ガールズちゃんねる
  • 7508. 匿名 2023/10/17(火) 12:41:36 

    >>2595 お題 某音楽学校不合格(前半)
    ⚠️解釈違い💎(名前だけ📿さん出てもらってます)

    『お母さん、合格できなくてごめん。少し寄り道して帰るね』
    LINEを送ってスマホを放り投げ、来慣れた河原の土手に大の字に寝転がる。
    7分咲きの桜が柔らかい風に揺れている。
    朝早くから遠出し、地元に戻ってくるまで続いた緊張がようやく解けるのを感じ、重い疲労感を覚えながら目を閉じた。

    サクラチル、今日私はT音楽学校の試験に落ちた。
    毎年3月末に行われるこの試験は今年で4度目、高3の今回がラストチャンスだった。音楽学校に落ちてしまった以上、4月からはもしダメだったときの保険にと入学資格を得ていた進学先に進むことになる。
    もう2度とジェンヌになるチャンスがなくなってしまったこと、ずっと応援してくれていた親に高額なお金だけ使わせて何の結果も残せなかったこと、1週間後には大学の入学式に出席しないといけないこと…不甲斐なさや申し訳なさ、実感のなさに涙すら出ず、ただただ虚無感に襲われながら瞼に風を感じていた。

    「見〜つけた」
    突然声が降ってきて驚いて目を開ける。
    「えっなにっ…ウズセン!?なんで…」
    「あーもしもし悲鳴嶼先生?がる山いたぜ。そう、皆にも伝えてくれ。ん〜まぁ善処してみるわ、じゃあな」
    そこにいたのは母校の美術教師、宇髄先生。

    「おいがる山、お母さんがお前が電話出ねぇって心配してたぞ」
    言われて慌てて放り投げたスマホを確認すると、母からの鬼電履歴が残っていた。試験中からずっとマナーモードにしたままだったらしい。
    「わーお母さんごめん…てか、え?なんで宇髄先生がそのこと…?」
    「今年もがる山が例の試験だってのは把握してたからな、教員皆で気にしてたんだわ。そうしたらお前と連絡がつかねぇってがる山のお母さんから学校に電話があったもんで、手分けして探しに出てたんだ。で、勘のいい俺様がお前を無事見つけたってわけ」
    「…それは…わざわざお手数をおかけしました…」

    神妙な顔をしていると、宇髄先生が隣に腰を下ろしてきた。
    「生存確認だけしてハイサヨナラってわけにはいかねぇだろ。まだ帰りなくないならちょっと付き合ってやるよ」
    いや頼んでないし…とは口には出さなかったけど、思いがけない状況に気を取られ、今日の試験のことを一瞬忘れていた自分に気がついた。

    そのまま何か言うでもなく、何か聞かれるわけでもなく、2人で黙ってそよそよとそよぐ桜を眺める。
    意味不明なこの状況にひたすら困惑していると、しばらくして宇髄先生がくわわ〜っと大きなあくびをした。

    「あの…帰っていただいて大丈夫ですけど…」
    「あそォ?泣かねぇでいいの?胸はダメだけど肩くらいなら貸すぜ」
    「なっ、泣きませんしそこの違いに何か意味はあるんですか…」
    「ふ…ふわぁ」
    私の問いには答えず、またひとつ大きなあくびをする。
    「…春休みでも学校の先生ってお忙しいんですね」
    「あ?あ〜いや今個人的にな。今度大学時代の仲間と共同個展に出す作品を夜な夜な作ってるもんで寝不足なんだわ。ただでさえ春めいて眠ィ時期だしな」
    「いいですね先生は…人に教えられるほどの才能があって」
    「才能?ハッ」

    急にキリリと宇髄先生がこちらを見る。
    「『俺に才能なんてもんがあるように見えるか?俺程度でそう見えるならテメェの人生幸せだな』」
    「…宇髄先生?どうしたんですか急に芝居がかっちゃって」
    私の言葉を完全無視して、宇髄先生はノッてきたらしくバッと立ち上がって大声を張り上げた。(つづく)

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  • 7510. 匿名 2023/10/17(火) 12:44:58 

    >>7508お題 某音楽学校不合格(後半)⚠️解釈
    「『この国はなぁ!広いんだぜ!凄ェ奴らがウヨウヨしてる!得体の知れねぇ奴もいる、刀を握って二月で…』」
    「ちょっと先生恥ずかしいからヤメテくださいっ!!」
    「♪すみれのはーなーさーくーころ〜フフフフフ〜フ〜フ〜フンフフーン♪」
    「えええ何っ先生まさかお酒飲んでる?」
    「飲んでねぇっ、眠気MAXでハイなだけだ!」
    「余計怖いし!それにその歌よく知ってますね…てか歌詞知らないなら歌わないでくださいよっ!よりによって今日‼︎今‼︎もうっ‼︎なんですかそのフンフフーンて…ふ…ふふ…ふ…ふふふふふふふふ…」

    色々とバカバカしくなってきて脱力してしまい、込み上げてきた笑いが止まらなくなる。顔を伏せて肩を震わせる私の後ろ姿を見て何か勘違いしたのか、ただ単に我に返ったのか、宇髄先生の声が優しくなった。
    「悔しかったな」
    「・・・泣いてませんよ」
    「あれ違ぇの?」
    「泣こうが喚こうが最後のチャンスも逃しちゃったんでどうしようもないですし…」
    「…まぁな…」

    宇髄先生は今度は私の横に寝転んだかと思うと、空を見上げたまま話し出した。
    「今日の今日で落ち込んでるやつに言うことじゃねぇが、ケツが決まってるってのはそれはそれで救いかもしれねぇな。劇団SKなんかは逆に年齢制限も受験回数制限もねぇからな、10回以上受けてる奴もいるらしいぜ。そうなると止め時決めるのも自分だし地味に覚悟がいるわな」
    「先生詳しいんですね、意外です」
    「俺は美大じゃなくて芸大出身だからな。同級生で声楽科出たやつらなんかはそれこそ舞台やってたりしてるわけ。学祭で舞台装置一緒に作ったりしたこともあるし、少しは詳しいかもな。俺自身派手なモン観るのはなんだって好きだしよ。お前見てるとあの頃のことをよく思い出すぜ」
    「そうだったんですか…」
    「逆に芸大出ても当時と全く関係ないことしてるやつも結構いるもんだぜ。だからってそいつら誰ひとり学生時代を無駄だったと思ってるやつなんかいねぇ、だから」

    身体を起こすと、一呼吸置いて宇髄先生が続ける。
    「がる山のこの数年間も無駄じゃねぇからな」
    「・・・」
    「・・・」
    「・・・泣きませんよ」
    「ははっ、ダメかぁ」
    「そんな俺いいこと言ったみたいにドヤられても…なんでそんな泣かせようとするんですかw」
    「別に泣かそうとしてるワケじゃねーよw精一杯励ましてるつもりなの、これでも」

    宇髄先生はまた横になると、今度は目を瞑った。
    「今日なんか暖かくて気持ちのいい日じゃねぇか。いい日に落ちたながる山」
    「急に雑になったw」
    「だってなんかお前もうすっきりした顔してるもん」

    そう…そうなのかな。そんなことはないと思うけど、そう見えるくらいには吹っ切れたのかもしれない。
    「がる山自身がこれからも歌と踊りを続けたいかは知らねぇが、元々観るのは好きなんだろ?」
    「…はい」
    「楽しめるモンがあるってのも才能だぜ?それが観る側であっても演る側であっても。大学でも何かしらそういうサークルもあるだろ。もし発表する機会があったら知らせろよ。キメ学の先生たち引き連れて、推しに行ってやるから」

    いつの間にか太陽が沈みかけているのに、色々と励ましてもらってお礼のひとつも言っていなかったことに今になって気付いた。
    「ウズセンありがとね…」
    「・・・」
    「…ん?寝てる!?」
    返事がないと思ったら小さな寝息が聞こえる。
    「嘘でしょ聞いてた?せっかくお礼言ったのに。先生!起きて!えっどうしよ学校に連絡…。あっもしもし悲鳴嶼先生?あの、宇髄先生のこと運べます?…」

    おわり

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