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9510. 匿名 2023/10/21(土) 02:03:28
>>9509
9(今夜はここまで)
あれはあれで大変気になるが、私の力で出来ることはない。柱の指示に従って、尾行を続けるしかない。
速度を上げて、少し離された分を縮める。
外套抜きにしても違和感だらけの、その女性を見失うわけにいかない。
(色々と、両極端な人だ)
インパネスコートが風で捲れるたびに見える、華奢というより折れてしまいそうな、か弱い印象の後姿。見た目に反して、安定して速かった足取り、重い男物の外套を頭の高さに上げた両手──しかも左手薬指に包帯を巻いているため、握力が落ちているはず──で握り締め続けている力。
一切の崩しのない、保守的な着付け。それにしてはこの時期に紫陽花柄の着物。
外套で何かから自分を守ろうとしている様子。一方で、下手な尾行を許していた。
さすがに、鬼ではあるまい。もしそうなら、私はともかく、柱まで気づかないわけがない。
ただ、我々がまだ知らない何かを、彼女は知っているに違いなかった。
***
瀟洒な造りの家が多い町とはいえ、石造りで風見鶏まである屋敷はここくらいだろう。
(ここが、例の屋敷?)
鬼がいる疑いがあって、奇妙な女性の住所か目的地。
男たちも追いついている。
今すぐ女性に近づくべきか?逆に男たちの動きに合わせて場を混乱させて、屋敷側の反応を見るか?
否、まずは女性と男四人の関係性や目的を知らなければ。危険を察知したらその時点で動こう。
(無理はするなと言われたのだし)
叱られるのは御免だ。
そっと、物陰に身を隠した。
(敵対からの尾行ではない?)
男たちは女性を狙っているのだと思っていた。
しかし、女性は彼らを撒こうともしない。
(気づいていない?)
いや、比較的近いところで男たちが物音を立てても、そのまま進んでいく。
(実は味方で、男たちに追われて駆け込んだという体裁でここに入ってきた?)
そんなところだろうな、と思う。
夜目は利くほうだが、距離が離れると心許ない。
何とか接近しなければ。
──例えば、敢えて私に気づかせるなどして。+27
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10170. 匿名 2023/10/22(日) 00:10:24
>>9510
10
わざと、少し離れた場所に戻って、足音を立てて駆け込む。
(案外、難しい)
少しでも走りやすいよう、護謨(※ゴム)底の草履を選んだのがまずかったか。
なるべく葉を踏みながら走るしかない。
「誰だ!?」
誰何の声は男から上がった。
追われでもしてきた弱い者を装うか、逆に、追ってきたことを堂々と言ってしまうか。
「……………」
「鬼の屋敷に用があるのかしら?命知らずね?」
「はい」
「一体何を考えているの?女が一人で来ても、私に喰われるだけでしてよ」
(随分と可愛らしい話し方をする……予想より若いな)
「……何人、喰いました?」
「もう数えてなんかいないわ」
それはそうだろう。この人は人間だ。一人も喰ってなんかいないはずだ。
けれど、騙されたふりをしておく。
「数えきれない程に人間を喰った鬼、ということは、貴方も使えるのですか。──人の力を超えた術を」
争うわけにはいかない。体術なんて全く習っていない私は、複数対一の対人戦になったら、どうしようもない。
屋敷に侵入して、天井裏や床下に潜んでこの人を監視するような、特別な術は持っていない。
争うことなく探るなら、行動を共にするのが早い。
味方のふりをするか、味方になるかは、そのあとで決めよう。
「私に術を使って欲しいの?貴方の命がなくなるわよ?」
「覚悟の上で、見せていただきたいです」
「……いいわ。但し、中で」
「術」とやらに皆目見当がつかない。しかし屋敷に入れるのだから、少しは良い方向に進んでいると思いたい。
どうなるか、先はまだまだ見えないけれど。
***
ここが鬼の住む屋敷だとして、彼女は鬼とどんな関係があるのだろう。落ち葉がたくさん積もる庭を抜け、先程の鬼が高速で飛び出して行った後、施錠されていない屋敷の扉を開ける様子は、少なくとも初めてここに訪れたようには見えない。
(しかし住人にも見えないのが、また気味の悪い……)
人だ。でも何者なのかは、この段階でも皆目見当がつかない。+21
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