしまったからか、桜の季節が近付くと、私まで胸が苦しくなってしまうようになった。
❀ ❀ ❀ ❀ ❀
春。私は四年生になった。
宇髄さんが慕っていた営業課の課長は異動になって新しい課長が来たらしく、その課長と馬が合わないとボヤくことが増えた。
煙草を吸う回数も増えたのは春だからだと思っていたけれど、桜の樹々が青々とした葉を茂らす頃も、落ち着かなくて。
そのまま、夏になった。
つづく
(コメントありがとうございます❀)+22
-7
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13963. 匿名 2024/05/07(火) 23:08:19
>>13951
恋心を自覚しちゃったんですね…これは苦しい……
呼吸が出来ないほどの苦しさを感じております🥲🥲+16
-5
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14294. 匿名 2024/05/08(水) 20:15:42
>>13951《ア・ポステリオリ》17
⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け
この頃になると「一週間お疲れ様」だったのが、「今日も一日お疲れ様」となり、仕事やバイトが終わると毎日のように二人で宇髄さんの家にいた。
「課長がさ、こんっな暑い日に飛び込みで営業行って来い、契約取れるまで帰ってくるなって言うんだぜ?いつの時代のやり方だよ、って。自分たちが若い頃はそうしてたっつーんだけどよ…普通にアポ取って行けばよくね?」
宇髄さんの帰りは、どんどん遅くなっていく。
「日中、外回りしてる間にメールもFAXもじゃんじゃん来てるから、会社戻ってから一つ一つ返事してたら帰るのこんな時間になっちまうんだよなぁ…。返事するのも、色々調べたりあっちこっちと連絡取ったり…なかなかスムーズにいかなくってよ…。今日もまだ終わんねぇわ」
家に帰ってきても、ずっとスマホやノートパソコンと睨めっこしているようになった。
「…私、帰ろっか?邪魔じゃない?」
「いや、誰かいないと飯食ったり眠ったりしないで朝までこんなことしてそうだから、ストッパー的な感じでいてくれたら助かる」
「そっか…了解。私もまたエントリーシート書かなきゃ…」
二人で黙々と、たまに雑談したりしながら作業を進めていく。一人だと気が滅入ってしまいそうだけど、頑張っている宇髄さんが側にいたから、私も頑張れた。
休憩すると言ってベランダに出て煙草を吸う宇髄さんの背中を、窓ガラス越しに眺める。彼女の香りに包まれて、宇髄さんは何を思っているんだろう。
彼女がここにいたら。私が彼女だったら。
もっと何か違うかたちで宇髄さんを支えてあげられているんじゃないかと思うと、自分で自分の存在を否定してしまいそうになる。
私たちの間には、このガラスのように見えない壁がある。この壁の向こう側に行って、宇髄さんを抱きしめてあげられたらいいのに。
残暑も厳しく、日に日に宇髄さんの元気がなくなっていく。
少し前まで、帰ってきたら「課長のやつ、最近もう話し掛けてもこなくなってさ。ちょっとした業務連絡も社内メールで送ってくんだぜ?すぐそこのデスクにいんだから、言えよって…」とか、「課長に気に入られてるやつだけ、いい仕事回されたりいいポジションにいけるって…本っ当納得いかねぇわ。どんだけ頑張って成果あげても、何もなんねぇ…」と苛立っていたり。
朝も、「仕事行きたくねぇなぁ」となかなか起きてこなかったり、家を出ても私をバイクの後ろに乗せて遠回りしてコンビニに寄ったり、また遠回りして私を家まで送り届けたりしていたけれど。
もう最近では。
淡々と、ロボットのように色々なことをこなしている。
たまに、遠い目をしながら、
「何だろうな…何やってんだろうな…」
と呟く宇髄さんを、ただ見ているだけしかできなくて苦しかった。
つづく+27
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