ガールズちゃんねる
  • 1239. 匿名 2024/04/13(土) 22:43:30 

    >>1235 続き
    ⚠️ガル子も🌫も24歳の設定 ⚠️🐚出現有の長編です。

    🌫『10年のキセキ』②

    「わかっちゃったかー」
    「わかるよ。あいつもしかしてガル子のことを好きなのかもしれない」
    「うーん、それはないと思うな」
    「いや、わからない」
    「でも安心して。揺らぐことなんてないから。それにね、私だって本当はどんなにむいくんが素晴らしい彼氏か語りたいくらいだったよ。でも、惚気けるのはあまりよくないかな…と思って」
    むいくんは、ふふっと笑った。
    すると、ブーンとコーヒーマシーンを作動させている音が聞こえた。おそらく食後のコーヒーの準備をしてくれているのだろう。
    「そういえば僕は、この前女性の先輩から言われたな。
    10年も同じ人と付き合ってるなんて羨ましい。私なんて全然いい人がいなくて婚活してるのよ、って」
    「……婚活かぁ。どんな感じなんだろうね?」
    私達とは無縁の言葉だ。合コンだとかマッチングアプリだとか、お見合いパーティーだとか。世の中にはそういう出会いのツールが溢れている。でもその中のひとつも利用したことがないので、詳しいことはわからない。
    「僕はラッキーだった。人生の早い段階でガル子に出逢って、同じ青春時代を過ごすことができたのだから。そんなカップルもなかなかいないと思うよ?」
    「うん、私達は恵まれているよね」
    私は、学生時代のことを思い出していた。
    むいくんは同い年なのにずっと大人びていた。
    大変なことが起こっても『これって試されてるみたいだよね』などと言って、何事も落ち着いて対処していた。いつも肝がすわっていた。
    同い年なのに精神年齢のほうはいつまで経っても追い越せそうにないなぁ。
    彼は、私のことをいつも引っ張ってくれる、道標みたいなひとだった。

    「明日はいよいよ『あれ』を取りに行く日だね」
    皿洗いを終えたむいくんがキッチンから出てきて、にこにこしながら言った。手にはふたり分のコーヒーが入ったマグカップを持っている。
    「そういえば明日は記念日だもんね」
    「10回目の記念日だよ」
    彼が浅葱色の大きな瞳を潤ませて、ふんわりと微笑んだ。

    続く

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  • 1248. 匿名 2024/04/13(土) 22:49:32 

    >>1239
    ⚠️ガル子も🌫も24歳の設定 ⚠️🐚出現有の長編です。

    🌫『10年のキセキ』③

    次の日、私達は思い出の場所へと向かった。
    ──今から9年前の中学3年生の4月。私達は学校の裏山にタイムカプセルをこっそりと埋めたのだった。ちょうど付き合って1年が経過した頃で、9年後の24歳になる年にあけてみよう、と約束をしたのだった。
    その頃読んだ恋愛小説の影響で、『記念日にどこかで待ち合わせをするのも素敵だよね』などと話したりもしたが、待ち合わせ場所がなくなってしまうことも大いに有り得たので、タイムカプセルを埋めることに落ち着いた。
    今にして思えば、そんな先のことまで予測しているなんて随分ませた子供達だったと思う。

    ──10年。それはとてつもなく長い年月に思える一方で、いざ迎えてみると、夜空を駆ける流れ星だとか、打ち上げられた花火のように儚い一瞬の光のようにも感じられる。不思議なものだ──。

    私達は久しぶりに母校の裏山を訪れた。
    やぶれたフェンスの網から野良猫のように身をかがめて中に入る。
    ──見つかったら叱られるかもしれない。でもやっぱりどうしても中身の確認がしたかった。

    「このへんだったっけ?」

    ふたりして緑深い森の中を進んでゆく。生い茂った葉っぱをかき分けて、とがった枝などに注意して進んだ。油断していると、地に張り巡らされた根っこに躓きそうになる。
    ちょっとした探検をしているみたいで、わくわくと高揚感が高まっていった──。
    すると、大きな池のあるひらけた場所に出くわした。池の水面には蓮の浮き葉がいくつか浮かんでいて、風が吹くとちらちらと揺れていた。木々の隙間から差し込んだ真っ白な光が水面に反射して、虹色に揺らめいていた。そこには、あるがままの自然だけで創造された幻想的で美しい光景が広がっていた。
    そばには大きなくすの木も聳え立っている。
    「このくすの木の下だよ。まだ目印残ってたんだ。中身も無事だと良いね」
    むいくんがそう言いながら、目印──かつてアイスの棒でつくった矢印みたいな形のもの──を引き抜いた。
    そして、青いショベルで柔らかな土を丁寧に掘り起こすと、錆びた真四角の赤いタータンチェック柄の缶(外国のショートブレッドが入っていたもの)が出てきた。
    中身をあけると、お互いにあてた手紙がちゃんと入っていた。
    はい、とむいくんから私への手紙を渡される。
    手紙は年季が入っていたが無事だった。古びた紙特有の香りが鼻腔をくすぐる。私は、桜色の封筒を大事に開封した。

    続く

    また更新します。ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

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