ガールズちゃんねる
  • 8946. 匿名 2023/10/20(金) 02:17:48 

    >>8945
    7(今夜はここまで)
    娘はにこりと笑ってくれた後、小箱の蓋を閉めた。爪が細工を擦ってしまって、傷もついただろうに、気にした様子もないあたり、やや雑なところがあるのだろうか。

    外に出て、空を見上げて思う。
    (分かってはいたけれど、やはり夜、か)
    失踪が昼間に起きていたら、鬼の仕業を否定出来たのに。

    ***

    その後は、茶屋に寄って、薬屋の娘が言った山楂通りの場所を教えてもらった。夜、鬼に遭遇出来なかったら、ここに一人で来ようと決める。

    この後で知りたいとしたら、鬼の居場所か。どこから来るのかを特定したい。そうすれば、山楂通りで鬼を待つよりも、囮が幾分やりやすくなるだろうに。気配の有無は分かっても、位置までは認識出来ない私には、見抜けないものが多すぎる。

    (町に『棲みついた』のだとしたら)
    自分が鬼なら、どこを選ぶだろう。
    まず、人通りの多い中心地は避ける。
    そして、明るい場所も避ける。
    条件に当てはまる場所は何処?

    そろそろ暗くなってしまう。
    もう少し、何かは知っておきたい。

    (……?)
    一人の女性が、目についた。
    古典的な程に丁寧に着付けられた装い。
    にもかかわらず、男物のインバネスコートを頭から被るようにして、物陰を選んでやや急ぎ足で歩いていく。
    どうしても気になる、その様子。
    (警戒していそうな女性を尾行……上手くいくか?)

    後ろを歩くより、高いところに上がるのが得策か。
    民家の屋根に上がって、そのまま屋根伝いに追う。

    突然、横から声がかかった。
    「──考えることは同じらしいなァ」
    「目的地も、でしょうか?」
    指差された方向は、女性が向かうのと一致していた。
    「半年ばかり元の住人の姿が見えねえって噂の屋敷だァ」

    「私はあの女性が気になって追っているだけです」
    「ほぼ沈んでる日を、男物の外套で必死に避ける女ねェ。鬼だと思ってんのかァ?」
    「いいえ。ただ、左手薬指から手の甲にかけての包帯。なんとなく、あの下に傷があるようには見えません。それから……」

    女性の背後、少し離れた場所を指す。
    「……穏やかじゃねえなァ」
    ──男たちが彼女を尾行しているのだ。

    +21

    -5

  • 8973. 匿名 2023/10/20(金) 07:45:24 

    >>8946
    読んでます♡

    +14

    -2

  • 9509. 匿名 2023/10/21(土) 02:02:09 

    >>8946
    8
    「まあ、当然のことながら、ここに来た目的は鬼。鬼が現れれば、彼女を追う必要はなくなります。たとえ誰かにが尾行していても」
    「……その割り切りは有難いがなァ、あの女の行き先が屋敷なら無視出来ねェ」
    このまま行かせて、あの男たちが彼女に接触したら、その動きに乗じて屋敷に押し入るのが最適解か?

    「……屋敷が相当引っかかっておられますね。もしかして、先程仰っていた『半年ばかり元の住人の姿が見えない』というのは、持ち主ではなさそうな『今の住人』がいるという意味ですか?」
    「屋敷の持ち主の特定は間に合わねえ(※当時の不動産登記は権利しか示されておらず、現状を知るには税務署に保管されていた土地台帳と家屋台帳を閲覧する必要があった)だろうなァ。ただ家財が運び出されたり運び込まれたりの目撃者はいねェ」

    姿を見かけないだけなら、何件か起きている失踪に数えられるだけだ。気の毒ではあっても「件の鬼に喰われてしまったか」と、姿を消した理由を推察できる。
    しかし、「元の住人」が消えた後に「今の住人」がいるとなると、話は変わってくる。「鬼が棲みついた」という話が誇張でも比喩でもなく、事実そのものだと考えざるを得ないから。

    ***

    屋敷を目前にした時だった。
    それは、突然起きた。

    「、何……?」
    「疾えなァ」

    何かが、とんでもない速度で屋敷の方向から来る。
    (何も見えない!)
    「──!?」
    見えないけれど。
    (間違いなく、今すれ違った……!)

    舌打ちが聞こえて、顔を上げた。
    「あの女の方を追えるかァ?」
    「はい」
    「俺が戻るまで無理するんじゃねえぞォ」
    そう言いながら身を翻して、翔ぶように駆けて行った。

    何処に行くつもりなのかは、訊くまでもなかった。
    あの、見えない、足音もしない相手を斬りに行ったのだ。

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    -7