ガールズちゃんねる
  • 10894. 匿名 2024/05/02(木) 21:39:29 

    >>10397《ア・ポステリオリ》5
    ⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け(※🏨の話してます)

    「…え?」
    「ほら、降りろ。腹減ったから、飯食うぞ」

    ゆったりとした歩調で暖簾をくぐった彼がカウンター席に腰掛けたから、なぜ急にラーメン?そういえば名前も知らないのに…と不思議に思いながら、大人しくついて行って隣に座る。
    塩ラーメンの半炒飯セットを注文して“宇髄天元”と名乗った彼は、同じ大学の四年生らしい。
    私も味噌ラーメンの餃子セットを注文して、簡単に自己紹介をした。そして、二人で適当な世間話をしながら麺を啜った。

    「ところで…」

    食べ終えてお冷を飲む私に視線を向けた彼が、テーブル備え付けのすりおろしニンニクを指差している。

    「お前、さっきラーメンにニンニク大量に入れてなかった?」
    「……入れましたけど」
    「ニンニク餃子も食ったろ?」
    「はい…食べました。え、ダメ…?」

    質問の意図がわからない。

    「それさぁ、もし俺とこのままいい雰囲気になってホテルに行くことになったりしたらどーすんの?」
    「あ…その可能性は全く考えてなかった…」
    「だよなぁ。考えてたら食わねぇわな」

    …何?どういうこと?

    「よし!今から暇?天気いいから海行こうぜ」
    「え、ホテルは?」
    「行かねぇよ!!!」

    笑いながら伝票を持って立ち上がった彼がレジへ向かうのを、慌てて追いかける。
    流されるまま、再びバイクの後ろに跨った。途中立ち寄ったコンビニでやっと彼は煙草を手に入れることができて、私にもアイスを買ってくれた。

    しばらく走らせると海岸沿いに出て、頬を掠める空気に、潮の香りと湿り気が混ざり出す。

    「海、好きなんですか?」
    「好きってわけじゃねぇけど、まぁたまに来る」
    「泳いだりは?」
    「たまに誘われてサーフィンするくらいだな」

    風とエンジンの音にかき消されないで、なおかつ彼にうるせぇと言われないぐらいの声量で喋るのも慣れてきた。
    道の駅の駐車場にバイクを停めて、歩いて海の方へ向かう。二人並んで堤防に腰掛けた。

    彼が一旦立ち上がって私からずいぶん離れたところに座り直したことを不思議に思って見ていると、「あ、悪ぃ。煙いかもしんねぇから」と煙草の箱を掲げる。「あ、なるほど」と、私は私で買ってもらったアイスの封を切った。

    つづく

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  • 10897. 匿名 2024/05/02(木) 21:43:52 

    >>10894《ア・ポステリオリ》6
    ⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け

    暑くもなく、寒くもない。外で何かするにはちょうどいい気候。波が寄せては返す様子をぼうっと眺めながら、黙々とアイスを口に運ぶ。

    煙草を吸い終えたらしい彼が、隣に腰を下ろした。

    「なあ、彼氏いんの?」
    「…いません。この前別れたから」
    「ふーん。フラれた?」
    「…何でわかったんですか?」
    「なんとなくー。敢えて言うなら、フッた方の空気じゃねぇから」

    当たりだ。二年半付き合った彼氏に、フラれた。
    進学のために上京する私に「縛りたくない」とか「新しい世界に飛び立つ邪魔をしたくない」とか、もっともらしく私のためだと言って別れを切り出してきた。何を言っても引かない相手にもうなす術もなく受け入れることしかできなくて、むしろ「そんなに私のことを考えてくれているなんて…」とか思って泣けたけど……まぁ、私が馬鹿だった。

    「でも、私がいなくなってすぐ他の人と仲良くしてるみたいなんですけどね…」
    「へー…」

    その“他の人”ってのは私の友達で、元彼のことも色々相談してたのに。
    泣きながら別れ話をしてきた元彼も、吐いてしまいそうなくらい泣きながら受け入れた私も、それを「これも人生の通過点だよ」なんて私の背中を撫でながら言った友達も…

    ​────みんな馬鹿みたい。

    「結局、私のためとか言いつつ自分のためだったんだと思うと、すーっと冷めちゃって。涙涙の別れ話も何の茶番だったんだって腹が立ってきて…」

    手持ち無沙汰に弄ぶ、空っぽになったアイスの袋がくしゃりと音を立てる。

    「どうせいつか別れることになるんだったら、もう誰とも付き合ったりとかしたくない…。あんなのもう絶対に嫌…」

    思い出すと泣けてきて、慌てて話題を変えた。

    「あ…宇髄さん…?は、彼女いるんですか?」
    「いねぇよ。俺もフラれたから」

    フラれた、とさらっと言ったけど。
    その言葉を口にした後の宇髄さんの表情はとても苦しそうに見えて、きっとまだ胸の内に残る何かがあるんだろうと思うと私まで気持ちが落ち込んでしまった。
    そう言えば、昨夜眠り込んでしまった彼を取り囲んでいた人たちが「引きずってる」と言っていたのは、別れた彼女のことなんだろうか…

    「ちょっとさ、俺から提案あんだけどいい?」
    「……?何ですか?」
    「俺ら、“友達”になんねぇ?」
    「トモダチ?」

    つづく

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