ガールズちゃんねる
  • 13291. 匿名 2024/05/06(月) 21:42:18 

    >>12549《ア・ポステリオリ》11
    ⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け(※喫煙表現あり※元カノの話してます)

    そうやって、一年が穏やかに過ぎようとしていた頃。南の方での桜の開花を告げるニュースを聞いて、東京ももうすぐだろうと思うと少し心が華やいだのに。

    宇髄さんは。
    少しずつ、元気がないように見える日が増えて。
    少しずつ、煙草を吸う回数が増えて。

    私をバイクの後ろへ乗せて、海へ行く日が増えた。

    煙草を吸いながらぼうっと海を眺めて、ため息をつくように煙を吐いている。
    煙に慣れた私は隣に座って、同じように海を眺めてぼうっとしたり、拾った適当な大きさの流木で意味もなく砂をざくざくとかき混ぜたり。

    卒業式を終えた宇髄さんは、4月から社会人だ。新生活を控えてナーバスになっているんだろうか…。

    「煙草、いつから吸ってるの?」
    「何?身体に悪いからやめろって?」
    「違うよ。ただ気になっただけ」
    「……二年前ぐらいから」
    「そっかぁ…」

    煙草の灰を携帯灰皿に落としながら宇髄さんが、ふうっと煙を吐く。

    「正確に言えば、彼女と別れてからだな」

    “彼女”というのが、一年前初めて会って海に来た時に話していたフラれた相手のことを言っているのだと、頭の中で結びつくのに数秒掛かった。

    「ある時から、彼女からいつもとちげぇ匂いがすんなー、何だろうなー、なんて呑気に思ってて。で、もうその匂いが俺の中で彼女の匂いとして定着しちまったんだけど…。別れた後に気付いたんだけど、それがさ…これの匂いだったのよ」

    宇髄さんが、指の間で弄ぶ煙草に視線を落とす。

    「彼女が隠れて吸ってたのか、誰か他に吸うやつが、匂いが移るくらい側にいたのかわかんねぇけど…。
    隠れて吸ってたなら、そんなストレス抱えてたのに気付いて支えてやれなかったのがクソだせぇし、浮気とかだったなら……まぁ、そういうのもう考えたくねぇけど」

    煙草を見つめる宇髄さんの表情を見て、胸がぎゅっとなった。

    「二年前ってことは、宇髄さんが二年生の時?」
    「二年が終わる春休み。そん時彼女は社会人になって一年経つ頃だから……どっちにしろ嫌になったんだと思う。なーんも気付かねぇガキの俺が。別れる時言われたんだよ、『私の気持ちわかんないよね、まだ学生の君には』って」

    ちょうど、私と宇髄さんと同じ三歳差。
    私から見れば、三つ年上の宇髄さんはすごく大人に感じるけど、逆に宇髄さんから見れば私はすごく子供に見えるのだろうか。

    宇髄さんの彼女も、そうだったんだろうか。

    つづく

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  • 13299. 匿名 2024/05/06(月) 21:45:36 

    >>13291《ア・ポステリオリ》12
    ⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け(※元カノの話してます)

    「身体に良くねぇのはわかってたんだけど…当時もうそういうのもどうでもよかったんだよな…。この匂い吸い込んだら彼女の気持ちわかったりしねぇかなって思ってたら、気付いたらやめられなくなっちまったんだけど。口寂しいっつーか、暇つぶしっつーか、もう特に意味もなく吸ってる感じ」
    「…なんかわかるよ。寂しくなっちゃうの」

    誰かの体温に触れて。
    誰かの匂いに包まれて。
    そうやって安心することを覚えた身体は、そう簡単に一人で傷を癒せるようにはならない。いつまでも、またその温もりを欲してしまう。

    「桜が好きだったんだよ、彼女。春になったら花見に行こうっていつも言っててさ…だから、その年も当たり前のように行くと思って連絡待ってたら、来たのがさっきの別れのセリフ。
    俺、春苦手なんだよな…桜が咲くから。あんま見たくねぇっつーか。まだ吹っ切れてねぇからそう思うんだろうけど…」

    そういえば、宇髄さんと初めて会った季節も春だった。初対面だったのに、ラーメンを食べたり海に行ったり一日中一緒にいたのは、きっと、何かを紛らわすためだったのかもしれない。

    「お前はどうしてんの?寂しくなった時は」
    「うーん…なんだろ。ゲームかなぁ」
    「ふーん。まぁ、時間潰すにはもってこいだな。時間が過ぎるの待つしかねぇよな、こういうの」
    「時間薬ってやつ?でも私は吹っ切れたというか、元彼思い出して寂しくなったりはもうないかな…」 

    何で吹っ切れたのか。
    何が、私に前を向かせたのか。

    私の傷を癒してくれたのは、いつも側にいてくれた宇髄さんだったのに。

    この時の私は、まだそのことに気が付いていなかった。

    ❀ ❀ ❀ ❀ ❀

    4月になった。
    桜前線は私たちがいる東京を通過して、私は二年生に進級し、宇髄さんは社会人になった。

    すっかり大学生活に慣れて土地勘も出てきた私は、憧れていたコーヒーチェーン店でバイトを始め、宇髄さんは新人研修だとか歓迎会だとかで、お互い忙しく過ごしていた。

    平日はそれぞれ頑張って、週末になると宇髄さんの家に集合して「一週間お疲れ様!」と乾杯する。

    「仕事、どんなことしてるの?」
    「今まだ研修中だから、色々。全部の部署回って、そっから配属が決まるらしい」
    「そっか。希望は出せたりするの?」
    「一応。通るかわかんねぇけど」

    元気がなかった宇髄さんは、桜の花びらが散って葉桜になっていくにつれ、少しずついつもの宇髄さんに戻っていった。

    つづく

    いつもコメントやプラポチありがとうございます。コメント投稿期限が出ましたね…(´・ω・`)トピ終了までに完結させたい💪💦

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