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11302. 匿名 2024/05/03(金) 20:10:12
>>11274⚠️大正軸🌫️己の趣味に全振り
『今宵、花嫁になる君へ』
第九話
──二日後──
逢魔時。私は迎えが来るという、村の神社の社務所へ向かった。板の間では衣桁に掛けた白無垢が、蝋燭の灯に照らされて淡い光を放っていた
無一郎くんが声を潜めて私に言う
「陽が完全に落ちたら、ここへ迎えが来る。介添と称する老婆は鬼だ。山向こうの主へ花嫁を連れて行く役目を負わされているから、君を襲ったりはしない。老婆が君に支度をしたら、輿に乗る前に僕はその鬼を斬る。首をはねるけど驚かないで。すぐに塵となるはずだ」
私は頷く
「君は何も知らないことになっている。何も知らない花嫁としてふるまってほしい」
「はい」
私は頷き、笑みを見せようとしたが、上手く笑顔を作れない。駄目だ、こんなことでは。しっかりしなければ
と、その時、彼の両手が私の肩をふわりと包んだ
「怖いだろうと思う。でもそんなに震えないで。絶対に君を守るよ」
そう真剣な眼差しで話す彼に、飛び込んでしまいたくなる衝動にかられた。でも今はそんな時では無い。私に課せられた役割を、やり通すことに集中しなければ
私は彼にもう一度大きく頷いてみせた。彼も目で頷くと、私の肩を小さく叩き、部屋を出て行った。私は白無垢の前に座り、息を潜めて迎えを待った
しばらくすると
介添として遣わされたという老婆が音もなく入ってきた
「それではお支度をしてまいりましょう…」
低くしゃがれた声が背中をぞわりと凍らせる。私は無言で頷き、着ていた羽織を脱いで長襦袢一枚の姿となった
老婆が手慣れた様子で素早く私の髪を結う。白粉をはたかれ、墨が眉を撫で、唇には紅を塗られる。鏡に映る自分が、花嫁姿になってゆく。今までの娘たちも、こうして嫁入りの化粧を施されていたのかと思うと胸が詰まった
化粧が終わると、老婆は掛下を着付けていく。掛下帯をあてがい、帯紐で食い込むように胴を縛るその所作に、気遣いははまるで感じなかった
氷のように冷たい指が触れるたびに、この女性が鬼であることを嫌でも意識させられた
「痩せておる…急なこととて禊の時間が足りませなんだな。肉付きが悪いのはこの村の娘なら仕方のないこと。山向こう様のお側で栄養をたっぷりとお摂りになるといいですよ…ヒェッヒェッ」
老婆は不気味な笑みをもらした
着付けは最後の白打掛を残すのみとなり、老婆がうやうやしく衣紋掛けからそれを外すとガル子の背に掛けた。肩を整え前に周ると、無遠慮に脇に手を入れられ中の着物を直される。鼻先に来た老婆の髪のなんとも言えない匂いが鼻につく
その時、抱きつくようにして帯の紐を絞めていた老婆がつぶやいた
「…男の匂いがなさいますな」
(つづく)+31
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11303. 匿名 2024/05/03(金) 20:16:39
>>11302
わわっ、ピンチの気配💦
目が離せません👀✨+25
-4
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11305. 匿名 2024/05/03(金) 20:18:04
>>11302
ひゃードキドキするううう!!
でもむいくんがいるから絶対大丈夫って思ってる自分がいる😂
このむいくんの包容力!私も飛び込みたい!!+24
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11309. 匿名 2024/05/03(金) 20:47:41
>>11302
読んでます…緊張感がすごい!!
続きも見守っています。
+23
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11397. 匿名 2024/05/03(金) 21:59:14
>>11302
ドキドキしながら読んでます。肩を叩くとこ好き!気持ちが詰まってる気がする。+17
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11455. 匿名 2024/05/03(金) 23:00:31
>>11302
今辿って読みました
凄い!面白い
土器土器しながら読んでいます💕
続きが気になるうー!+23
-4
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12040. 匿名 2024/05/04(土) 23:12:28
>>11302⚠️大正軸🌫️己の趣味に全振り
『今宵、花嫁になる君へ』
第十話
──男の匂いがなさいますな
老婆の言葉に私は思わず息を呑んだ。彼に気づいたのだろうか
「貴方様はこれから嫁入りする身。私が来る前に誰かここにおられたか?よもや…」
「な、何をおっしゃるのです。失礼にもほどがありましょう。私は花嫁と心得、一人お迎えをお待ちしておりましたのに」
声が震えぬようにゆっくりと伝える。私は何も知らぬ娘。今宵の嫁入りを待ち望んだ、何も知らない村の娘。そう自分に暗示をかける。老婆の充血した赤い目が、訝しげに動いている。私は思わず瞼を閉じた
「……まぁ…その若さで殿御がいるとも思えませぬな。もう時間もありませぬ。さぁ、参りましょう。支度が整いました」
「それはどうもありがとう」
そう声がして瞼を開くと、無一郎くんが老婆の背後から腕を回して彼女の首に脇差しを突きつけていた
いつの間に…!
部屋の外に潜んでいるはずだったけど、中に入って来たのにはまるで気が付かなかった
「君は嗅覚が優れているみたいだね。あ、着付けの腕もなかなかだよ。彼女をこんなに綺麗にしてくれてありがとう」
「この匂い…!この女についた匂いはお前のものだな?!」
「残念だったね。彼女は誰にも渡さない。君のお役目はこれで終わりだ。後のことは心配しないで地獄へ行きなよ」
「貴様!!」
老婆は恐ろしい形相で首にかかった彼の腕を振り解いた。彼が後ろに飛び退いて剣を抜く
「──霞の呼吸 肆ノ型 移流斬り」
彼の声が低く響くと同時に、ゴロンと音がして老婆の首が転がった
反射的に私は両手で口を覆った。首をはねると聞いてはいたが、あと少しで叫び出してしまいそうだった
「ガル子、大丈夫?」
私が口に手を当てたままこくこくと頷くと、彼は老婆の羽織を拾い、先程まで彼女が私に施していた白粉を入れ物ごと頭から被った
白い粉が髪にまぶされて、彼の髪は老婆のように灰色になった。彼は髪を後ろで緩く一つに束ねると、老婆が残した羽織を素早く纏った
「行こう」
そう言って彼は私に手を差し出した
(つづく)+29
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