ガールズちゃんねる
  • 13776. 匿名 2024/05/07(火) 20:09:04 

    >>13773
    4(これ、いつ終わるんだろう……)
    立夏。
    たくさん咲いていた薊と、利休草の葉、姫女苑などを庭から摘んで生けてみる。鍛錬の巻き添えにするよりは、切って生けた方が良いと思う。
    花を生ける気になる程度には、生活は穏やかだった。お互いの───たぶん、ほぼ小芭内の───遠慮と、師範の不干渉のおかげだろうか。
    体力作りを兼ねて皆で掃除をし、小芭内は庭の手入れ、私が食事作りをする。昼食と、他にも行き届かないことは昼間に通いの人が済ませてくれている。

    蛇が数日に一度しか食べないことは、この生活で知った。
    (小芭内が食べている物が気になったりしないのかしら)
    その小芭内は度を超えた少食のようだけれど。ようだ、というのは、彼の食事する姿を見ていないせいだ。
    「ねえ、鏑丸?お魚とお肉、これまで食べた中ではどれが美味しかった?」
    当然ながら、返事はない。
    「卵と、あとは、火を通した食べ物なんかは食べられるのかしら」
    「……本当に人扱いだな……蛇が火を通した食べ物を欲しがると思うのか?」
    「人は生肉でお腹を壊すでしょう?火を通した方が鏑丸のお腹にも優しいのかもしれない。それに、同じ食材でも食べ方が増えるのはいいことじゃない?」
    しかし鏑丸が焼いた魚に興味を示さないので、結局、このまま生の魚と肉を交互にあげることにした。
    小芭内は「鏑丸は自分の食べ物を獲る」と言うけれど、獲り損ねたらと思うと用意せずにはいられない。

    ***

    白露。
    弟弟子に、私の古い教科書を譲ってしばらく経つ。元が賢いのか、よく理解していると思う。
    「前から気になっていたのだけど、文字はどこで習ったの?」
    「ここに来る前に、炎柱邸で」
    「炎柱様はお優しい方ね」
    炎柱様からの紹介で来たのか。口元を隠していても、短く微笑んだのが分かった。慕っているのだろう。

    何事も、訊かれた時だけ教えている。やってみて分かったが、教えることは楽しい。そして、教えたことが覚えてもらえるのは嬉しいものなのだとも気付き、これ以降、私自身の学習意欲も上がった。

    +25

    -4

  • 13779. 匿名 2024/05/07(火) 20:11:57 

    >>13776
    好き!読みます!

    (共に頑張ろう_✍💦)

    +19

    -3

  • 13782. 匿名 2024/05/07(火) 20:18:06 

    >>13776
    二人の交流と成長を見守るように読んでいます!

    +23

    -3

  • 13794. 匿名 2024/05/07(火) 20:40:44 

    >>13776
    続き楽しみです

    +19

    -4

  • 13820. 匿名 2024/05/07(火) 21:04:48 

    >>13776
    本当に伊黒さんにこんな時期があったかもと思えて、日常が積み重なっていくのが読んでいて楽しいです。続き待機!

    +24

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  • 13916. 匿名 2024/05/07(火) 22:21:32 

    >>13776
    5
    小暑。
    「空に在る星のように、その巡りのように。全ては円くあれ。直は無理から、角は無駄から生まれる。人の有り様も、また然り」
    水の呼吸と直線的な動きの相性はあまり良くない、と師範は言う。真っ直ぐに刀を突き出す型もあるが、それを異質と考えているのだ。
    私は星が丸いのは物質がとんでもない力で「真っ直ぐ」その芯に引き寄せられた結果だし、物事を分けて考え出すときりがないと思っている。言わないだけで。

    少し影が差す縁側で弟弟子の鍛錬を見守る。と言えば聞こえはいいけれど、ただの見物と順番待ちだ。
    最初は木刀ですら緊張し過ぎていて、見ていられなかった。でも今、後ろに薊の美しい紫を従えて、真剣を構えるその姿勢は絵のようだ。

    その端正な姿に、妙な緊張を覚えて、目だけでなく思考まで逸らす。
    (薊、また随分増えているわ。そのうち師範が棘を触ってしまうかもしれないし、後で切って生けましょう)
    「薊の花も一盛り」という言葉があるように、薊は冴えない花と思われがちだけれど、私は結構好きだ。
    しかも薊は根を食べられる(※山ごぼう、菊ごぼう)。時期になったら収穫しよう。

    「───ガル子」
    「、はい!」
    複数の巻藁が立てられた。ここからは全集中だ。

     水の呼吸 参ノ型 流流舞い
    流れるような足捌きを意識しながら、移動しつつ巻藁を全て斬っていく。巻藁を斬る感覚は好きだと思う。日に日にざくりとした手応えが軽くなることも含めて。

    ***

    明治四十一年、立夏。
    ここに暮らすようになって、一年が経った。
    咲き始めた薊を、野茨や他の野花と一緒に、瑠璃紺の幅の狭い花器に生ける。可もなく不可もない出来だ。

    庭に行くと、弟弟子が巻藁に向かっていた。
    「全ての目指す形は環形だ。腕の軌道も然り。真横に腕を引くな。腕は弧を描くように開き、関節は軟らかく回す」

    (もう、肆ノ型……)
    真剣を握って一年足らず。いつの間にか彼の呼吸音は、師範と同じになっていた。
     水の呼吸 肆ノ型 打ち潮
    綺麗な型だ。同時に複数を纏めて斬ったのに、滑らかな巻藁の断面。間違いなく上手い。

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    -6