ガールズちゃんねる
  • 12549. 匿名 2024/05/05(日) 22:52:39 

    >>12547《ア・ポステリオリ》10
    ⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け

    もう、誰かと繋いだ手を離すことも、離されることもしたくない。誰かに「さよなら」を、言いたくも言われたくもない。



    「宇髄さん、宇髄さん…」

    深夜にリビングの床の上ではっと目覚め、隣でいつものように寝息を立てている宇髄さんの身体を思わず揺すってしまう。

    「んん……何?」
    「“友達”は、さよならする時はどうするの?」
    「……はぁ?」

    顔だけおざなりにこちらへ向けて、「何意味わかんねぇこと言ってるんだ」とでも言いたげな表情をしている。

    「“友達”は…どうやってお別れするの?…二人で、別れ話をするの?」

    小さく笑って、私の方へ身体を向き直した宇髄さんが言った。

    「別に何も。黙っていなくなりゃいいんだよ」

    冷たいことを言われているようなのに、寝起きの宇髄さんの少し掠れた囁くような声と優しい表情に、泣いてしまいそうになる。

    「何も……?」
    「そ、何も。お前は好きな時にここに来ればいいし、俺も好きな時に連絡するだけ。ただそんだけの関係に、別れ話も何もねぇだろ。“友達”って、そういうもんじゃね?」

    「んなこと聞くために起こしたのか…」と眉を下げて呆れたように笑う宇髄さんに謝りながら、何かはわからないけど、胸につかえていた何かがすとんと腑に落ちて。自分の中で少しだけ、一歩前へ進めたような気がした。

    どちらかが心変わりして、自由を得ようと醜い嘘をつくことも。「さよなら」「今までありがとう」を言い合って、涙を流したり偽りの涙を見せられることも。その事実を後から知って、一人打ち拉がれることも。

    そんな未来は、“友達”同士の私と宇髄さんには来ない。

    スマホに手を伸ばし時間を確認した宇髄さんが、「2時か…」と小さな声で呟く。
    そして「変な時間に起こしてごめん…」と、のそのそとまた横になった私にブランケットを丁寧に掛け直してくれた。

    「…寝れそ?眠れるまで喋っとくか?」

    暗闇の中で顔を覗き込んできた宇髄さんの気遣わしげな表情を見て、いつも夜中に目を覚ましていたのを気付かれていたことがわかって…

    「…ううん、もう大丈夫。ありがとう」

    恥ずかしくなってしまったけれど。
    続いて聞こえてきた「よかった」という穏やかな声音に、泣いてしまいそうになった。

    この日から、もう嫌な夢を見ることはなくなった。

    つづく

    +30

    -7

  • 12612. 匿名 2024/05/05(日) 23:39:43 

    >>12549
    ふう…宇髄さん優しい…😮‍💨
    優しくてイケメンで、友達も良いけれど…今後が気になる
    終始漂う、楽しいのに切ない雰囲気がとても好き

    +23

    -4

  • 12620. 匿名 2024/05/05(日) 23:50:27 

    >>12549
    この、優しくて危うき関係に、近づいてもらいたい…

    +20

    -3

  • 12628. 匿名 2024/05/06(月) 00:08:28 

    >>12549
    こんな優しさに触れたら好きになっちゃいそう...(´;ω;`)

    +20

    -3

  • 13291. 匿名 2024/05/06(月) 21:42:18 

    >>12549《ア・ポステリオリ》11
    ⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け(※喫煙表現あり※元カノの話してます)

    そうやって、一年が穏やかに過ぎようとしていた頃。南の方での桜の開花を告げるニュースを聞いて、東京ももうすぐだろうと思うと少し心が華やいだのに。

    宇髄さんは。
    少しずつ、元気がないように見える日が増えて。
    少しずつ、煙草を吸う回数が増えて。

    私をバイクの後ろへ乗せて、海へ行く日が増えた。

    煙草を吸いながらぼうっと海を眺めて、ため息をつくように煙を吐いている。
    煙に慣れた私は隣に座って、同じように海を眺めてぼうっとしたり、拾った適当な大きさの流木で意味もなく砂をざくざくとかき混ぜたり。

    卒業式を終えた宇髄さんは、4月から社会人だ。新生活を控えてナーバスになっているんだろうか…。

    「煙草、いつから吸ってるの?」
    「何?身体に悪いからやめろって?」
    「違うよ。ただ気になっただけ」
    「……二年前ぐらいから」
    「そっかぁ…」

    煙草の灰を携帯灰皿に落としながら宇髄さんが、ふうっと煙を吐く。

    「正確に言えば、彼女と別れてからだな」

    “彼女”というのが、一年前初めて会って海に来た時に話していたフラれた相手のことを言っているのだと、頭の中で結びつくのに数秒掛かった。

    「ある時から、彼女からいつもとちげぇ匂いがすんなー、何だろうなー、なんて呑気に思ってて。で、もうその匂いが俺の中で彼女の匂いとして定着しちまったんだけど…。別れた後に気付いたんだけど、それがさ…これの匂いだったのよ」

    宇髄さんが、指の間で弄ぶ煙草に視線を落とす。

    「彼女が隠れて吸ってたのか、誰か他に吸うやつが、匂いが移るくらい側にいたのかわかんねぇけど…。
    隠れて吸ってたなら、そんなストレス抱えてたのに気付いて支えてやれなかったのがクソだせぇし、浮気とかだったなら……まぁ、そういうのもう考えたくねぇけど」

    煙草を見つめる宇髄さんの表情を見て、胸がぎゅっとなった。

    「二年前ってことは、宇髄さんが二年生の時?」
    「二年が終わる春休み。そん時彼女は社会人になって一年経つ頃だから……どっちにしろ嫌になったんだと思う。なーんも気付かねぇガキの俺が。別れる時言われたんだよ、『私の気持ちわかんないよね、まだ学生の君には』って」

    ちょうど、私と宇髄さんと同じ三歳差。
    私から見れば、三つ年上の宇髄さんはすごく大人に感じるけど、逆に宇髄さんから見れば私はすごく子供に見えるのだろうか。

    宇髄さんの彼女も、そうだったんだろうか。

    つづく

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