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13435. 匿名 2024/05/06(月) 23:33:17
>>12078 つづき ⚠️
「チョコが溶けるその前に」18
モブ乃さんの手紙と御守りは、文机の引き出しで今も眠ったままだ。
いっそ手紙を勝手に読んでしまいたい衝動に駆られた。もし、冨岡さんへの本当の気持ちが書いてあったらと思うと不安だった。それを読んだらきっと冨岡さんはモブ乃さんのところへ行ってしまう。そう思うと、どうしても渡せなかった。私はいつの間にこんなにずるい人間になったのだろう。
あれから冨岡さんは私のところへ来ることは無くなった。私と顔を合わせても何事も無かったような態度をされるたびに私はひどく落胆した。
きっと気まぐれであんな事したんだ。理由なんて無くて、たまたま側にちょうど良い捌け口がいて、でも抱くほどの魅力も無くて。ちょっと気が紛れたらそれで良かったんだ。どうせならとことん傷つけてほしいのに。
しばらく口にしていなかったチョコを久しぶりに食べた。元の世界から持ってきたやつだ。口の中で広がるチョコの甘さが、とげとげした心を幾分か癒してくれた。
以前の私は片思いしてばかりだったけど、ちょっとした事にときめいて毎日が楽しかった。
でも今は、苦しくて辛くて、どうしたらいいのかわからない。
恋がこんなに苦しいなんて知らなかった。
縁側でうたた寝しているこの人の大きな背中も、本来ならモブ乃さんのものなんだ。
私がいくら欲しくても決して手に入れることの出来ない背中にそっと触れると、その瞼がゆっくりと開けられた。
「起きてたんですか」
「…丁度、行こうと思ってた」
「どこに…?」
「ここに」
冨岡さんの手のひらによって後頭部を引き寄せられ、待ち焦がれた唇が私を捕らえた。久しぶりのキスは今まででいちばん優しく、いちばん痛かった。
「甘いな」と微笑む冨岡さんが寂しげで、私はたまらず手紙を差し出した。
「…冨岡さんが行かなきゃいけないのは、ここです」
終わらせよう、ちゃんと。この不毛な恋は私には荷が重過ぎる。
「…今ならまだ、間に合うはずです」
冨岡さんは差出人をちらりと見ると、中に目を通すこともせずにびりびりと破った。
「なんで…!?」
「もう終わったことだ」
「…でも!モブ乃さんは、本当は冨岡さんのことを…、」
「言うな」
「冨岡さん…!」
「俺はこの先、誰とも一緒になるつもりは無い。それは鬼殺隊に入った時から決めている。俺には幸せになる資格が無い。だが彼女は違う。彼女には幸せになる資格がある。その相手は俺じゃない。だから、これでいいんだ」
あなたはきっと気づいていない。それはモブ乃さんさえいれば幸せだと言っているのと同じだということに。
「…何故、お前が泣く」
私がなぜ泣いてるのかなんて、あなたはわからないだろう。ううん、わからないフリをしてくれてるのかもしれない。でも、それでいい。
私は自分の恋心を葬ることに決めた。
「どうして自分から辛いほうへいってしまうんですか。ガル子さんも、…水柱も」
モブ原さんが呆れたように溜息をつき、ハンカチを差し出してくれた。
「だから忠告したでしょう。水柱はやめておいたほうがいいと」
「…私、馬鹿みたいですよね」
「はい。…大馬鹿です」
そう言って私の背中をなでるモブ原さんの手が、あったかくて優しかった。
つづく+27
-5
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13442. 匿名 2024/05/06(月) 23:42:18
>>13435
読んでます♡
+21
-4
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13457. 匿名 2024/05/07(火) 00:01:34
>>13435
あぁ…言葉が出てこない…!!続き楽しみにして待ってます!!!+18
-3
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13541. 匿名 2024/05/07(火) 08:31:05
>>13435
あぁ、辛い。みんな辛い…。モブ原さんがいてくれてよかった🥲+15
-3
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13915. 匿名 2024/05/07(火) 22:20:42
>>13435 つづき ⚠️
「チョコが溶けるその前に」19
自分の気持ちに蓋をすることに決めた私は、あれから毎日を忙しく過ごすことでなんとか気を紛らわせていた。
「はいはい!冨岡さん!起きてください!布団干したいので!顔でも洗ってきてください!あ!ちょっと、そんなだらしない格好で部屋から出ないでください、髪もボッサボサじゃん!」
「なんでそんな口の周りに必ずご飯粒付けるんですか?あ!洗ったばっかりの隊服に味噌汁こぼしちゃってる!もー、隊服洗うの大変なんだから勘弁してくださいよ」
「あ、ちょうどいいところに!冨岡さん、そこの褌取ってください!あなたの褌!ついでに広げて干してもらえますか。あ!もっとぱんぱんしてシワもちゃんと伸ばしてくださいよ」
「…ガル山」
「なんですか?」
「たくましくなったな」
「そりゃ誰かさんのお世話が大変ですからね。今までモブ原さん1人でよくやってましたよ本当に。あまり迷惑かけないでください」
「そうか。すまなかった」
「…笑ってごまかしてもダメですよ」
「笑ってない」
「いま笑いましたよ、ニヤって」
「見間違いだ」
あれから冨岡さんはちょっとしたことに笑うようになった。
女の人を屋敷に連れ込む事も無くなったし、あの街で遊ぶことも無くなった。たまに煙草は吸ってるみたいだけど、以前のような堕落した生活はしなくなった。彼の中で吹っ切れたのだろう。
そのおかげで私と冨岡さんの「秘密の関係」も無くなったけど、あんな事しょっちゅうされてたらこっちの身が持たないからこれで良かった。でも。
(…お願いだから笑いかけないでほしい)
まだまだ吹っ切れていないのは、私のほうだ。
「ちょっと、あなた。いいかしら」
街でお使いをしていると、見知らぬ女性から声を掛けられた。
「最近冨岡さんのお屋敷に伺っても会わせてもらえないのだけど、何故かしら?」
「…あー、なんでですかね」
「みんな言ってるわ。あの屋敷に五月蝿い小蝿みたいなのが居るって」
「それは大変!駆除しないと」
「嫌味が通じないわね、あなたの事よ」
「失礼ですけど、あなたの他に会われてる女性がいるのでは?」
「なんですって」
「とにかく私は忙しいので失礼します」
冨岡さんが女遊びをしなくなった代わりに、こうして私が絡まれるようになった。ちなみに屋敷に来る女の人たちを追い返してるのはモブ原さんで、私は何度かそこに居合わせただけだ。
(まぁ、急に会えなくなったらキツイよね、そりゃ…事情も知らないし)
「あ、やば、暗くなってきちゃった。急がなきゃ」
ふと、帰り道を急ぐ私の背後に何か気配を感じた。じりじりと近づいてくるそれに、足を止めて振り返った。
「あのー、しつこいですよ、私は急いでるんです!……アレ?」
いま確かに感じた気配は、振り返った瞬間消えていた。
「…気のせいか」
自分が鬼に狙われる事になるなんて、この時はまだ知らなかった。
つづく+29
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