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13523. 匿名 2024/05/07(火) 07:12:36
>>8538
御曹司の有一郎君とド庶民ガル子の恋⑥※長文予定ですが話数&着地未定です
⚠️解釈違い⚠️むいくん出ます
車窓を流れる風景を見つめながら胸元のシートベルトをぎゅっと握りしめる。一体私はどこへ向かっているのだろう。聞きたいけど、聞けない。
そっと隣を盗み見る。有一郎君によく似た彼が、私を横目で見てふっと笑みを零した。
「ここって……」
見上げた先にそびえ立つのは、私でも知っている名前の有名なホテルだった。ぽかんと口を開けて見上げる私に彼がくすりと笑う。
「父が経営しているホテル」
「……え?」
「の、うちのひとつ」
彼は私を見つめて「うーん」と腕を組んで首を傾げた。
「さすがにこの格好じゃ目立つなぁ」
改めて自分の格好を見下ろす。エプロンを外しただけで来てしまったから、白いTシャツにくたびれたジーンズという恰好の私は、確かにこのホテルの前にただ立つのさえ相応しい姿とは言えない。
「まぁとにかく行こうか」
彼がぽんと私の背中を押す。微笑む顔は優しいのに不安は膨らんで広がっていくばかりだった。
天井から垂れ下がる豪奢な照明がキラキラと光って、その眩しさに眩暈がした。
「動き回らなくていいよ。隅の方で立っていればいいから」
言われるままにウェイターの格好に着替えた私は、ホテルの最上階にある巨大なホールの隅に、一人立っている。
ぼんやりと行き交う人々を眺めながら、一体どれくらいの数の人がいるのだろうと思う。
目の前を煌びやかなドレスを纏った女性が横切っていく。ドレスにあしらわれたスパンコールがチカチカと光って見えて、妙に目に焼き付いた。
「シンガポールに新しくオープンするホテルの着工記念パーティーなんだよね」
はっと気がつくといつの間にか隣に彼が立っていた。グラスを片手に遠くを見つめる横顔はどこか大人びて見える。
「シンガポール……」
あまりに耳慣れない言葉はすぐに頭の中に届いてこなかった。
「あ、兄さんだよ」
囁かれて顔を上げると、立派な髭を蓄えた男性と並んで談笑する有一郎君の姿があった。
「……知らない人みたい」
呟いた私を横目に見て「そう?」と彼が笑う。
「僕は同じだと思うけど。あそこでおじさん相手に愛想笑いする兄さんも、君の隣で真面目にお弁当を売っていた兄さんも」
とても大切な事を言われているような気がして、その横顔を見つめる。「あの」と口を開いた所で彼が「あ」と声を上げた。
彼の目線の先を追うと、有一郎君と視線がかち合った。慌てて顔を逸らした私に無一郎君が「遅いよ」と笑う。
「……どうしよう。どうすればいい?」
動揺する私の肩にそっと手が置かれる。
「君の好きにすればいい。思った通りにしていいんだよ」
その言葉に背中を押されるみたいに、気が付いたら駆け出していた。
今の私に出来る事は、ただ逃げる事だけだった。
でもそれは全部自分の心を守るためなのだと思うと、情けなくて泣きたくなった。
つづく+25
-8
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13546. 匿名 2024/05/07(火) 08:39:20
>>13523
読んでます。ど〜なるの〜:;(∩´﹏`∩);:+14
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13549. 匿名 2024/05/07(火) 08:52:31
>>13523
続き待ってました!楽しみにしてますね♡
+15
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13580. 匿名 2024/05/07(火) 11:11:07
>>13523
相手の世界へ入ると実感してしまうんだよね…頑張れ〜〜ハラハラしながら応援してます!+19
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13586. 匿名 2024/05/07(火) 11:28:01
>>13523
続き待ってました♡
どうなるの…+14
-4
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14072. 匿名 2024/05/08(水) 07:27:33
>>13523
御曹司の有一郎君とド庶民ガル子の恋⑦※長文予定ですが話数&着地未定です
⚠️解釈違い⚠️むいくん出ます⚠️モブ目線あり
「おい!」
後ろから腕を掴まれて、よろめきながらどうにか足を止める。ふらついた体でそれでも立っていられたのは、彼が強い力で腕を引き寄せたからだった。
慣れない革靴は走りにくくて、あっという間に追いつかれた。「痛い」と呟いたら彼が掴んでいた手をぱっと離した。一呼吸置いた後ゆっくりと振り返ると、改めて彼を見る。私はさっき無一郎君が言っていた言葉を思い出していた。「全然同じじゃない」と思う。
上質そうなスーツも手入れされた革靴も青い石が光るカフスボタンも、どれも彼にとても馴染んでいる。私の隣でエンプロをつけてお弁当を売っていた有一郎君と、少しも重ならなかった。
「……住む世界が違う人だったんだね」
それは最初から思っていた事だった。けれど私と彼は思っていたよりもずっと違う世界にいたらしい。その途方もない距離に眩暈がしそうだった。暫くの間黙っていた彼が、ため息をひとつ吐いて口を開く。
「例えば俺があの商店街の和菓子屋の息子だったらよかった?お前がどっかの大会社の令嬢だったらよかったのか?」
言葉に詰まる私を覗き込む顔は、今までで見た中で一番優しかった。
「俺は親が残した弁当屋を守ろうって一生懸命頑張ってるお前を好きになった」
涙で目の前が滲んでいく。たまらず両手で顔を覆った私の肩に、そっとあたたかい掌が置かれた。
「モブ原、悪いけど送ってやって」
彼の声にはっと顔を上げると、少し離れた所にモブ原さんが立っていた。
「本当はついててやりたいけど」肩に置かれていた手が少し名残惜しそうに離れていく。
「俺は“時透有一郎”を投げ出すことは出来ない」
いつの間にか隣に立っていたモブ原さんが、私の顔を覗き込んでそっと目を細める。
「まず着替えましょうか」
背中を押されて促されるままどうにか歩き出した。途中で何度も振り返ったけれど、有一郎君は最後まで一度もこちらを見てはくれなかった。
~*~*~*~
彼女を部屋に案内すると、一旦有一郎の元へ戻る事にした。フロアを足早に歩きながら彼女の赤い瞳を思い出して僅かに胸が痛んだ。
戻って来てみると有一郎の隣に無一郎が立っている。暗い夜空を切り取った巨大なガラス窓に、二人が並んで映っていた。
「兄さん、怒ってる?」
「別に。いつかは分かる事だ」
「それに」と有一郎が無一郎を見つめる。「ひとつしかないって分かったから、アイツを守ってやれる方法」
無一郎が子供のように首を傾げる。有一郎はふっと笑って窓の外に視線を戻した。
「俺が完璧な跡取になる事」
眼下に見えるのは煌びやかな夜の街。一見美しく見えるものが輝くその陰に、多くの犠牲がある事を彼らは知っている。
「誰にも文句は言わせない」
「兄さん……」
無一郎は感極まった表情で有一郎を見つめると勢いよく飛びついた。「やめろ」と引き剥がした有一郎が乱れた上着を羽織り直す。
「かっこいいな~。僕惚れちゃいそう」
「おい、ふざけてるだろ」
「まさか」
「その為ならお前の事も利用するぞ」
無一郎が有一郎の首元に手を伸ばしてネクタイを締め直した。兄を見つめる弟の瞳が鋭く光る。
「望むところ」
私はなぜか二人が幼かった頃の事を思い出していた。広大な庭を無邪気に走り回っていた二人は、いつの間にか多くのものを背負い、気安く笑い合うことなどなくなっていた。
時を戻すことも背負ったものを手放す事も不可能だろう。それでも、と二人の横顔を見つめる。窓に映る二人の姿が幼かった頃の彼らと重なって、私はひとり目を細めた。
つづく ※ゆっくり過ぎる連載にコメント頂き恐悦至極にございます😭 🍊の爽やかな香りが漂ってまいりましたが😂書けるところまでは書きたいと思います🙇+22
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