ガールズちゃんねる
  • 13936. 匿名 2024/05/07(火) 22:39:35 

    >>13915 つづき ⚠️
    「チョコが溶けるその前に」20

    「酷くないですか?小蝿ですよ、小蝿!たしかに私はうるさいかもしれないですけど、元気と言ってほしいですよ」
    「ガル子さん、処置が上手になりましたね。さっきの隊士の傷、綺麗に縫えてます」
    「やったー!だいぶ慣れてきました」
    「他の隊士たちが言ってましたよ、あなたに処置してもらうと明るい気持ちになれるって」
    「そんなぁ、褒め過ぎですよ〜」
    事後処理中にふいにモブ原さんに褒められて、コバエと言われた後だけに余計嬉しくなった。
    「ただでさえ鬼殺の現場は壮絶です。病んで辞めていく者もいます。そんな中であなたの明るさが救いになっているんですよ」
    過酷な任務で、こんな私でもそんなふうに役に立てていると思うと嬉しかった。
    モブ原さんはこうしてちょくちょく褒めてくれる。私だけじゃない、他の隊士や隠にもそうだ。
    「モブ原さんて、絶対モテますよね。人たらしというか」
    「そんな事ないですよ。私なんて全然」
    「嘘だ。こないだ見かけましたよ、隠の女の子に告白されてるところ。どうして断っちゃったんですか、もったいない。あの子、布を取るとすごい綺麗な子ですよ?」
    「…わかってないですね、ガル子さんは」
    「え?」
    「なんでもないです。さ、次の現場に行きましょう。撤収です」
    「はーい!…ん?」
    「どうしました?」
    「…いえ!なんでもないです」
    まただ。最近感じる妙な視線を、背中に感じた。

    「誰かに見られてる?気のせいだろう」
    「気のせいじゃないです!なんか、こう…じっとりとした視線を感じるんですよ」
    「俺と一緒だからじゃないか?」
    「…冨岡さんに相談した私が悪かったです、失礼します」
    「待て。念のため、今日の任務は休め」
    「なんでですか、私はこれでも重宝されてるんですからね?私の手当てを待ってる人たちがたくさんいるんですよ」
    「今夜は屋敷から一歩も出るなよ」
    「聞いてます?」

    いきなり休めと言われて、広い屋敷で1人暇を持て余していた。
    包帯も巻き終わったし、薬箱の中身に不備もない。掃除は終わってるし…とそこまで考えたところで、思いついてしまった。
    「ちょっとだけなら、いいよね」

    バチが当たったんだと思う。
    屋敷を出るなという言いつけを守らなかったから。最近仕事を褒められて驕っていたから。
    そして、モブ乃さんの手紙を早く渡さなかったから。

    ごめんなさい、言いつけを守らなくて。あなたの好物を作りたくて、ちょっと買い物に出てしまったんだ。今の私には、これぐらいしか出来ないから。

    私の背中には、一生消えない傷が残った。

    つづく

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  • 13937. 匿名 2024/05/07(火) 22:42:59 

    >>13936
    続きが気になります…

    +19

    -1

  • 14462. 匿名 2024/05/08(水) 22:41:08 

    >>13936 つづき ⚠️
    「チョコが溶けるその前に」21

    夢を見た。真っ暗で何も見えない夢だ。
    声は出ず、身体が鉛のように重い。まるで拘束され暗い箱に入れられたような感覚に、ついに地獄へ落ちたのかと思った。

    だって私はずるい人間だから

    ごめんなさい
    もう良い子にするから
    あの人のことは忘れるから

    「ごめ、…ん、なさ……」
    「ガル子さん!!」
    わずかに開いた目に光が飛び込んできた瞬間、背中に強烈な痛みが走った。
    「大丈夫ですか」
    「モブ原さん…?私…」
    「なぜ屋敷から出た?」
    私の傍らに座るモブ原さんの後ろに、壁に背をつけ腕を組む冨岡さんの姿が見えた。
    「出るなと言ったはずだ」
    「…それは……」
    口調は静かだけど厳しい表情の冨岡さんに、言葉が続かない。
    「言う事を聞けないなら、もう屋敷には置いておけない。どこへでも自由に行くといい」
    「ごめん、なさい…」
    「水柱、いま目覚めたばかりです、お説教は後にしましょう。どうか堪えてください」
    「──お館様に報告してくる」
    冨岡さんは鴉に合図をすると部屋を出ていった。
    「…水柱の気持ちも汲んであげてください。かなり心配されてました。背中、痛むでしょう。…鬼にやられました」
    「そうだったんですか…。誰かが、助けてくれたんですね…」
    「水柱です」
    「冨岡さんが…?」
    「間一髪でした。もし…水柱が屋敷に戻ると言わなかったらと思うと」
    「戻ると…言ったんですか?」
    「何か、胸騒ぎがしたようです。ガル子さん、誰かに見られている気がするとおっしゃっていたそうですね。おそらく、それが鬼だったようです」
    最近感じていた視線が鬼だったと知り、急に怖くなった。
    「鬼は本来、一人の人間にそこまで執着しないものです。が、例外もある。稀血の場合と、前も話しましたがモブ乃さんのような場合です」
    「私はどちらも当てはまらないですよ…?」
    「お館様や水柱のお見立てでは…おそらくガル子さんが未来の人間だからではないか、と」
    未来の人間、と言われて腑に落ちない顔をしていたのだろう、そんな私を見てモブ原さんは続けた。
    「鬼は人間の血筋がわかると言われています。あなたが、"本来ならこの時代に存在しない人間" だとわかったのではないかと。奴らは特別な人間を喰うことで普通の人間を喰うより鬼として強くなれると考えている。そして今回、あなたを襲ったことであなたの血の味を覚えてしまった。今後、再度狙われることは避けられないだろう、と…」
    「……でも、その鬼は冨岡さんが斬ったんですよね…?」
    「鬼は情報を共有します。一個体を斬ったところで同じです」
    「どうすれば…、」
    「あなたを、鬼から守る最も安全な方法があります」
    「…なんですか?」
    私の問いかけに、モブ原さんが一呼吸置いて言った。

    「ガル子さんを、未来に帰すことです」

    つづく

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