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18364. 匿名 2023/11/05(日) 19:56:07
>>18241
己の趣味に全振り
⚠️特殊⚠️暗い⚠️女(ガル子)が鬼です。鬼なので最後柱に殺されます。女は醜いうえに浅ましく往生際が悪いです。⚠️それでもいい人だけお読みください。⚠️
いきぎたない
―月光の願い― 11/13
(俺が引き寄せた……?)
「貴方の生き方は間違っていないわ。そして、私に自分自身を振り返らせてくれた。何故、鬼になったのか。そう、恵まれていても私は自分の人生を生きていなかった。生き切っていなかったから満足して死ねなかった。死にたくない、生きたいという執念が私を鬼にしたのよ。でも、最期の最後に死にたくないと惨めに生きていた私にこうしてまで生きていた意味をやっと分からせてくれた。私の欠けたものを今知ることができた。今、心が温かい……温かくなっている!」
「お前には何か分かるのか?」
「貴方にはあなたの苦悩があるけども、それでもそうやって光の下を歩くようにあなたは運命を引き寄せた……。そうとしか言いようがない……。」
蛇柱は目を瞑った。そしてゆっくりと瞼を開いた。目の前で女が微笑んだ。
「一思いに殺さず、貴方は私に時間を与えてくれた。殺されることに取り乱し惨めに喚く私をじっと見つめた。私は自分の醜さにようやく気付けた。そして、自分を振り返ることができた。」
(本当にそうだろうか。俺はそこまで考えていただろうか。)
蛇柱は分からなかった。だが、女を一思いに殺すことがためらわれたのは確かだった。
(この鬼はいつもの鬼と違った。だからそこに何か感じるものがあったのかもしれない……。)
女は漆黒の瞳をじっと蛇柱に向ける。
「貴方がどう思おうと、貴方のおかげで私は人の心を思い出した。……もう、思い残すことは無い……。」
(物心ついた時から鬼の気配を恐れ、自分の宿命を知ってからただ生きたいと願い生きたことは、鬼の闇からただ一心に逃れる光求める生き方だとでもこの女は言うのか……。)
「貴方もいつかきっと分かる。」
そして女はそっと蛇柱の手に重ねた両手を離した。
水の呼吸 伍の型 干天の慈雨
闇夜に日輪刀の蛇剣が宙を舞い、円を描くように月光を反射する。
女の体が静かに倒れ、体から離れた頸が舞い、そして地に着き転がった。煙のように消えつつある日輪刀の血を更に振り払い鞘に納めた蛇柱はその転がった頸を拾い、倒れた女の体に近寄るとその頸を体に合わせるように置いた。女の体が静かに崩れていく。しかしその前に女の顔が、体が、あの亡者のようなやつれた姿から元の生きていた時であろう姿に変わっていった。赤く禍々しい襦袢もぼろぼろに千切れた着物も優しい色合いの着物に変わっていた。もう死臭を放つことも無く、闇夜に月光に照らされた女の姿が優しく浮かび上がる。そして、何故か花の香りがした。
「ありがとう。救ってくれた……。」
女は微笑み、お願い、もう一度だけ、と手を伸ばした。蛇柱はこれまで鬼にしたことのなかったその女の手を握った。
― あなたは光。
崩れ塵と消える中で微かに口が動き、女は最後にそう言った気がした。
女は消える。月に雲がかかり、女がいた場所も再び闇に包まれる。頸も体も女が纏っていた着物も消え、その場所にことりと一つ、何かが残った。手に取るとそれは最初捕らえられた蛇柱の髪を梳いた女のつげの櫛だった。蛇柱はそっとそれを手に取った。
続
※蛇の呼吸は水の呼吸の派生のため、蛇柱はその気になれば『水の呼吸 干天の慈雨』もきちんと使えるという設定です。+23
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18373. 匿名 2023/11/05(日) 20:05:58
>>18364
己の趣味に全振り
⚠️特殊⚠️暗い⚠️女(ガル子)が鬼です。鬼なので最後柱に殺されます。女は醜いうえに浅ましく往生際が悪いです。⚠️それでもいい人だけお読みください。⚠️
いきぎたない
―月光の願い― 12/13
「蛇柱様!大丈夫でしたか!」
女の髪に捕らわれていた隊士や隠たちが駆け寄ってきた。女が塵と消えると同時に、彼らを拘束していた髪の糸も塵となって消えたのだ。
「ああ……。」
雲が風に流れ、再び月が姿を見せる。満月を背に何かを大切そうに両手で持ち、そこに静かに立つ蛇柱は光を纏い輝いているように見えた。思わず彼らは立ち止まった。月を背に顔には影がかかったが、包帯が外れているのが分かった。はっきりとはしないが傷跡が浮かんでいる。それでも、その姿はたとえようもなく美しく感じた。鬼を殺した後も暫くは殺気を放っているのが常だった蛇柱が穏やかなことに、行動をよく共にした隠は驚いた。
「最期は干天の慈雨で逝った。」
その言葉に誰もが驚き、そして蛇柱の静かさに納得した。干天の慈雨が使われる鬼はほとんどいない。だが、隠や隊士達も今回の鬼がいつもと少し違うのは感じていたので腑に落ちたような気がした。
蛇柱は静かに手元に目をやり、両手で包むように持ったそれをそっと隠に差し出した。
「蛇柱様それは……?」
「鬼が残したものだ。弔ってやってくれ。」
そう言い、蛇柱は隠につげの櫛を手渡した。椿油で手入れされたその櫛は月光に照らされ艶めいていたが、隠が受取り暫くすると香る煙を僅かに放ち、気が付けばいつの間にか何十年も雨風ににさらされたように激しく痛み古ぼけた様子になっていた。
「……分かりました。」
隠は静かにそのつげの櫛を受け取り、確かに弔いますと蛇柱に応えたのだった。
「誰も大きな怪我はなかったようだな。鬼も消え後片付けもいらないだろう。お前達は先に帰るが良い。墓を守っていた者達にももう終わったと伝えるように。私も直ぐ帰る。」
彼らにそう告げると初めて蛇柱は口元を袖で覆った。以前から何度か蛇柱と行動を共にした少し歳のいった隠が慌てて口を開く。
「蛇柱様、お傷の事は誰にも口外せぬようここにいる者達に徹底させますので。」
「ああ、それは助かる……。」
蛇柱は眉を伏せ静かに答えると後ろを向き、そして羽織の内側の衣嚢にしまっていた予備の包帯を取り出すと自分の口元を覆い始めた。
「それでは失礼致します。」
「……報告書だけはきちんと書いて私に出すように。後で私が更に纏め御館様に提出する。無駄がなく簡潔に、それでいて取りこぼすな。近頃は報告書もまともに書けない者が増えているからな。書き直しを命じられないようによくよく考えるのだ。」
後ろ向きながらもねちねちとした指示にようやく蛇柱らしさを感じ、なぜかほっとして隠は皆を連れて蛇柱より先にその場を後にした。
続+20
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