ガールズちゃんねる
  • 1380. 匿名 2024/04/14(日) 10:02:25 

    >>1047
    『燻し銀に憧れて』 第3話⚠️恋の始まり💎⚠️解釈違い

    「大丈夫?これ使って」
    マスターの手がお絞りとティッシュをそっと置いてくれるのが見えた。
    優しい。ここには優しい人と好きな絵と愛しかない。

    「うううぅ、ここに居たい…」
    「え?何だって?」
    「アタイ仕事辞める。ここで暮らしたい…ここで働いて毎日この絵をみていたい…マスター、バイト募集してない…?」

    グズグズ鼻をかみながら一縷の望みを託してみたけれど「うちは人雇えるほど儲かってないよ」と申し訳なさそうな声が聞こえた。
    あぁ…現実は甘くない…そう思って絶望の溜息をついた時、隣の席で彼がポツリと呟いた。

    「なぁ、良さそうな話があるんだけど」
    「…うぅ…なに?」
    「この絵のオッサン、スタッフ募集してるぜ」
    思わず跳ねるように顔を上げる。涙も鼻水もそのままに。

    「え!え!スタッフ?!手伝えるの??」
    「スゲェ顔だな!まぁ落ち着けよ。この人今年個展の予定があって。加えて別件の仕事も相当忙しいらしくて、人手が欲しいんだって」

    急に目の前が明るくなった気がした。混沌とした私の未来に差す一筋の希望ッッ!!

    「個展!?ちょっ、ちょっと情報ほしい!」
    「この絵のイメージを膨らませて『青』のシリーズを描いてるらしい。仕事、興味ある?」
    「ある!め、ちゃ、く、ちゃ、ある!!」

    ちょっと待ってろ、とバッグから取り出したノートを一枚破り、何やら書き始めた。

    「求人の問い合わせ先な。…多分、事務スタッフの契約社員ってことになるんじゃないかなぁ」
    「うわわ嬉しい!燻し銀、お会いできるってこと?面接とか?緊張するぅぅ」

    ふと時計を見るともう終電の時間が迫っていることに気がついた。

    「あ、あ、あの、そろそろ帰らないと」
    「んん、俺からも話しておくから、詳しいことは週明けにココに電話してみて」

    小さく畳まれたメモを社会人らしく両手で受け取り、手早く一礼。
    「ありがとうございます!絶っっっ対、電話します!」
    お会計を終えると挨拶もそこそこに、駅に向かって走り出した。

    ──ぎりぎりで飛び乗った下りの最終電車。座席に座ると、思いの外酔いが回っていることに気付く。体が重い。でも心は軽やかだ。

    …それにしてもあの人、カッコよかったなぁ。今更ドキドキし始めた。この私があんな造形美の権化みたいな人とお酒を飲む日が来るなんて。泣いてしまったのは大失態だったけど、彼は嫌な顔もせず、優しく気取らず…これ以上ない助け舟を出してくれた。ちゃんとお詫びとお礼をしなきゃ。あの店の常連さんみたいだし、次はビールでもなんでも奢っちゃう。…んふふふ。
    思わず乙女のトキメキが表情に溢れ出たが、他の乗客に見つからないように慌てて下を向いた。

    (つづく)

    +27

    -4

  • 1382. 匿名 2024/04/14(日) 10:10:03 

    >>1380
    更新楽しみにしていました!
    ワクワクしてます♡

    +17

    -3

  • 1438. 匿名 2024/04/14(日) 13:04:24 

    >>1380
    2人の関係がどうなっていくのか楽しみだなぁ♡

    +16

    -1

  • 1529. 匿名 2024/04/14(日) 16:21:01 

    >>1380
    『燻し銀に憧れて』第4話(最終)⚠️恋の始まり💎⚠️解釈違い

    ─あ、そうだ。貰ったメモ。

    帰り際に慌ててポケットに突っ込んだメモを取り出す。そこには大きく書かれた『電話番号』と、それから…走り書きのメッセージ。

    『キメツ学園 美術科事務員 兼 助手 求人の件 ウズイからの紹介』
    『仕事中は地味スーツNG ピアスはド派手にOK』

    んんん?学園?ド派手?どういうこと??

    *********

    「…それにしてもあの子のプロファイリング?見当違いだったなぁ。思い込みも激しいし観察眼もないし、とんでもねぇわ」

    指先と手のひらにこびり付いた青いアクリル絵の具を撫でながら呟く。
    「でも絵を観る目は最高」

    「なんで宇髄くん、名乗らなかったの。話合わせちゃって」
    呆れ顔のマスターが2杯目のビールを手渡す。

    「あんなに自信満々に『この作者は燻し銀のイケオジに間違いない』とか言うから面白くなっちゃって、つい」
    「燻し銀なんて…派手な宇髄くんとは真逆だもんねぇ」
    「まぁ、俺の作品は燻し銀並に重厚だったってことだな。悪い気はしないよ」

    心なしか絵も誇らしげに見下ろしているように見える。

    「この絵を見ながら暮らしたいだなんて…最高の褒め言葉だねぇ」
    「久々に面と向かって褒められたなぁ!俺ちょっとスランプ気味だったけど、あの子の事をマスターから聞いて、また描き始めちゃったからね。青のシリーズ」

    青い世界に浸りながらグラスを傾ける。またこの作品と向き合い、青色と格闘することになるとは。褒められてこんなにやる気が出るなんて、まるで子供みたいだと自分でも思う。燻し銀どころか、まだまだ小学生並に単純なのだ。

    「で、採用なの?彼女」
    「もう俺の面接は終わってるからな。あとは学園との契約が上手くまとまるといいけど」
    自分の仕事場である美術室に彼女が訪ねてくる日を想像して、思わず口元が緩んだ。

    ──描き上がったばかりの新作をみせてやろう。真正面に特等席を用意してコーヒーでも淹れてやろうか。きっと喜んでくれるだろう。あの高めのテンションで子供みたいに目を輝かせて。
    これからは一番近い場所から沢山褒めてもらおうじゃないか。アイデアも気力も溢れ出して止まらない。

    あぁいや、待て待て。その前に挨拶だ。

    緊張の面持ちで「失礼します」と美術室のドアを開けた彼女になんて言おうか?きっと俺の顔をみても状況が飲み込めず、目を丸くして固まってしまうだろう?

    …最初の挨拶は「どうも燻し銀です」で決まりだな。      

    (おしまい) ✨🖼✨

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