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1266. 匿名 2024/04/13(土) 23:07:22
>>519
桜🍃
「私の故郷では」
淡雪のように降る花弁から視線を足元に向ける。うずくまった背中はいつもより頼りなげに見えた。
「桜の木は墓地……死者の亡骸を埋める場所に植えるんです」
「故郷は、たしか信州だっけかァ」
頷いた彼女は泥だらけの手を払おうともせず目元をぐいと擦って立ち上がった。大きな古木の根の傍らに掘った小さな墓には彼女の鴉が埋まっていた。
「桜の花があの世とこの世を繋ぐ道標になってくれるんです。だからきっと、迷子にならずに天国に行けるはず……」
鴉のくせに方向音痴なその相棒を彼女は殊の外可愛がっていた。いつも肩に乗せて、握り飯を分け合い、腕の中に抱いて眠った。
俺の視線に真っ先に気付いたのもあいつだ。翼を広げて主人の顔を隠し、牽制するように首の後ろを毳立たせて鳴いた。急にどうしたのと慌てる彼女に甘えながら俺を得意げに見てきたものだ。
生意気な奴だ。きっと俺たちは良い好敵手になれるだろう。そう思った矢先のことだった。
彼女の命が今あるのは間違いなく鴉の功績だ。音もなく飛んできた鉤爪を身を挺して受け止め、切り裂かれ宙を舞った羽根の下をくぐって彼女は鬼の首を落とした。
『あいつは立派な鴉だよ』
『主人を守れて本望だろう』
使い古された陳腐な台詞じゃなんの慰めにもならない。かと言って震える肩を抱き寄せるには俺は彼女を知らなすぎた。
淋しくなったその肩に、まだ今はあいつの方が近いんだろう。
「……極楽は毎日が花見どきだろォ」
桜を見上げていた彼女は俺の言葉に顔を向けた。
「先に行っていちばん良い場所取っといてくれてるだろうよ、あいつなら」
手を伸ばして頰に付いた泥を拭きとってやると、ほろりとこぼれた涙が親指を濡らした。
「そうですね。きっと……そう」
儚く微笑んだ彼女の頰に今度は桜の花弁が貼り付いて、涙の跡は見えなくなった。
いつか俺たちもそこへ行くのだろう。だけどそれは今じゃない。だから、
(だからこれからは、俺が守る)
頼みましたとでも言うように、降りしきる桜がざあっと風に乗って空高く舞い上がっていった。+37
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1271. 匿名 2024/04/13(土) 23:10:35
>>1266
こういう方向の切なさ…
いい鴉ちゃんだわ😢+17
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1284. 匿名 2024/04/13(土) 23:26:05
>>1266
鴉の話に弱いんですよ私…(;ω;)
+20
-3
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1296. 匿名 2024/04/13(土) 23:49:47
>>1266
彼女の悲しみにそっと寄り添う実弥…
泣けるけど素敵です+17
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1490. 匿名 2024/04/14(日) 14:55:15
>>1266
切なさとか希望とか色んな感情が忙しかったのですが、読み終わった後に残ったのは「綺麗…」という感動でした✨
(語彙が無くてお恥ずかしい💦)
すごいお話を読ませて頂きありがとうございました!+20
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16935. 匿名 2024/05/12(日) 08:34:29
>>13462まとめお借りします
⚠️解釈違い
不死川実弥
>>1266 桜随筆
>>4780 あの扉絵の話
>>4926 風薫る
>>7192 もう少し
>>12066 柱稽古の後
>>12773 死合わせ
>>15467 掻乱
煉獄さん
>>3772 窮鼠と黒猫
おたおめ続編間に合いませんで死た!
久しぶりの参加で楽しかったです、投下少ない&無風オブ無風の身で図々しくもまとめさせて貰いました、何故なら楽しかったから!!
なんだかんだありますが、楽しかったからですね。み〜て〜ってしたかったんです。
変わり映えもアイコンになるようなハジけた特徴もなく、なんとなくやっぱ場違いかもナァ〜と思いつつ(そんなことないよ待ちではないw)「何処かの誰かが楽しんでくれた」がやんわり伝わるのが楽しいんです、甘えさせてもらってるんです。
風向きは肌感でオノレが一番よく分かってますが、ちょっと隅っこお借りして顔を出したり引っ込めたりしてますのでをおゆるしを…
これにて御免、コメント・プラスくださった方には最敬礼で御礼申し上げ奉り候!!
同担、ついにアニメだぞ一緒に死のうな♡
お疲れ様でした🥹+42
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