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2379. 匿名 2023/10/09(月) 16:24:46
>>2364
「黒八丈」3/3
⚠️原作軸の伊黒さんの幼少期に触れる内容なので苦手な方は読み飛ばしてください
⚠️🍶さんが出ます
座敷牢を逃げ出し、鬼に追われた俺は当時の炎柱に助けられ生き延びた。
その後、親族に罵倒され、島にいることのできなくなった俺は「一緒に来るか」という炎柱の言葉にうなづいた。
月6回の連絡船の出航日、俺の見送りに来るものなんているはずがない。
三原山と八丈富士、二度と見ることはないであろう故郷の景色を目に焼き付け、船に乗り込もうとすると海風の中「あの…」と声が聞こえた。
風呂敷包みを抱えたガル子が立っていた。
無言で差し出された包みを受け取り、中をあらためると黒い反物が入っている。
「それ、持っていって」
正直言って意味を測りかねていた。餞別ということか。
俺の当惑と対照的にガル子は真剣な顔をしていた。
「それ、私が染めた糸で作ってもらったの。八丈の糸は泥の中を何度もくぐることで強く光るようになっていくの…だから…」
目に涙を溜め、必死で紡ぐ言葉の続きは「出航の時間だー!」という大声にかき消された。
「ありがとう」
それだけ伝えると、彼女は黒くなった手で顔をおおって声をあげて泣き出した。
その日の海は荒れた。
大蛇のように白く波打つ海面が俺を行かせまいとする怨念のようで恐ろしくなっていると「大丈夫だ」と炎柱の温かい手が肩にポンと置かれた。
本土に着き、育手が決まるまでは炎柱の家に世話になることになった。
「こっちは島に比べると寒いだろう。何か羽織るものを仕立てるといい」
炎柱の紹介で来た男は鬼殺隊の縫製係だと名乗った。
「どんな柄にしましょうか」
何種類も生地を見せられても、どれが良いのかわからない。自分で服など選んだことがないのだから当然かもしれないが。
悩んでいると、その男が俺の荷物の中の風呂敷に目を止めた。
「あちらは持ってきた服ですか?拝見してもよろしいでしょうか」
「これは服ではない。ただの布だ」と言いながら風呂敷を開くと、男は細いため息をついた。
「ああ。これは黒八丈ですね。私も何年もこの仕事をやっていますが、本物を見たことは数えるほどしかありません。美しいですねえ」
確かに、改めてみたそれは上品な光沢を放っていた。
手元の布と首元の鏑丸を交互に見た男は「閃きました」と勢いよく立ち上がり、持ってきた布を大急ぎでかき集め帰っていった。
それからしばらくして、俺の元に黒八丈で仕立てられた縞の羽織が届けられた。
「彼女もまた、俺を助け出してくれた人の一人だ」
大きく息をつき、伊黒さんの長い長い話が終わった。
おしまい+37
-5
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2388. 匿名 2023/10/09(月) 16:49:07
>>2379
⚠️のお話にコメントします
島のガル子は今も伊黒さんの生をずっとずっと願っているのでしょうね
素敵なお話をありがとうございました+31
-4
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2394. 匿名 2023/10/09(月) 17:03:23
>>2379
⚠️本物の黒色って暗くなくて美しいよね。
伊黒さんにぴったりの色を思い浮かべる素敵なお話、ありがとうございました✨+26
-3
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2413. 匿名 2023/10/09(月) 17:39:52
>>2379
⚠️
羽織にこんな秘密が…
素敵なお話ありがとう+25
-3
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2416. 匿名 2023/10/09(月) 17:46:14
>>2379
⚠️羽織の縞々の黒にこんなエピソードを込められるとは。
静かでとても深いお話をありがとございました。+28
-2
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2447. 匿名 2023/10/09(月) 18:37:42
>>2379
⚠️のお話へのコメントです
伊黒さんの羽織が更に愛おしく切なくなりました
静謐で奥深い話をありがとうございます+25
-3
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7486. 匿名 2023/10/17(火) 10:56:31
>>2379
🐢コメント失礼します
投稿されてから、これはじっくり読ませて頂こうとコメ番をメモしてありました
今ゆっくり読んで、読み逃さずにメモっていて良かったと改めて思っています
原作の世界を裏付けるようなストーリーと、八丈の織物の秘密を知り感嘆しました
羽織は大切な布から作られていたんですね。きっと伊黒さんの力になっていたんだろうなと思いました。素敵なお話ありがとうございました!+25
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