-
13293. 匿名 2024/05/06(月) 21:42:51
>>12789⚠️大正軸🌫️己の趣味に全振り
『今宵、花嫁になる君へ』
第十三話
鬼との戦闘が始まった…!
私は震える指で藤守りを握りしめ、岩の陰に身を隠した。キィンという剣の音、鬼が何か喚く声、何がどうなっているのか訳が分からない。私は岩陰から様子を伺い目を凝らしたが、辺り一面に霞が立ち込め何も見ることが出来なかった。無一郎くん、どうかお願い、無事でいて…!
目を瞑り、手を合わせて祈り始めた時、耳をつんざくような叫び声が聞こえた
「無一郎くん!!」
思わず立ち上がって叫ぶと、霞がサァと晴れてきて、彼の姿が浮かび上がった。鬼は、居ない?彼は、無事なのね…?!鬼は倒したの?あの屈強そうな大男を、こんなにも早く
彼は血振りをして刀を鞘に納めると、ガル子!と私の名前を呼んで飛ぶように駆けつけた。その頬から一筋血が流れている
「無一郎くんっ!血が…!」
「ガル子は大丈夫?」
「私は大丈夫よ。どこも、なんともない。無一郎くんは血が出てるわ。待って…」
私はそう言って袂から絹を出した
「痛い?他に怪我は?」
私が彼の頬の血を拭うと、俺は大丈夫だよと笑顔を見せた
「鬼は?山向こうの主は死んだの?」
「うん。でも意外なほどにあっけなかった。十二鬼月ではないとは言え、老婆にしても、もう少し手強いかと思っていたけど。これだけ長いこと被害をもたらしていたのに…もっと早く討伐出来なかったのが悔やまれるな…」
「ううん、ありがとう…本当にありがとう…!これでもう、悲しむ花嫁はいないわ。あいつ…あいつね、祝言さえやらなかったのよ」
「そこ?!」
「そうよ、祝言は、女の子の憧れなんだから、喰うにしても、せめて祝言の真似事くらいやってからにしなさいよ…っ」
かつて同じ思いをした村の女の子への同情なのか、悔しさなのか、それとも鬼への怒りなのか、事が終わった安堵なのか分からない。分からないまま私は毒づき、涙を溢れさせた
彼はそんな私の背中をさすってくれた。そのあたたかさに感情を止められなくなる
「私、私ね…囮だって分かってても、花嫁衣装着たら、やっぱり嬉しい気持ちになったの。やっぱり、憧れだなぁって。みんなも、きっと嬉しかったはずなのに、祝言も無く着いたとたんにあの鬼にやられただなんて」
「悔しい…っ、すごく、悔しいっ」
私はその場にしゃがみ込み、生まれて初めて施された化粧をぐちゃぐちゃにして泣きじゃくった
彼はしばらく背中を撫でてくれていたたが、「うん、でも」と呟いて、私を覗き込んだ
「俺はガル子が祝言なんてあげなくて良かったよ」
その言葉に、彼を見上げると、彼はフフッとくすぐったそうに笑って「さぁ、帰ろう」と私を抱き上げた
(つづく)+26
-5
-
13313. 匿名 2024/05/06(月) 21:54:35
>>13293
さすが柱…あっという間に討伐完了…(惚れた)
>俺はガル子が祝言あげなくてよかったよ(意味深)
帰ろうと当然のようにガル子を抱き上げた(…🪦)+16
-3
-
13358. 匿名 2024/05/06(月) 22:24:55
>>13293
このお話のむいくんがかっこよくて…!
私も惚れた…。あ💦とっくに惚れてたんだった💦+18
-3
-
13359. 匿名 2024/05/06(月) 22:25:30
>>13293⚠️大正軸🌫️己の趣味に全振り
『今宵、花嫁になる君へ』
第十四話
嫁入りしたはずの私が男装の霞さんと一緒に戻って来て、村は騒然となった
この村に続いていた因習と今回の一件を、村長はつまびらかに説明した
これまでに娘を嫁に出した家の嘆きは悲痛だった。しかし相手が鬼でなかったとしても、貧しさと引き換えに帰郷厳禁の嫁入りを受け入れていたこともまた、事実なのだった
人々はそんな村の空気を悔い、村人が施しに頼らずとも飢えることのないように、真剣に考え始めなければならないことを思い知らされた
無一郎の腕から下ろされたガル子にガル乃は駆け寄った
「ガル子…!良くぞ無事で…!私の代わりにあなたをこんな目に合わせてごめんなさい」
「ううん、私こそ、姉さんに何も話さず行ってしまって…」
ガル乃は首を振った
「ううん、私ね、あなたが何か隠していること、気づいていたの」
「え」
「この村には、毎年白無垢が届く娘がいるんだもの。もし私に届いたら…って、モブ郎さんと話したことがあるの。モブ郎さんは、お姉さんのモブ世さんが山向こうにお嫁に行っているでしょう?彼は仲の良かったモブ世さんが手紙一つ寄越さないのはおかしいと思っていた。そしたら今回、あんなに元気だったモブ子ちゃんが白無垢が届いたとたんに病気になったり、霞さんが養女に来たり、花嫁が変更になったりして、これはやはり何かおかしいのでは、と言うことになったのよ。それで私、モブ郎さんと相談して、嫁入りの日に合わせてお酒を献上の品として送ったの。お酒にね、生で食べるとお腹を壊すと言われる実を浸しておいたの。もし、あちらで監禁されるようなことがあったら、主がお腹を壊した隙に逃げ出せるかもしれないと考えたの。でも、まさか、まさか鬼だったなんて。腹痛を起こすお酒なんかじゃ太刀打ち出来るはずもなかったのに、そんなことも知らないであなたに危険な任務をさせていたなんて。本当にごめんなさい」
姉は一気に語ると私を抱きしめた
私は、山向こうに到着した時の主の様子を思い出した。酒を呑んで上機嫌で、ガル乃と名乗った私にお前はなかなか気が利く娘だと言っていた。あの時は気にもとめていなかったけど、あの時呑んでいたお酒は姉さんからの献上酒だったと言うこと?
「姉さん、そのお酒に入れた実って、なんの実?」
「これよ」
彼女は袂から、手のひらからはみ出すほどの大きな鞘を取り出して私に見せた
「これは…」
「藤の実よ。生で食べるとお腹を壊すの」
「藤…!無一郎くんが私に預けた御守も藤だった。そうなの、そういうことだったのね…!」
私は姉さんに抱きついた
「姉さん…!姉さんありがとう。私、自分が姉さんを助けるつもりで花嫁になったけど、姉さんも私を助けてくれていたのね。無一郎くんは、鬼は思ったより弱かったって言ってたの。藤は鬼には毒になるとも。姉さんのおかげだわ!!」
「そんな…!あなたと、霞…無一郎さんのおかげよ。村長さんが事に気づいて鬼狩り様に相談してくれなかったら、モブ子ちゃんはおろか若者の少ないこの村で、私もガル子も数年のうちに毒牙にかかっているところだったわ」
私たちは互いの無事を祝って肩を抱き合い、感謝と安堵の涙を流した
騒動がようやく落ち着き、村人たちが前を向いて歩き始めた頃
ガル子の家に、再び白無垢が届いた
(つづく)+22
-8
削除すべき不適切なコメントとして通報しますか?
いいえ
通報する