ガールズちゃんねる
  • 1274. 匿名 2024/04/13(土) 23:12:43 

    >>572文学>>771悲恋
    🌈が鬼になって、ガル子を蘇らせようとする話です。平安時代の説話「長谷雄草紙」が一部元ネタ、微🐚あり。

    【百日ののちに】

     山中に、男と女が住んでいた。夫婦であった。

     仲睦まじく暮らしていたが、あるとき妻の方が質の悪い病にかかり、長く床についてしまった。夫は片時も側を離れず看病し、その甲斐あって妻は命を取り留めた。穏やかな暮らしが戻ってきたかに思われたが、一つだけ変わったことがあった。

     病が癒えたのち、夫は妻に指一本触れなくなったのだ。表面上は以前と変わらぬ優しさであったが、側で眠ることもしない。夜な夜な家を抜け出して、何処かへ行っているようでもある。自分が伏せっている間に、他所に通う女ができたのではないかと妻は怪しんだ。

    「お前以外に、俺の妻は無いよ。要らぬことを考えず信じていておくれ」
     問い詰めても、虹色の瞳を柔和に瞬かせてそう嗜められるのが常であった。夫は美しい男で、その美しさが彼女を余計に不安にさせた。

     そうして幾日か過ぎた。夫はやはり、妻に触れようとしない。ある夜、意を決して別の部屋で休んでいる夫のもとに忍んでいくと、まだ起きていた彼は驚いたように彼女を見た。その戸惑った目が女心を深く抉り、ついに妻は堪えきれず泣き伏した。

    「私のこと、もうお好きではないのね」
    「何を言う。俺の心は変わらないさ」
    「だって、病を得てから一度も私と寝て下さらないわ。触れても下さらない。夫婦なのに…… どうぞ、慎みのない女とお思いになって。お心が離れたなら、言って下されば一人で尼寺へでも参ります。こんな、一緒にいるのに他人のような。こんな扱いは……」

     後は声にならなかった。嗚咽する妻を夫はじっと見守っていたが、やがて細く静かに息を吐いた。

    「泣かないでおくれよ。お前に泣かれると、俺はもう辛いんだ。……共にいられるだけでも、いいと思っていたんだが」

     夫が手を伸ばした。指先が長い躊躇いの後、頬に触れた。触れられた所が熱くなるのを妻は感じた。
     まるであの熱病のようだわ、と思った時。彼女は夫の胸の中にいた。耐えていたものが一気に噴き出したかのような激しさで、彼は妻を引き寄せた。
     夫の白橡の髪が乱れて、妻の額に落ちかかった。こんな風に切々とかき抱かれるのはいつ以来か、睦みあった共寝の日々が随分遠い昔に思えた。

     目の前に彼の真剣な顔があった。焼き切れそうな愛情と苦悩と、そうしてなぜだか悲哀……覚悟?理由の分からない、幾つかの感情の渦を妻はそこに見た。それらは墨流しのように不定形で、捉えどころがなかったが、確かなものもあった。夫は未だに彼女を好いており、求めてもいるという事実だった。

    「こうすることが、お前への証になるのなら。俺は、」
     最後は掠れてよく聞こえなかった。久方ぶりの契りは速瀬の水に似て、二人を巻き込み木の葉の如くそのまま深みへと押し流していった。

    ────────
     数刻ののち。夫は夜具の上で、ぽつんと座り込んでいた。傍には妻が、正確には妻であった女の骨が寝姿のまま散らばっている。
     白く虚ろなそれを見ながら、夫は思い出していた。流行病で彼の妻が命を落としたあの日(そうだ、妻はこの腕の中で息絶えた)その骸を抱えて呆然と野山を歩き回ったことを。そして一人の男に出会ったことを。

    『鬼になるなら、その女を蘇らせる術を教えてやろう。但し、百日は手を触れるな。百日経たぬうちに触れることあらば骨に戻る』

     そう男は言ったのだ。

     夫は思い返していた。百日など容易いと答えた自分を。妻が蘇るならどんな外法も厭わぬ、鬼にでも蛇にでもなろうと頭を地に擦り付け懇願した己を。
     あの時何を引き換えにして何を得たのか、よく分からない。妻は彼のもとに戻ってきた筈だった。夜ごと人の血肉を貪りに出ているとは言えず、百日経たねば触れられないとは告げられず、寂しい思いをさせ傷つけた……そして禁を破った。

    「お前を失うより、お前を泣かせるのが嫌だったんだ……また、造り直せるかなぁ」
     呟いて肩を落とし、夫は骨を丁寧に拾い始めた。

    《終》

    +40

    -5

  • 1280. 匿名 2024/04/13(土) 23:19:21 

    >>1274
    最後の一言、童磨さまの声で再生された
    お話の雰囲気もすっごく好きです

    +22

    -3

  • 1288. 匿名 2024/04/13(土) 23:31:35 

    >>1274
    百日を無事過ごせなかった悲しみよりも、熱く幸せな一夜に幸せを感じてしまいました。切ないけど素敵なお話だなぁ

    +30

    -1

  • 1301. 匿名 2024/04/14(日) 00:02:13 

    >>1274
    切ないけれど、深い愛情を感じました
    文学的な文体が彼の雰囲気にあっていて素敵です!

    +26

    -2

  • 1311. 匿名 2024/04/14(日) 00:20:34 

    >>1274
    妻を愛するが故に鬼になる…なんて切なく愛に溢れたお話なんだろう

    +28

    -2

  • 1332. 匿名 2024/04/14(日) 02:05:48 

    >>1274
    胸が締め付けられました。 童磨様の気持ちを思うとラストの言葉が余計に切ない…。飄々とした物言いの中に深い哀しみがあって、本当にやるせない。
    すごくすごく好きなお話です。深夜に読むと余計に狂おしい気持ちになりました…!読めて良かった!ありがとうございます。

    +24

    -2

  • 1338. 匿名 2024/04/14(日) 03:14:55 

    >>1274
    墨流しのような感情の渦を得た🌈さんに感動
    すごく切ないのに圧倒的です、ありがとうございます

    +25

    -2

  • 13724. 匿名 2024/05/07(火) 17:51:09 

    >>13462
    まとめの場をありがとうございます、🌈推しです。お話系は全部どまさん、それ以外は他キャラもあります。

    【長文・SS】※3作全て微🐚要素有
    >>1274百日ののちに
    >>1788狐日和(全2話)
    >>4368Handcuffs(全5話)

    【140字】
    >>8107やり直さないでいようね

    【ガヤその他】※多いので一部
    >>181挨拶>>856>>897>>904歓迎会>>1973ミャクミャク様>>2115おさかな天国>>2174第二ボタン>>3476>>3513bokete>>3776概念グッズ>>4438>>4455キリ番見守り隊>>4628>>4670二階堂>>5100呼吸>>5138めちゃ怖>>5885>>5916誕生会>>7011B’z>>7481BGM>>8207運動会>>10745>>10895合コン>>11028タワシ>>11063呪い>>12158モード陸>>12823他作品のセリフ

    【過去Partまとめ】
    9 『24078』10『24442』
    11『20234』12『18581』
    13『21918』14『15753』
    15『12719』

    いつもトピを楽しみにしています。最近のパートはガヤの比重多めです、少ないけどお話も引き続き何か書けたらいいな…コメやポチ本当にありがとうございました!また皆さんにここで会えますように🌈💫

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