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13356. 匿名 2024/05/06(月) 22:24:41
>>12658
🍃恋とパンとコーヒーと🥐☕⑭
⚠🐚匂わせ程度
日曜日、仕事を終えて帰ると部屋に明かりが灯っていた。
「よォ、おかえり」
ドアを開けた私を出迎えたのは、上半身裸でタオルを首に掛け、濡れ髪のまま発泡酒を飲む実弥だった。
実弥のスニーカー、ジャケット、腕時計、シャンプー…全部が元通りの場所に戻っている。
一度は失った、なんて事はない日常の、見慣れていたはずの光景。今またここにある事が、奇跡みたいに思えた。
「…ただいま…っ!」
噛み締める様に言って、じわっと視界が滲む。
「ん」と実弥が私に向けて両手を広げた。
私のほんの一瞬の躊躇いを察した実弥は、私の腕を掴んでグイッと引き寄せた。
「うわっ」
すっぽりと実弥の腕の中に収まる。鼻先でシャンプーの香りが濃くなって、まるで自分がカブトムシにでもなったみたいな、甘やかな感情が胸を満たした。
でも…嬉しいんだけど、幸せなんだけと…実弥は上半身裸だ。今頬が触れている胸筋も、腕を回している背中も、素肌だ。高めの体温がダイレクトに伝わって来るし、サラッとした素肌の感触に、正に「顔と手のやり場に困る」状態。
「もうっ…裸でハグって!」
「俺も思ったけどもう遅せェ」
むぎゅ、と抱き締める圧が強くなった。
「…実弥も、おかえり」
「あぁ、ただいま」
私はこの瞬間、私と実弥の足元から伸びる根っこが、絡まりながら脈々とこの部屋に深く根を張った気がした。
実弥が土鍋で炊いた豆ご飯は、ほんのり塩気と昆布の旨みが効いていて、空きっ腹にじんわりと沁みた。
「ん美味ひぃ…」
「このアジの干物ほぐして混ぜたら美味かったぜェ」
「何それ!お代わりしてそれ食べる!!」
実弥は「あいよォ」と返事をして、お茶碗にご飯をよそってくれた。
「明日の朝は一緒に食おうな」
そう言って、頬杖をついて微笑んだ。
·····ドキッとした。
これまでだって、何度もひとつ屋根の下で夜を超え、朝を迎えてきた。なのに、実弥の何気ない一言が特別に感じてしまう。
明日の朝の私達は、「境界線」の向こう側にいるんだろうか。
そんな事をぐるぐると考えていたら、ご飯が喉に詰まって盛大にむせた。
…死ぬかと思った。
「なーに考えてんだバーカ」
実弥は私の背中を擦りながら、心底可笑しそうに笑った。
🥐続く☕
+23
-11
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13368. 匿名 2024/05/06(月) 22:32:54
>>13356
ずっとドキドキしながら読んでます
実弥の肌の感触なんて想像しただけでやばい寝られない+12
-5
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13388. 匿名 2024/05/06(月) 22:49:27
>>13356
幸せの訪れ…☺️+12
-2
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13395. 匿名 2024/05/06(月) 22:54:17
>>13356
⚠🐚🍃🥐☕
読んでるよォ+12
-4
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13428. 匿名 2024/05/06(月) 23:23:46
>>13356
めっちゃ土器土器しながら追ってる他推し。幸せ過ぎて土土器…+15
-4
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13941. 匿名 2024/05/07(火) 22:51:09
>>13356
🍃恋とパンとコーヒーと🥐☕⑮
⚠🐚手前
そう言えば、今日はモブ原さんから謝罪の連絡があった。夜の道路端に具合の悪い女性を置き去りにするなんて、どうかしていた、と。そして、元カノを引きずっている事も。元カノと私を比べてしまって、結果ダラダラと未練を募らせ、上手くいかない仕事のイライラまで持ち込んで、嫌な思いをさせて本当に申し訳なかった、と話してくれた。「あなたは素敵な女性です」と付け加えて。
お風呂から上がって、冷蔵庫からマスカット味のアイスキャンディを1つ選んでリビングへ向かう。
実弥は定位置の人をダメにするクッションに座って、サスペンス映画を見ていた。隣に腰を下ろそうとしたら、実弥は「ここ」と、胡座をかいた自分の脚をぽんぽんと叩いた。
「え?!そこ?!」
そこに私が座ったら、所謂「バックハグ」な状態になる訳で。なったら…なんと言うか、そのままイチャコラ的な流れになるのではとゴニョニョ…
「いーから早く来いやァ」
もじもじしていたらグイッと手を引っ張られて、実弥の脚の間にぽすんと収まった。後ろから腕を回されて、左肩の上に実弥の顎が乗った。
·····ヤバい。
実弥はTシャツは着ているけど、背面が密着し過ぎて息が出来ない。身体が熱いのは、自分の体温なのか実弥の体温なのか…。
何かこの前から一気に距離詰めて来てるけど、実弥は何でそんなに余裕なんだろう。やっぱり経験の差なのかなぁ。
(·····あ)
違う。実弥もドキドキしてる。
背中越しに感じる実弥の鼓動が心地良くて、少し後ろに身体を預けてみる。早鐘を打つ2つの心臓が、共鳴してるみたいだ。
(実弥も同じなんだ…)
それに気付いて、少し肩の力を抜いた。
結局、「相性」なんだろうなと思う。モブ原さんだって元は悪い人ではない。お互いが自分らしくいられて、尊重し合えて、居心地の良い関係でいられる相手が、私ではなかったと言うだけの事。
実弥にとってのそれが、私だったらいいなと今は思う。
「それ、うめェ?」
実弥が私が持っているアイスキャンディを指差す。
「うん、美味しいよ、食べる?」
私が言うと、棒を持っている私の手ごと掴んで口元へ持って行き、ぺろんと舐めた。
「ん、うめェ」
実弥は私の手を離すと、またテレビ画面に目をやった。
私は映画の内容なんか全く頭に入って来ない。
実弥の舌がマスカット色をしたアイスの上を滑る様が、すっかり網膜に焼き付いてしまったから。
(…見てはイケナイものを見てしまった気がする…)
暫くアイスを持ったままぼーっと呆けていた。溶け始めた雫が指にぽたりと垂れて、慌てて口に含んだ。
実弥の息づかいが耳朶をくすぐる。
心臓が駆け足し過ぎて、そろそろ息切れするかもしれない…
そこで、私はある事に気付いて軽い眩暈を覚えた。今からこんなんで私の心臓はもつんだろうか。私達はまだ─────キスすらしていない。
🥐続く☕(焦💦)
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