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13359. 匿名 2024/05/06(月) 22:25:30
>>13293⚠️大正軸🌫️己の趣味に全振り
『今宵、花嫁になる君へ』
第十四話
嫁入りしたはずの私が男装の霞さんと一緒に戻って来て、村は騒然となった
この村に続いていた因習と今回の一件を、村長はつまびらかに説明した
これまでに娘を嫁に出した家の嘆きは悲痛だった。しかし相手が鬼でなかったとしても、貧しさと引き換えに帰郷厳禁の嫁入りを受け入れていたこともまた、事実なのだった
人々はそんな村の空気を悔い、村人が施しに頼らずとも飢えることのないように、真剣に考え始めなければならないことを思い知らされた
無一郎の腕から下ろされたガル子にガル乃は駆け寄った
「ガル子…!良くぞ無事で…!私の代わりにあなたをこんな目に合わせてごめんなさい」
「ううん、私こそ、姉さんに何も話さず行ってしまって…」
ガル乃は首を振った
「ううん、私ね、あなたが何か隠していること、気づいていたの」
「え」
「この村には、毎年白無垢が届く娘がいるんだもの。もし私に届いたら…って、モブ郎さんと話したことがあるの。モブ郎さんは、お姉さんのモブ世さんが山向こうにお嫁に行っているでしょう?彼は仲の良かったモブ世さんが手紙一つ寄越さないのはおかしいと思っていた。そしたら今回、あんなに元気だったモブ子ちゃんが白無垢が届いたとたんに病気になったり、霞さんが養女に来たり、花嫁が変更になったりして、これはやはり何かおかしいのでは、と言うことになったのよ。それで私、モブ郎さんと相談して、嫁入りの日に合わせてお酒を献上の品として送ったの。お酒にね、生で食べるとお腹を壊すと言われる実を浸しておいたの。もし、あちらで監禁されるようなことがあったら、主がお腹を壊した隙に逃げ出せるかもしれないと考えたの。でも、まさか、まさか鬼だったなんて。腹痛を起こすお酒なんかじゃ太刀打ち出来るはずもなかったのに、そんなことも知らないであなたに危険な任務をさせていたなんて。本当にごめんなさい」
姉は一気に語ると私を抱きしめた
私は、山向こうに到着した時の主の様子を思い出した。酒を呑んで上機嫌で、ガル乃と名乗った私にお前はなかなか気が利く娘だと言っていた。あの時は気にもとめていなかったけど、あの時呑んでいたお酒は姉さんからの献上酒だったと言うこと?
「姉さん、そのお酒に入れた実って、なんの実?」
「これよ」
彼女は袂から、手のひらからはみ出すほどの大きな鞘を取り出して私に見せた
「これは…」
「藤の実よ。生で食べるとお腹を壊すの」
「藤…!無一郎くんが私に預けた御守も藤だった。そうなの、そういうことだったのね…!」
私は姉さんに抱きついた
「姉さん…!姉さんありがとう。私、自分が姉さんを助けるつもりで花嫁になったけど、姉さんも私を助けてくれていたのね。無一郎くんは、鬼は思ったより弱かったって言ってたの。藤は鬼には毒になるとも。姉さんのおかげだわ!!」
「そんな…!あなたと、霞…無一郎さんのおかげよ。村長さんが事に気づいて鬼狩り様に相談してくれなかったら、モブ子ちゃんはおろか若者の少ないこの村で、私もガル子も数年のうちに毒牙にかかっているところだったわ」
私たちは互いの無事を祝って肩を抱き合い、感謝と安堵の涙を流した
騒動がようやく落ち着き、村人たちが前を向いて歩き始めた頃
ガル子の家に、再び白無垢が届いた
(つづく)+22
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13371. 匿名 2024/05/06(月) 22:36:01
>>13359
読んでます……!
どういうこと!?ハラハラ💦+13
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13383. 匿名 2024/05/06(月) 22:45:06
>>13359
あー、お姉さんの愛情も感じるなぁ😢
また気になる展開に😇続きも楽しみです。+16
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13738. 匿名 2024/05/07(火) 18:42:38
>>13359⚠️大正軸🌫️己の趣味に全振り
『今宵、花嫁になる君へ』
第十五話(最終回)
ガル田ガル子様と記された大きな包みから白無垢が現れたのを見て、私は悲鳴をあげた
どうして…?!山向こうの主は居なくなったはずなのに…!村長さんは、村長さんは何か知っているの?
兎にも角にも村長の家に向かおうと支度をして家を出ると、そこには無一郎くんが立っていた。やっぱりまた何かあったのね…?!
「無一郎くん…!来てくれたのね!どうしよう、また白無垢が届いたの。あの鬼が甦ったの?無一郎くんが倒したはずなのに」
必死で捲し立てる私の慌て振りとは対照的に、彼は穏やかな表情で微笑んだ
「うん、その白無垢は君のものだよ。でも、送り主は、僕」
「えっ」
「驚いた?」
私は思考がまとまらず、その場に立ち尽くした
「うん、驚いているみたいだね。じゃあ質問を変えるけど」
「嫌?」
その問いには私は即座に反応し、ぶんぶんと首を振った
「い、嫌じゃない。嫌なわけない。でも、無一郎くんは結婚しないって…」
「そう思ってたんだけど、気が変わったんだ」
「ど、どうして?」
まだ飲み込めない様子の私に、彼は包み込むような優しい眼差しを向けた
「だって僕たちは、幸せを味わうために生まれ来たんでしょ?」
あ…
姉に白無垢が届いた夜の、池での会話を思い出す
「それに花嫁姿の君はとても綺麗だったから。あんな奴の白無垢じゃなくて、僕からの白無垢……受け取ってもらえますか?」
「…い、いいの?……本当に…っ…」
ちゃんと返事をしたいのに、最後まで言えずに私は両手で目頭を抑える。憧れの白無垢を、本当に着られる日が来るなんて。囮や身代わりなんかじゃなく、恋しい人から贈られた白無垢を
彼が私に歩み寄る
あの温かい手のひらが、再び私の背中を撫でていく。私の耳に甘く優しい声が届く
「もう、決まりだよ。君は、僕の花嫁だ」
終+33
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