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18029. 匿名 2023/11/05(日) 05:24:56
>>18027 お嬢と番犬くんの推し🌫️⚠️解釈違い⚠️謎設定で無駄に暗い 2/2
「……怖い?僕の事」
「……え?」
「たぶんこの先も僕は君のために誰かを傷つける事が何度もあると思う」
――一体どういう意味だろう。返答に窮する私に彼が柔らかく微笑んだ。
「でもこの程度でいちいち揺らいでいたらダメだよ。君はあの家の当主になる人だろう」
彼との間にこんな話は出たことはなかった。それでもあの家の一人娘であり、外部からの血を殊更嫌う一族の中で次の当主になる者が私しかいない事など明らかな事だ。
「あのね、ガル子。きっとこの先、君のために血が流れる事がたくさんあるだろう。君のせいで涙を流す人もたくさんいるだろう。それでも君は全部見ないふりをして、瞳を濁す事無く凛と背筋を伸ばして立っていなければならない。君にそれができる?」
覚悟はしているつもりだった。けれど改めて彼に問われてその覚悟がどれほど甘く生温いものだったのかを思い知らされる。
彼がふっと笑みを零して視線落とす。視線の先は彼の腕を掴んだままだった私の手だった。そこで初めて自分の指先が震えている事に気づく。
「……ねぇ、僕と一緒に逃げようか」
「……え?」
「今すぐには無理だけど。そうだな、18になったら二人でこの里を出るんだ。遠い遠い誰も知らない土地へ行って、二人だけで暮らす」
背の高さが変わないから、目線も殆ど同じだった。まっすぐに届く眼差しは、まるで私の心の奥底まで見透かすみたいにこちらに注がれている。
「君が望むなら、連れ出してあげるよ」
ずっと変わらずに笑みを浮かべたその顔は、私にはどうしても笑っているように見えなかった。
きっと彼は私の答えなど分かっていて問うているのだろう。ああ、そうか。あなたは私に言わせたいのね。
「……私は逃げたりしない」
微かに声が震えた事が情けなくて、誤魔化すみたいに小さく息を吐く。
「だから」と呟きながら、顔を上げる。
「絶対に私を裏切らないで」
彼がきょとんと目を瞬かせた。妙に幼く見えるその顔に何も考えずにただ二人で広い庭を駆け回っていた頃を思い出して泣きたい気持ちになった。
出来るなら、あなたと二人で逃げられたら良かった。私たちを知る人が誰もいないようなどこか遠い街で、あなたと二人、生きる事ができたのなら。
「……僕が君を裏切るわけがないじゃないか」
彼は私の頬に触れようと伸ばした手を止めると、自分の掌をじっと見つめた。その掌は赤黒く血濡れている。縋り付くようにその手を掴むと自分の頬に押し当てる。ぬるりとした気色の悪い感触にたまらず眉を顰めた。
私の知らない顔で、あなたが笑う。
「僕は、君を守るために生まれてきたんだよ」
頭上の星空はもう少しも輝いて見えなかった。
西の空の低い所に弓を張ったように弧を描いた月が見える。上弦の月だ。
満月の夜に生まれた私たちは、半分の月が昇る夜にそれぞれの道を歩き始める。
おわり+25
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18143. 匿名 2023/11/05(日) 12:53:00
>>18029
お嬢と番犬の推しくんのお題からこんなドラマチックなお話を展開されるとは
むいくんの番犬っぷりが格好良くもせつなくて、まだまだこのお話の続きを読んでいたい、そんな気分になりました。トピ終わりに心に残るお話をありがとうございました!+17
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