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13946. 匿名 2024/05/07(火) 22:53:12
>>13896《ア・ポステリオリ》15
⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け(※元カノの話してます)
そして、新学期。私は三年生になった。
宇髄さんは、営業課からの移動は叶わず「まぁ、そんなうまくはいかねぇわな」と言って笑っていたけれど。
心からの笑顔ではないことは、いつも側にいるからわかってしまう。
────でも、その表情が。
仕事が思うようにいかないからなのか。
桜が咲いて、彼女のことを思い出しているからなのか。
私には、わからない。
❀ ❀ ❀ ❀ ❀
少しずつ周りが就活を始めるようになって、乗り遅れまいと私も情報を集め始めた。
宇髄さんはよく仕事を持ち帰ってくるようになって、週末はバイクに乗って出掛けるより、家で過ごすことが多くなってきている。
「何してんの?」
リビングのテーブルでノートパソコンを開いている宇髄さんの隣で私も作業を始めると、ボールペンを動かす私の手元を覗き込まれた。
「うちの学科の卒業生の就職先メモしてきたから、色々調べてる。インターンシップにも参加したいから、そういうのやってるかなぁとか」
「へぇ、懐かしいな。でも俺こういうのもう二年の夏にはしてたけど」
「えー、出遅れちゃったかな。ねぇ、何かアドバイスとかない?」
「アドバイスねぇ…」
そう言ったっきり、宇髄さんの動きが止まる。
「どうしたの?」
「あー、いや。なんかデジャヴって思ったら、同じ会話、彼女としたな…って思い出して」
「デジャヴ…?」
「お前見てると、あの頃の俺こんな感じだったのかな…とか、彼女もこんな気持ちで俺のこと見てたのかな…とか、今思っちまったわけ」
「そういうの、追体験って言うんだっけ?」
「何それ?」
就活生向けインターンシップ情報を検索したスマホの画面とノートを交互に見ながらペンを走らせつつ、宇髄さんに説明する。
「今、私がその時の宇髄さんと同じことしてるでしょ?で、宇髄さんは、その時の彼女の立場で私を見てる。これって、当時の宇髄さんと彼女の状況が、私と宇髄さんで再現されてるわけじゃない?」
「んー、まぁそうだな」
「こういう再現された状況とか映画の映像とかを観て、他の人の気持ちを体験できたりすることを…」
顔を上げて「追体験って言うらしいよ」と言いかけて。宇髄さんの表情を見て、言えなかった。
宇髄さんが見たこともないくらい優しい表情で、私が書いたメモを目で追っていたから。
つづく+25
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13951. 匿名 2024/05/07(火) 22:57:10
>>13946《ア・ポステリオリ》16
⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け(※元カノの話してます)
持っていたペンを仕舞って、ノートを閉じた。
「…ん?どうした?」
「あ…あとはまた今度にしよっかな」
「そ?じゃあもう寝るか。明日早いしな」
「そうだね。歯磨きしてくる」
何気ない風を装ってバッグの中にノートとペンケースを入れ込んでから、洗面所へ向かった。
さっき。
私を見て、宇髄さんが彼女といた頃の自分を思い出して。そして、彼女の気持ちをなぞっていたとしたら…
これ以上、彼女とのことを思い出したり思い出に浸ってあんな顔をするのをやめて欲しくて、慌てて作業を中断した。
この気持ちを言葉で表現すると、紛れもなく『嫉妬』。
いつから…?いつから私こうだった…?
でも。
バイクの後ろでバランスを取るのも慣れたのに、まだ宇髄さんの背中にぴったりくっついて、お腹に腕を回してぎゅっとしているのは────
そういう気持ちを見ないふりをして。
気付かないふりをしていたけれど。
初めてバイクの後ろに乗った日から、宇髄さんの背中の体温に触れると、なんとも言えない心地良さと高揚感を得ていた私の身体は最初から。
宇髄さんを“友達”とは認識していなかったのかもしれない。
そこに。やっとと言うべきか。
────心と頭が追いついた。
宇髄さんへの気持ちを自覚してしまったからか、桜の季節が近付くと、私まで胸が苦しくなってしまうようになった。
❀ ❀ ❀ ❀ ❀
春。私は四年生になった。
宇髄さんが慕っていた営業課の課長は異動になって新しい課長が来たらしく、その課長と馬が合わないとボヤくことが増えた。
煙草を吸う回数も増えたのは春だからだと思っていたけれど、桜の樹々が青々とした葉を茂らす頃も、落ち着かなくて。
そのまま、夏になった。
つづく
(コメントありがとうございます❀)+22
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