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10593. 匿名 2024/05/02(木) 11:29:12
⚠️🧈
⚠️流血表現あり
①
大規模な鬼の討伐が終わり、ここからは俺たち隠の出番となる。
現場が人里離れた山中だったため、一般市民の方々への隠蔽工作なんかは必要なさそうだが、如何せん怪我人が多く、隠一同は応急処置に追われていた。
ひとりひとり、重症度別に優先順位をつけて処置をしていく。その辺の地べたで怪我と疲労により座り込んでいる剣士たちの間を縫うようにして歩き回っていた俺の隊服の裾を引っ張る奴がいた。
「はい、なんですか?……ってうぉいっ!」
その人物を振り返った俺は思わず声を荒らげてしまった。
「……そうなの。血が止まらなくって。ちょっと診てくれないかな?」
そこには肩口を押さえる手を真っ赤に染めて木の幹にもたれかかっていた女性剣士がいたのだった。
咄嗟に周囲に誰かほかの隠は居ないかと視線を走らせた。女性なら、女性の隠の方が気安いだろうと思ったのだが、生憎誰ひとり手が空いてはいなさそうだった。
「ごめん、悪いんだけど早めに手当して欲しくて……お願い出来る?」と俺を見上げるその隊士の隊服はよく見るとぐっしょりと水分を吸っているように見えた。
たしかに今この瞬間も彼女が自らの肩の傷を押さえる手の隙間からは血が滲み出てきており、早く処置をする必要がありそうだった。
「じゃ、ちょっと失礼しますよ、と」
彼女のそばに座り込み、布を当ててある患部をあらためる。
「ありがとう、暫く押さえとけば血が止まるかと思ったんだけどねぇ」と言い訳じみた言葉を紡ぐ唇はあまり色がよくなかった。
「これは押さえるだけじゃ無理っすわ。かなり酷く抉ら……えっと、深い傷になってます」
あまり直接的な表現を使うのはどうかと思い、言葉を選んでみると、彼女は「いいよ、大丈夫」と微笑んだ。
とりあえず自分の雑嚢から新しい包帯と清潔な布を取り出した。それから、医療用の針と糸。
それらを用意した後に彼女を見つめる。くるっとした瞳が俺を見つめ返した。
「……すんません、隊服を脱いでもらう必要があるんですが」
きょとんとした顔をした彼女は、ああ、はいはいと頷きながら自由のきく方の手で釦を外し始めた。
黒い隊服を脱ぐのを手伝う。患部のある側の腕の、袖を抜く時に顔をしかめる彼女が気の毒だった。そして問題はその後。そう、シャツだ。これを脱いで素肌を晒してもらわなければ処置ができない。鋏でシャツを切るにしたって、互いに抵抗がありまくるだろう。
「もしかして、恥ずかしがっちゃってんの?」
突然からかうような声が飛んでくる。
「いいよ、大丈夫。だからさっさと縫って欲しいな」と言って彼女はシャツの釦を外し始めた。
「おい!ちょい待った!……恥ずかしいとかそんなんじゃなくて、いや、それもあるけどそれ以前にこんな公衆の面前で服脱がせるのが申し訳ない部分が大きいんだって!」
男の比率が圧倒的に多い現場で柔肌を晒すのは如何なもんですかね!?と彼女に言い聞かせる。
「まぁ、それはそうなんだけど背に腹はかえられない。悪いけど、手当してもらえないかな?」
今この瞬間にも傷口からは赤い雫が滲み出しており、緊急性の高さを示唆していた。
「……じゃあ、失礼します」
俺は彼女のシャツに鋏を入れた。
続く+30
-6
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10598. 匿名 2024/05/02(木) 11:35:26
>>10593
すごい臨場感
ドキドキしながら続きを待ちます+18
-4
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10618. 匿名 2024/05/02(木) 13:16:46
>>10593
なんか読んでいて、隠しも本当にプロフェッショナルな人達んだなぁと改めて思いました。トリアージしたり応急手当したり現場の状況や負傷者の尊厳まで気遣って…
現代で言ったら特別に訓練された災害救命チームみたいな感じですよね。続きを楽しみに待っています+27
-5
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10781. 匿名 2024/05/02(木) 20:23:49
>>10593
⚠️🧈
⚠️流血表現あり
②
「痛かったら言ってください」
野郎どもが相手だと絶対に言わない台詞を吐きながら彼女の肌に針を刺した。
僅かに眉の辺りをぴくっと動かした彼女は、呼吸を忘れて地面の辺りを見つめている。
「我慢強いっすね」「……そう?」
声も漏らさずにじっと耐えている様子に、逆にこちらが耐えられずに声をかけると彼女が身体の力を抜いた。
そして表情をゆるめると、少し乱れた髪を整えた。さらっとした黒髪が、彼女の指の動きに従って、右へ左へと揺れている。
少し落ち着きを取り戻しつつあるのか、顔色が先程よりも良くなってきたな、と密かに安堵した。
「はぁ、油断したわ本当に。こんな怪我なんて久しぶり」
決まり悪そうな声で話し始めた彼女に相槌を打つ。無言でじっと自分の手元を見つめられているよりもそっちの方が気楽でやりやすい。
彼女も彼女で、話好きな一面があるらしく、この度の大捕物の顛末を話して聞かせてくれた。
「──でさ、ちょっと余所見してる時にこう、ガリッとやられちゃったのよね。でも、ここは私が!なんて大見得切っちゃってるから我慢するしかなくて。それから直ぐに応援が来てなかったらやばかったかも」
からっと笑い話にして語る話の内容は己の命を懸けた戦闘だというのにも関わらず、彼女の語り口は軽やかで、それが余計に痛々しさを煽っている。
ふっくらとした唇や水分量の多いように見える瞳を持つ彼女は、間違いなく美人の部類に入ると思う。それ故に鬼殺隊の男たちの間ではちょっとした有名人だ。
だが隊服に覆われていて普段は見えない素肌には、沢山の傷跡が刻まれていた。
それらが目に入り、彼女の生きてきた道の険しさを想像してしまう。野郎どもの傷跡など死ぬ程どうでもいいのだが、別嬪の秘めたる傷跡とくれば話は別だ。俺も男だからな。
「恥ずかしいな……あんまり綺麗じゃないでしょ?」
俺の不躾な視線に気が付いたらしい彼女が呟いた。
「いや、別に」と取り繕うが、先ほどまでの砕けた雰囲気は霧散してしまった。白けた空気が俺と彼女の間に流れる。
視線を泳がせて、なにか話題を探して口を開こうとしては閉じることを繰り返す彼女。きっと普段からこうやって人の気持ちを汲み取りながら過ごしているのだろう。
「──自分、後藤っていいます」
「へ?」
「いや、なんか得体の知れない奴に手当されるのも気色悪いかなって思って」
何やってんだと自分でも思う。けれど、命懸けで闘ってくれてる人間が、俺ごときに気を遣うのは申し訳ない。そう思ったから。
「歳は二十三で、出身は都内」
「好きな食べ物は?」
「……カステラ」
聡い彼女が質問をしてくれた。有難く質問に答えさせてもらった。
身長、趣味、犬派か猫派かとか、そんなどうでもいい質問に答えながら傷口をちくちくと縫っていく。
「恋人は?」
「っ……。いねぇ……」
屈辱的な質問に、唇を噛み締める。
ふっと密やかな笑い声が聞こえた。馬鹿にすんじゃねぇよ、小娘が。と一瞬だけ瞳を上げて彼女を睨んだ。
「ごめん……ちなみに私も居ないよ」と埋め合わせのつもりか彼女が言った。
縫合が終わり、化膿止めを塗った上に包帯を巻き手当が終わった。野郎どもの時とは違ってかなり丁寧にやったので、時間がかかったが出来はよかったと思う。
「ありがとう、助かった」
清潔な包帯が巻かれた患部を満足そうに確かめた彼女は、澄んだ瞳を細めて笑いかけてくれた。昇りつつある陽光に、肌が無防備に照らされている。
俺は自分の隊服の釦を外すとそれを脱ぎ、彼女の肩にかけてやる。
「……疲れてるから良く休んだ方がいいですよ、傷の治りも早くなる」
「あ、ありがとう」
あー、何やってんだ俺はよぉ。と明後日の方を見ながらこそばゆくなった首筋を掻く。
──その瞬間。
「馬っ鹿野郎!……なにやってんの」
彼女が動き、俺の顔を覆う布をずり下げたのだ。
「だって、隊服借りちゃったんだもの。返さなきゃいけないけど顔が分かんなかったら返しようがないでしょう?」+28
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14774. 匿名 2024/05/09(木) 17:03:19
>>13462
⚠️まとめ🐚
まとめの場をありがとうございます✨️
>>3945 お題「春のワンナイト」より
『さくら舞う』🍃🐚 全8話
>>5681 お題 「昭和な推し」「歌お題」
『もうひとつの土曜日』🍃 全3話
>>7576 💎
>>10593 🧈 全3話
>>12794 🍃 元先生✖️元生徒
>>6167 🐍🐚
>>6824 🔥🐚
>>8850 💣◤◢◤◢◤◢◤◢WARNING◤◢◤◢◤◢◤◢🐚
>>9046 📿🐚
>>10383 🐰🐚(生存if)
>>10993 🍶🐚(供養所から🙏🏻)
>>12641 🌫🐚
こんにちは!いつもお世話になっております!
潮干狩りの季節ですね!➰🐚
春なのでね!
キメダンたちとガル子さんたちと過ごせた1ヶ月は本当に楽しかったです♥️
とんだアバズレですが本当に彼らが好きです(*´ω`*)
たくさんのプラスやコメントありがとうございました。しかもおすすめお題にあげていただいて!嬉しいびっくりでした♡ありがとうございます😊
1ヶ月間ありがとうございました。また会いましょうね🫶
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