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10529. 匿名 2024/05/02(木) 04:58:00
>>9967 つづき ⚠️
「チョコが溶けるその前に」12
「ガル子さん、よく食べますね」
「はい!!とっても美味しいです!」
モブ原さんと薬の調達に街に来ていた私は、昼食のために入ったお蕎麦屋さんで大盛りをたいらげていた───モヤモヤを払拭するように。こういう時は食べるに限る。だから太るんだけど。
「良かったら甘味も食べませんか?ここはあんみつも美味しいんですよ」
「え、いいんですか!?」
運ばれてきたあんみつをスプーンですくって頬張る。
「ほんとだ、美味しい〜!幸せ」
そんな私を見て、モブ原さんがふっと柔らかく笑った。
「可愛らしいですね、ほんとに」
「──ぐ、ゴホゴホッ」
「ガル子さん大丈夫ですか。お茶飲んでください」
モブ原さんが胸キュンなことを言うから咽せてしまった。優しいモブ原さんが私の背中をさする。
「か、可愛いって…私が?真面目に言ってます?」
「大真面目ですよ」
「お、大口開けて食べてるのに?」
「はい」
「口いっぱい入れて頬が膨れてるのに?」
「もちろん」
モブ原さんは照れる様子もなく、にこにことこちらを見ている。これが大人の余裕なのだろうか。
「…私の実家は、定食屋だったんです」
「そうなんですか?」
モブ原さんは幼い頃からよく店を手伝っていたという。器用さや料理好きなのはそこから来ているのだろう。
「特に、こういった和菓子を作るのが好きで。お客さんが今のガル子さんのように美味しいって嬉しそうに食べてくれるのを見るのが好きでした。でもある夜鬼が来て、家族が……。私が生き残ったのは、その時水柱に助けられたからです」
そこで身寄りの無くなったモブ原さんを、店の常連だった冨岡さんが屋敷付きの隠にしたそうだ。
「いつか…すべてが終わったら自分の店を持ちたいと思ってます。美味しそうに食べるガル子さんを見てると、自分の夢を諦めちゃいけないって思えるんです」
「あの…!実は、私も元の世界では高校を卒業したらパティシエの専門学校に行く予定でした。あ、パティシエはお菓子職人のことで。ほら、食べるのが大好きなので自分で作れたらいいなぁって」
「そうでしたか。では、良かったら今度の非番で一緒にお菓子でも作りませんか?」
「はい、ぜひ!やったー」
「良かった、元気そうですね」
「え…」
「少し前からちょっと元気なさそうで気になってましたので。…水柱と何かありましたか?」
「えっ……!?」
先日冨岡さんに襟元を直されたことを思い出して、意図せずに顔に血がのぼった。それを見てモブ原さんは「やっぱり」と小さくため息をついた。
「ガル子さん、悪い事は言いません。水柱はおやめになったほうがよろしいかと」
「ち、違います!冨岡さんとは何かあったわけじゃなくて、えーと…」
おそらくモブ原さんは私が冨岡さんに何かされて傷付いてるとか、私が冨岡さんを好きだと勘違いしているのかもしれない。
「あの、何も無いですから、大丈夫です」
「それなら良かったです。ガル子さんには傷ついてほしくないので」
「あんな遊び人はこっちからお断りですよ〜」
「それだけでは無くて…水柱には、お慕いしている人がいらっしゃいますから」
「…へえ、そうなんですか。遊び人なのに意外〜!」
それ以上何も言えなくて、私はひたすらあんみつをスプーンですくって食べた。
つづく+27
-7
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10537. 匿名 2024/05/02(木) 05:58:41
>>10529
モブ原さんがつくづく良い男なんだよねぇ
でも水柱に惹かれてしまうんよねぇ…+21
-3
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10972. 匿名 2024/05/02(木) 23:47:17
>>10529 つづき ⚠️
「チョコが溶けるその前に」13
私はいま怒られている。約束通り非番の日にモブ原さんとクッキーを作ったが、たくさん出来上がってしまったのでモブ乃さんにお裾分けしたいと言ったからだ。
「ガル子さん、水柱から彼女のところへは行かないように言われているはずですよ。たまに私の目を盗んで行ってるでしょう。水柱にもお見通しですよ」
「お願い!!」
「駄目です」
結局、モブ原さんも一緒なら、という条件で二人でモブ乃さんの元へ向かった。道中、なぜモブ乃さんの元へ行ってはダメなのか理由を聞くと、モブ原さんは少しの間考えて口を開いた。
「モブ乃さんは、鬼に狙われています」
「え…」
「これまでにも何度か鬼に襲われかけてます。ここだけの話、水柱の指示で内密に彼女に護衛を付けてるんです」
「なんでモブ乃さんが…」
「最初は、彼女が鬼を呼び寄せる稀血なのかもしれないと思いました。でも調べたら違った」
「じゃあなんで…」
「護衛の隊士が聞いたそうですが、彼女を襲おうとした鬼を討伐した際にその鬼がうわ言のように言っていたそうです。"あの方に美しい人間を"と」
「…どういう意味ですか?」
「鬼は女子供を好みます。鬼にとって、男を喰うより栄養価が高い。その中でも特に美しい人間に執着する鬼がいて、"献上"しているのではないかとお館様が」
たしかに、会う度に圧倒されるくらいモブ乃さんは美しい。でももしこれが本当だとしたら、毎日どれほど不安な気持ちで過ごしているのだろうか。
「どこかに、逃げたほうがいいんじゃ…」
「鬼は情報を共有する。彼女がどこへ逃げようが、また違う鬼が襲いに来る。実際、何度か居場所を変えていますが、いたちごっこです。とにかく鬼殺隊は、彼女を守るしかない。水柱がせめてもの思いで藤の花の御守りを届けているのもその為です」
「…あ!じゃあ、モブ乃さんを冨岡さんのお屋敷で匿えばいいんじゃ?たしか柱のお屋敷は鬼にみつからないように工夫してるんですよね?」
「実は、最初の頃はお屋敷に居たこともありました。でも、彼女が一方的に出ていってしまって」
「なんで……」
「…それが、"男女の仲は複雑"ってやつじゃないでしょうか」
この前のモブ原さんの言葉が浮かんだ。
"水柱には、お慕いしている人が──"
「あれ、お店閉まってますね」
いつの間にかモブ乃さんのお店の前まで来ていた。いつもならとっくにのれんが出ている時間なのに、のれんどころか入口も鍵が閉められ店内に人がいる気配は無い。
「お休みですかね?」
「裏口に回ってみましょうか」
隣の店との間を通り抜け裏に回ると、見慣れた半々羽織が目に入った。
(え…冨岡さん?)
中には入らず立ち止まったままの冨岡さんの肩越しに窓から中を覗くと、───モブ乃さんが知らない男の人と抱き合っていた。
「あ……」
思わず声を出した私に気付きこちらを振り返った冨岡さんを見て、心臓がどくんと鳴った。
───ああ、この人もこんな顔するんだ
「──すまない、後でこれを彼女に渡してくれ」
私の手に置かれたのは、いつも冨岡さんがモブ乃さんに定期的に持ってきているという藤の花の御守りだった。
「…冨岡さん、」
「用事を思い出した、もう行く」
目も合わさずにそう呟くと、この街の人混みに足早に消えて行った。ぎゅっと握られていたのがわかるほど歪な形になった御守りを残して。
「……やっぱり、好きなんじゃん」
冨岡さんはその日、朝まで屋敷に戻らなかった。
つづく+32
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