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11478. 匿名 2024/05/03(金) 23:28:51
>>10972 つづき ⚠️🐚
「チョコが溶けるその前に」14
屋敷に戻ってから眠れるわけもなく、洗った包帯を縁側で巻きながら時間を潰した。いや、時間を潰したというより、あの人を待ってしまっていた。
(私はなんで待ってるんだろ…)
空が白みがかり指先もだいぶ冷えた頃に待ち人が帰ってきた。
いつもは結んである髪が解かれ、お酒と煙草、それに混じってほんのりおしろいの匂いを纏った冨岡さんはあの後あの街でどんな気持ちで過ごしていたのだろう。
「…もう起きてるのか」
「…また遊んできたんですか」
「俺が何しようがお前には関係ない」
関係ない、と突き放されて思わずムキになる私はやはりまだ子供なのだろう。
「なんでこんな事ばかりするんですか?」
「こんな事とは…?」
「虚しくないんですか?好きでもない女の人と遊んで」
「……」
「好きなんですよね?モブ乃さんのこと。振り向いてもらえないからヤケになってるんですか?」
「お前には関係ないと言ってるだろう」
ああダメ、これ以上言ったら。でももう言葉が止まらない。こんなふうに責めたいんじゃないのに。
「そういうのってすっごいダサいですよ?だから振り向いてもらえないんじゃないですか?てか、そんなに遊び歩いてまだ足りないの?」
言い終わると同時に手首を掴まれて部屋に連れていかれると、既に敷いてあった布団に押し倒された。
「──足りないな、全然」
私に重なった冨岡さんの身体の重みが徐々に増していく。
「それとも、お前が補ってくれるのか?」
笑みを浮かべる口元とは裏腹に目は悲しみを含んでいて、胸の奥がぎゅっと苦しくなる。
「いいよ」
冨岡さんの目がわずかに見開いたのがわかった。解かれた髪の先が私の頬に垂れてくすぐったい。
「いいよ。それで冨岡さんの気が済むなら。あんな苦しそうな顔するくらいなら、いま全部吐いちゃえばいいよ」
それであなたが楽になるなら。少しは気が紛れるなら。
「…逃げるなら今のうちだぞ。俺はいま機嫌が悪い」
「逃げないよ。…大丈夫」
大丈夫、は自分に言い聞かせた言葉でもあった。言い聞かせないと、身体が震えそうだったから。
冨岡さんの煙草の匂いがついた指先が私の顎に触れて、角度を整えられる。
最初は軽く触れただけだった。意外と熱い唇が、私の鼓動を速くした。
「…冷えてるな」
それは、縁側でずっとあなたを待ってたから。
「誰のせいだと、思ってるんですか」
「俺だな」
「…だったら、あっためてください」
再び唇が重ねられた時には、もう何も考えられなくなった。今度はさっきよりも深く。
こうして私の心の中にいとも簡単に入ってくるのだ、この人は。機嫌が悪いと言われてされたキスが甘くて、砂糖漬けにされているようだった。
この人を好きになってしまったら、きっと私は泣くだろう。
報われない恋をして、傷ついて。それでも、大丈夫だから。だから、
「もっと……」
───もっと傷つけて大丈夫だよ
つづく+32
-7
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11484. 匿名 2024/05/03(金) 23:34:14
>>11478
🐚
嗚呼とうとう…😇傷ついてもいい…+22
-4
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11491. 匿名 2024/05/03(金) 23:41:39
>>11478
⚠️🐚
あー!言葉が出ないよ💦+22
-6
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11525. 匿名 2024/05/04(土) 00:26:36
>>11478
⚠️🐚
悪い男の優しいキスに、傷ついても受け止めたいがる子ちゃんの健気さ…。めっちゃキュンキュン来てます!!+23
-3
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11553. 匿名 2024/05/04(土) 01:40:44
>>11478
⚠️
語彙力がなくて申し訳ないー!
あ…あぁ…!!そんな…!好き!!って感じです!!ドキドキしちゃいました+22
-5
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12055. 匿名 2024/05/04(土) 23:41:54
>>11478 つづき ⚠️🐚
「チョコが溶けるその前に」15
目が覚めるとその姿は既に無く、あの人が横たわっていた部分の布団が冷たくなっていた。
途中まで乱されたはずの浴衣はいつの間にか綺麗に整えられ、肩まですっぽりと丁寧に布団が掛けられていた。
ぼんやりと朝方の事を思い出す。私を深く味わっていたその唇は、頬、耳、鎖骨と順に辿り、胸元へ到着したところで「無理しなくていい」と告げた。
「…無理なんかしてない」
「こんなに身体を震わせて何を言ってるんだか」
「大丈夫って言ってるじゃん…!」
強がる私を見て優しく微笑んだ冨岡さんは、もうさっきの「機嫌が悪い」と言っていた意地悪な冨岡さんじゃなかった。
「…無理するな。寒いならしばらくこうしてるから」
くるりと身体の向きを変えられて、あっという間に後ろから包み込まれる。背中から感じる冨岡さんの体温と、ほんのり香るあの街の匂いに胸が締め付けられた。
(変な優しさ見せないでよ、馬鹿)
それからも、私と冨岡さんの秘密の関係は続いた。
関係と言っても、いつもキスを交わすだけだ。口寂しくなったら、煙草を吸う代わりに私の元へ来る。チョコでもつまむ感覚なのだろう。いつも冨岡さんが満足したところで終わる自分勝手で優しいキス。それから先のことはしてくれない。
子供扱いされたくなくて、とっくにその先が欲しくなっている気持ちを必死に隠した。恋愛経験なんてゼロに近い私でも、ここで我儘を言ったらもう私のところへ来てくれなくなるんだろうとわかるから。だから、必死に大人ぶってみせた。
でも、そろそろ限界に近づいていた。あの人の甘い毒はじわじわと確実に私の身体を侵食していった。
ある日私宛に届いた葉書の送り主の名前を見て、胸がずきずきした。
指定された喫茶店に行くと、既に来ていたその人は窓の外の行き交う人々を凛とした表情でみつめていた。本当に何をしても絵になる人だ。
──この人が、あの人にあんな顔をさせてるんだ。
「モブ乃さん。ごめんなさい、お待たせしました」
「忙しいところを急にお呼びだてしてごめんなさいね」
「大丈夫です、ちょうど頼まれてたお使いもありましたし。…お久しぶりですね」
モブ乃さんの向かい側に座るも、なんとなくまっすぐ顔が見れない。最近はモブ乃さんのお店からも足が遠のいていた。
「ガル子ちゃん、元気にしてた?」
「はい!もう、毎日バタバタで。最近顔を出せてなくてごめんなさい」
注文を取りに来た店員さんに紅茶を頼むと、モブ乃さんがいつもの笑顔で言った。
「クッキーありがとう。とっても美味しかったわ」
結局、クッキーと御守りは裏口にそっと置いてきたのだった。
「お口に合ったようで良かったです!張り切って作ったら作り過ぎちゃって。それで、モブ乃さんにぜひ食べてもらおうって」
「御守りも、ありがとう」
御守り、と聞いてあの握りつぶされた御守りを思い出して心臓がはねた。
「あ、はい…。あれは、…頼まれて」
「冨岡さんね」
冨岡さん──なんてきれいに名前を呼ぶのだろう。あの人も、この耳触りの良い声を聞く度に密かに胸を躍らせていたのだろうか。
「今日はね、ガル子ちゃんに話したいことがあって」
「…なんですか?」
「私ね、結婚するの」
つづく+30
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