ガールズちゃんねる
  • 13915. 匿名 2024/05/07(火) 22:20:42 

    >>13435 つづき ⚠️
    「チョコが溶けるその前に」19

    自分の気持ちに蓋をすることに決めた私は、あれから毎日を忙しく過ごすことでなんとか気を紛らわせていた。

    「はいはい!冨岡さん!起きてください!布団干したいので!顔でも洗ってきてください!あ!ちょっと、そんなだらしない格好で部屋から出ないでください、髪もボッサボサじゃん!」

    「なんでそんな口の周りに必ずご飯粒付けるんですか?あ!洗ったばっかりの隊服に味噌汁こぼしちゃってる!もー、隊服洗うの大変なんだから勘弁してくださいよ」

    「あ、ちょうどいいところに!冨岡さん、そこの褌取ってください!あなたの褌!ついでに広げて干してもらえますか。あ!もっとぱんぱんしてシワもちゃんと伸ばしてくださいよ」
    「…ガル山」
    「なんですか?」
    「たくましくなったな」
    「そりゃ誰かさんのお世話が大変ですからね。今までモブ原さん1人でよくやってましたよ本当に。あまり迷惑かけないでください」
    「そうか。すまなかった」
    「…笑ってごまかしてもダメですよ」
    「笑ってない」
    「いま笑いましたよ、ニヤって」
    「見間違いだ」

    あれから冨岡さんはちょっとしたことに笑うようになった。
    女の人を屋敷に連れ込む事も無くなったし、あの街で遊ぶことも無くなった。たまに煙草は吸ってるみたいだけど、以前のような堕落した生活はしなくなった。彼の中で吹っ切れたのだろう。
    そのおかげで私と冨岡さんの「秘密の関係」も無くなったけど、あんな事しょっちゅうされてたらこっちの身が持たないからこれで良かった。でも。
    (…お願いだから笑いかけないでほしい)

    まだまだ吹っ切れていないのは、私のほうだ。

    「ちょっと、あなた。いいかしら」
    街でお使いをしていると、見知らぬ女性から声を掛けられた。
    「最近冨岡さんのお屋敷に伺っても会わせてもらえないのだけど、何故かしら?」
    「…あー、なんでですかね」
    「みんな言ってるわ。あの屋敷に五月蝿い小蝿みたいなのが居るって」
    「それは大変!駆除しないと」
    「嫌味が通じないわね、あなたの事よ」
    「失礼ですけど、あなたの他に会われてる女性がいるのでは?」
    「なんですって」
    「とにかく私は忙しいので失礼します」  
    冨岡さんが女遊びをしなくなった代わりに、こうして私が絡まれるようになった。ちなみに屋敷に来る女の人たちを追い返してるのはモブ原さんで、私は何度かそこに居合わせただけだ。
    (まぁ、急に会えなくなったらキツイよね、そりゃ…事情も知らないし)
    「あ、やば、暗くなってきちゃった。急がなきゃ」
    ふと、帰り道を急ぐ私の背後に何か気配を感じた。じりじりと近づいてくるそれに、足を止めて振り返った。
    「あのー、しつこいですよ、私は急いでるんです!……アレ?」
    いま確かに感じた気配は、振り返った瞬間消えていた。
    「…気のせいか」

    自分が鬼に狙われる事になるなんて、この時はまだ知らなかった。

    つづく

    +29

    -5

  • 13921. 匿名 2024/05/07(火) 22:25:31 

    >>13915

    ガル子、ピンチの予感💦
    それから義勇さんの微笑&煙草咥える姿想像したらぶっ刺さって寝られないんですが!?

    +21

    -2

  • 13928. 匿名 2024/05/07(火) 22:32:22 

    >>13915
    義勇さんにキュン♡

    ってガル子ぉぉーー💦続き楽しみにしてます!

    +18

    -3

  • 13929. 匿名 2024/05/07(火) 22:33:21 

    >>13915
    冨岡さんの世話を焼くがる子ちゃん好き!

    +20

    -2

  • 13936. 匿名 2024/05/07(火) 22:39:35 

    >>13915 つづき ⚠️
    「チョコが溶けるその前に」20

    「酷くないですか?小蝿ですよ、小蝿!たしかに私はうるさいかもしれないですけど、元気と言ってほしいですよ」
    「ガル子さん、処置が上手になりましたね。さっきの隊士の傷、綺麗に縫えてます」
    「やったー!だいぶ慣れてきました」
    「他の隊士たちが言ってましたよ、あなたに処置してもらうと明るい気持ちになれるって」
    「そんなぁ、褒め過ぎですよ〜」
    事後処理中にふいにモブ原さんに褒められて、コバエと言われた後だけに余計嬉しくなった。
    「ただでさえ鬼殺の現場は壮絶です。病んで辞めていく者もいます。そんな中であなたの明るさが救いになっているんですよ」
    過酷な任務で、こんな私でもそんなふうに役に立てていると思うと嬉しかった。
    モブ原さんはこうしてちょくちょく褒めてくれる。私だけじゃない、他の隊士や隠にもそうだ。
    「モブ原さんて、絶対モテますよね。人たらしというか」
    「そんな事ないですよ。私なんて全然」
    「嘘だ。こないだ見かけましたよ、隠の女の子に告白されてるところ。どうして断っちゃったんですか、もったいない。あの子、布を取るとすごい綺麗な子ですよ?」
    「…わかってないですね、ガル子さんは」
    「え?」
    「なんでもないです。さ、次の現場に行きましょう。撤収です」
    「はーい!…ん?」
    「どうしました?」
    「…いえ!なんでもないです」
    まただ。最近感じる妙な視線を、背中に感じた。

    「誰かに見られてる?気のせいだろう」
    「気のせいじゃないです!なんか、こう…じっとりとした視線を感じるんですよ」
    「俺と一緒だからじゃないか?」
    「…冨岡さんに相談した私が悪かったです、失礼します」
    「待て。念のため、今日の任務は休め」
    「なんでですか、私はこれでも重宝されてるんですからね?私の手当てを待ってる人たちがたくさんいるんですよ」
    「今夜は屋敷から一歩も出るなよ」
    「聞いてます?」

    いきなり休めと言われて、広い屋敷で1人暇を持て余していた。
    包帯も巻き終わったし、薬箱の中身に不備もない。掃除は終わってるし…とそこまで考えたところで、思いついてしまった。
    「ちょっとだけなら、いいよね」

    バチが当たったんだと思う。
    屋敷を出るなという言いつけを守らなかったから。最近仕事を褒められて驕っていたから。
    そして、モブ乃さんの手紙を早く渡さなかったから。

    ごめんなさい、言いつけを守らなくて。あなたの好物を作りたくて、ちょっと買い物に出てしまったんだ。今の私には、これぐらいしか出来ないから。

    私の背中には、一生消えない傷が残った。

    つづく

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