ガールズちゃんねる
  • 10882. 匿名 2024/05/02(木) 21:34:22 

    >>10820⚠️大正軸🌫️己の趣味に全振り

    『今宵、花嫁になる君へ』
    第七話

    彼は私から手を離すと、噛んで含めるように説明を始めた

    「白無垢が届いた娘は10日間、白飯ばかりを食べて禊をする。でも今回は急な変更だし、予定通り二日後には迎えが来ることになっている。迎えは輿を担ぐ男衆が4人と老婆が一人。このうち鬼は老婆だけで、男衆は操られた人間だから僕たちに害を及ぼすことはない。当初の予定では、花嫁に扮した僕が老婆を倒して一人で輿に乗り込む算段だったけど、花嫁が君だから僕は老婆に扮して同行することとする。輿は狭いと思うけど少し我慢して」

    「はい」

    「あっちの村に着いたらすぐに山向こうの主の元に送られるはずだ。君が姿を見せれば主の鬼が現れる。君の役目はそこでおしまいだ。君を安全な場所に移動させるから、あとは僕にまかせて。現地には隊士や隠しも潜んでいるからいざとなっても大丈夫。僕に何かあっても出て来たりしないで」

    「…はい」

    鬼は見たことが無いけれど、彼の表情からは討伐は決して容易いことではないことが伝わってくる
    鬼はどんな姿なんだろうか?
    もし無一郎くんが見破られたりしたらどうなるんだろう?
    本当に、いきなり食べられたりしないのかな

    どうしよう、体が震えてきてしまう

    「怖い?」

    「いいえ、大丈夫です」
    私は首を振った
    大丈夫。何も知らない姉さんが行くよりよほど良い。もし姉さんに何かあったらモブ郎さんがどんなに悲しむか

    「ごめん、怖いに決まってるよね。こんなことに君を巻き込むことになってごめんね」

    彼は申し訳なさそうに謝った。今しがたまでの、理路整然と作戦を指示する彼は大人以上に頼もしいのに、こんなふうに優しい言葉をくれる時はやはり同世代の少年のようだった

    (つづく)

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  • 10918. 匿名 2024/05/02(木) 21:55:30 

    >>10882
    あー!やっと読みにこれたと思ったら急展開に💦
    ドキドキしながら続きも見守ってます✨書いてくださってありがとう♡

    +22

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  • 11274. 匿名 2024/05/03(金) 18:49:23 

    >>10882⚠️大正軸🌫️己の趣味に全振り

    『今宵、花嫁になる君へ』
    第八話

    巻き込んでごめんと謝る彼に向かって私は慌てて首を振った

    「ううん、謝らなければならないのはむしろこちらの方だわ。あなたはこの村に何も関係ないのに、こうして助けに来てくださってるんだもの。私も村人として、こんなことは終わらさなければ」

    豪奢な白無垢が届けられ、頬を染めて村を出た人々の顔が浮かんでくる
    モブ美ちゃんも、モブ世さんも、村の優しいお姉さんだった。山向こうで待つ、幸せな生活を夢見て花嫁となったのに──

    「山向こうへの嫁入りは、村にとっては豊かさとの引き換えだったのかもしれない。でも、花嫁となった人たちはみんな、一人の女性として、夫となる人との幸せな結婚を夢見ていたと思う。それなのに…」

    「……君も、夢見てた?」

    「もちろんよ。私は姉さんが羨ましかった。モブ郎さんと恋してからの姉さんは、すごく綺麗になって、とっても幸せそうなの。どんな困難も、二人なら乗り越えられるって。女の子ならそんな恋を誰でも夢見ると思うわ」

    「恋ってそんなに良いものなんだね。僕には必要ないから分からないや」

    「私も、恋をしたことないから分からない。でもきっと、生涯添い遂げたいって思える人が出来るって、幸せだと思う」

    「ふーん。やっぱり僕には関係ないや。僕はこんな仕事をしてるし、結婚なんてしたら相手を悲しませるだけだから」

    「そうかな?」
    私がそう言うと、無一郎くんはゆっくりと私に視線を向けた

    「例え悲しい別れが来たとしても、それで幸せだったことまで無くなるわけじゃないでしょう?私たちは死に絶望するためじゃなく、生きている幸せを味わうためにこの世に生まれて来たんだもの。だからこそ、花嫁になったお姉さんたちには、幸せになってほしかった」

    無一郎くんが私を見ている
    その淡い瞳の色に吸い込まれそうになる
    わたしは急に自分が恥ずかしくなった

    「ごめんなさい…私、あなたがどんな思いで鬼狩りをしているかも分からないくせに、無責任なこと…」

    私が頭を下げると
    「ううん、そんなことないよ。…なんだか、嬉しかったよ」
    と彼は小さく微笑んだ

    (つづく)

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