-
12052. 匿名 2024/05/04(土) 23:39:36
>>12040⚠️大正軸🌫️己の趣味に全振り
『今宵、花嫁になる君へ』
第十一話
ガタつく社務所の扉を開けると、小さな輿が控えていた
生気の無い男が四人、こちらを見ることもなく跪いている。無一郎くんの説明では、この男たちは鬼ではなく、操られている人だと言っていた
鬼の術にかけられると、こんなにも抜け殻のようになってしまうのか…私は生唾を呑んだ
私は老婆に扮した無一郎くんに手を引かれ、ゆっくりと濡れ縁を降りる。輿の前まで降り立つと彼は男衆を一瞥し、口を開いた
「…お待たせいたしましたな。輿の準備をなされよ」
その声色が老婆にあまりにも良く似ていて、蘇ったのかと思うほどだった。彼は剣技だけではない、あらゆる訓練を身につけている剣士…柱なのだということを実感した
無一郎くんの言葉に、男たちはうつろなままゆらりと立ち上がり、輿を肩に掛けてまた跪いた
彼は私を輿に乗せると、自分も素早く乗り込んで、「行け」と短く命令した
輿が揺れて高くなり、山道へと進み始める
もう、後戻りは出来ない
緊張、不安、恐怖
不安定に揺れる輿の中で、私はそれだけではない心の昂りを覚えていた
『お前から男の匂いがする』
『彼女は誰にも渡さない』
老婆と彼の言葉が重なり合って私の胸を締め付けた
胸を抑えてうつむく私を、彼は「大丈夫だから」と言って私の手の上に自分の手を重ねた
狭い輿の中で彼の腕に囲われ、息を潜めながら、私は自分でも御し難い感情を持て余しつつ山向こうへと向かった
(つづく)
+26
-10
-
12056. 匿名 2024/05/04(土) 23:42:07
>>12052
ああもうむいくんが頼もし過ぎて…
ドキドキし過ぎて寝れません!!+25
-3
-
12060. 匿名 2024/05/04(土) 23:50:03
>>12052
すみません
『お前から男の匂いがする』ってセリフがブッ刺さって抜けないんです老婆の鬼のセリフなのに🪦+30
-4
-
12065. 匿名 2024/05/05(日) 00:06:02
>>12052
老婆の声真似をするむいくん、凄い、かっこいい!臨場感にドキドキが止まりません+25
-3
-
12096. 匿名 2024/05/05(日) 06:44:30
>>12052
読んでます♡守ってくれるむいくんがかっこよすぎて😍
>『彼女は誰にも渡さない』
むいくんの声で何度も再生されてます🤭
書いてくださり、ありがとう。続きも楽しみです。+22
-6
-
12789. 匿名 2024/05/06(月) 12:53:47
>>12052⚠️大正軸🌫️己の趣味に全振り
『今宵、花嫁になる君へ』
第十二話
両脇に巨大な常夜燈を配した入り口が見えてきた。輿は速度を緩めることなく入り口をくぐり抜け、石階段を駆け上がる。さらに中に進んで行くとそこかしこに置かれた巨岩にしめ縄が張り巡らされ、神の棲家もかくやという物々しい館が現れた
輿がゆっくりと速度を落とし、館の庭先に降ろされる。無一郎くんはほんの一瞬抱きしめるように力を込めたあと、私に回していた腕をほどいた。彼が先に降りて老婆の如く跪き、輿の御簾を上げるのを待ってから、私は白無垢の裾をたくしあげて輿から地へと足をつけた
玉砂利が敷きつめられた庭の向こうの縁側で、男が盃を傾けている。あれが山向こうの主…!鬼であるらしいが、姿は人間の男と変わらないように見えた
私が降り立った気配に気づくと、その鬼は縁側に座ったまま私の方へ顔を向けた
「来たか…まずは名を名乗れ」
私は反射的にうつむいた。鬼の主だと思うと、その顔を直視することが出来なかった
「ガル田…ガル乃と申します」
私は消え入りそうな声で花嫁であるはずの名を名乗り、頭を下げた
「フン。今年は村長の娘とやらを頂こうと思ったが、あの馬鹿は何やら息子を変装させようとしていたようだ。財欲しさとは言え仕方のない馬鹿者よのう。男など送り込んでも用は無いわ」
どうやら、無一郎くんが鬼狩りと見破られたわけではないらしい。村長が嫁入りの報酬欲しさのあまり病気の娘に代わって、いっ時息子を送り込もうとしたと思っているんだわ
「しかしお前はなかなか気の利く娘のようだ。気に入ったぞ。今宵、お前は晴れて儂の花嫁じゃ。さぁもっと近うに寄れ」
鬼は酒を飲み、やたらと上機嫌のようだった。これからこの男と祝言の真似事をするのだろうか?それとも近づいたらいきなり喰われるのだろうか?
「あの、しゅ、祝言は…」
私が問うと、鬼は笑顔を崩さぬまま盃を乱暴に放り投げ、ゆっくりと立ち上がって縁側から庭に降りた
「祝言…?そんなくだらない儀式なぞ必要ないだろう?」
そういうと彼はもう私の肩を抱いていた
速い…!なんて移動の仕方なの?
離れたところからは人間のように見えていたそれは、近くで見ると異形だった
瞳は細く縦に光り、幾重にも重ねているはずの着物越しに鋭い爪が食い込んだ
「何度見ても、花嫁の顔が恐怖に歪むこの瞬間はたまらんのう!お前はな、俺に喰われるためにここに来たんだ…ヒッヒッヒッフハハハハハ…!ゆっくりゆっくり味わってやろうぞ」
鬼は瞳をギラつかせて私を見下ろすと、真っ赤な口を開いてベロリと舌舐めずりをした
思わず目を閉じたその瞬間、私の体は宙に浮き、岩の陰へと着地した
「君はここにいて」
そういうと無一郎くんは私の帯に御守りを挟み込んだ
「藤守りだ。鬼にとっては毒となる。これを持っていれば大丈夫」
彼はそう言うと鬼の方に体を向け、おもむろに剣を抜いた
鬼を見据えるその瞳は憎しみに満ち、無慈悲なまでに冷酷だった。普段の彼からは想像も出来ないその表情に、彼が背負ったものの重さを垣間見る。彼は低い体勢で構えると、とてつもない勢いで鬼に向かって飛びかかった
(つづく)
+29
-4
削除すべき不適切なコメントとして通報しますか?
いいえ
通報する