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13843. 匿名 2024/05/07(火) 21:20:27
>>13387⚠️解釈⚠️見切り発車⚠️自萌え
年上の後輩📿⑪
スーツを着たままのモブ太と、すっぴんで部屋着の、頬を手のひらの形に赤く腫らした私の組み合わせは、診察室で浮きに浮いていた。
「最終的には治療はなくなると言ってもさ、何年もかかるよな…俺、出張多いからなぁ」
「私が見るよ。」
糖尿病ではあったけど、徐々にインスリン治療を減らしていけるまだ希望のある症状だった。注射を打たれた姫ちゃんはモブ太の膝で穏やかに眠っている。
「助かる。でもガル子も忙しいよな」
「大きな仕事は終わったから、大丈夫」
「ああ…昨日はそれの飲み会だったんだっけ」
ぶつ切りの会話を時々交わしながら、私たちは不吉な空気を診察室に撒き散らし、みんな息を詰めて見守っているようだった。
「お前があいつと寝るわけないよな」
モブ太が妙にはっきりした声を出したので、後ろにいるご婦人たちが小さな会話をぴたりとやめた。
「あいつだろ、目聡すぎる後輩。出世が横取りされそうって言ってた。」
「…うん、その後輩。たぶん…ううん、確実に負けた。」
「やっぱり。ごめんな。そうだよな…」
彼が私の肩を寄せて、頭にキスをした。どんどんクリアに、鮮明になっていくそれを、無視することは出来なくなった。
「モブ太」
「なに?」
「今もちょっと吐き気がする」
「かなり飲まされたな」
結局、この人から大丈夫かという一言は出てこないのだ。姫ちゃんのようにこの人に大事にされたいと、願っていた頃があった。大事にされていた頃があった。
目を閉じると、一瞬だけ、悲鳴嶼くんが心配そうに目を潤ませる姿が浮かんだ
「別れてくれる?」
名前が呼ばれて、私は彼に抱かれている姫ちゃんをそっと取り上げ、窓口に向かった。
いくらでも殴られていいと思ったけれど、呆然として動けずにいる彼を見て、私もずっと彼を大事にしていなかったことに気づいた。
私たち二人も、病にかかっている
腕の中の姫ちゃんの寝息だけが、ちいさく健やかであたたかかった
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13849. 匿名 2024/05/07(火) 21:27:45
>>13843⚠️解釈⚠️見切り発車⚠️自萌え⚠️😼社長。お題>>833同じシャツ、そういうことにしといてください
年上の後輩📿⑫
「まさかと思うが俺の会社内で手を出したりしてないよな?」
昨日と同じシャツを見て山本さんが目を見開いた。
「まさか。拾って頂いた恩人にそんなことをすると思いますか。」
「しかねない。手負いの熊みたいな隙を見せるんじゃない。俺の会社にはハンターの女しかいないからな、狙われるぞ。」
「手負いの熊を?恐ろしいな」
つい笑うと山本さんは片眉を吊り上げてみせた
「だいたい、俺は恩を売ってない。おまえが急に誘いに乗っただけだ。
あの開発計画、本格始動前に抜けた理由はなんだ?今夜吐いてもらうからな。」
「調べたんでしょう?その通りたいした理由はないですよ。元々、ある程度整えば抜ける予定でした。」
最後に会社を去る時に、追いかけてきた彼女のことを思い出した。
泣きそうな顔をしていたから、慌ててエレベーターに押し込めた。どうしました、と声をかけた途端に涙が落ちてしまった。
はあああ、とため息をついてデスクに腰かけた。
「なるほど女か。ろくでもない。」
「そういうことにしといてください。ボス、これ送っておくので確認をお願いします。」
「……やることやってるからといって俺はおまえを甘やかさないからな。
悲鳴嶼は使われているくらいが丁度いい。」
私のヨレた襟を整えると、山本さんは自分の席へスタスタ歩いていった。
エレベーターの中で、彼女ははらはらと涙をこぼしながらじっと私を見ていた。こんなに無防備なひとだっただろうか。タイムリミットのあるエレベーター内で先に根をあげたのは自分だった。
「…そんな顔をしたら駄目だ。あなたは他の男のものなんだから。」
目を瞬かせて、恥じ入るように下を向いた彼女が弱々しく呟く
「どこにいくの」
「前から約束しているところがあって、そこへ。」
「もう会えないの」
見なくてもわかる、ぐちゃぐちゃに泣いてメイクは落ちているだろう。
「私はあなたを、出会う前から知っています」
振り向いて、顔を上げさせる。吸水性の悪いビジネスハンカチで擦らないように彼女の顔を拭った。
別系列の女性幹部となる枠で採用されていた彼女は、男たちの中で本当によく頑張っていた。社内冊子に取り上げられているところを度々見かけた。だがその頑張りは『そこまでのこと』だとも分かっていた。どんなに優秀だとしても、この会社では、女性ならば行けるところが限られている。
彼女が女性として初めての、そして異例のスピード出世を遂げ、彼女のために新しいポストが作られようとしていた。そのインタビュー記事が社内冊子に載った。
彼女はここまでだ。
新しいポストはそのために作られるものだ。悲しい気持ちになりながら読んでみると、ひとつの文に目が止まった。
『もう少し、もう少しだけと思いながら、毎日走っています。』
彼女も分かっている。わかっていながら足掻く姿に、強く惹かれた。
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