- 
                1262. 匿名 2023/10/08(日) 10:18:27 >>1244 秘書だけが…知っている… 2/3
 ⚠解釈 ガル子に心を奪われた👹議員、🕶さんゲスト出演
 (コメントありがとうございます🙇♀)
 
 ある晩。
 私は無性に事務所近くの喫茶店のコーヒーが飲みたくなった。
 いつもなら誰かに買いに行かせるところだが、外の空気を吸いたくて、自ら赴くことにした。
 影のように付き従う屈強な秘書と共に、閑散とした街を歩く。ひんやりした空気で、煮詰まった脳が解きほぐされていく。
 
 閉店間際の喫茶店に滑り込み、デカフェのドリップコーヒー(胃が本日分のカフェインは受付終了しましたと声高に訴えている)と、ルシアンコーヒー(疲れが溜まると糖分を欲する質の秘書の分。ホイップクリームを増量していないので、まだ休暇は不要)をテイクアウトで注文する。
 
 豆を挽くリズミカルな音とふわりと漂う芳ばしい香りを浴びながら束の間の休息に浸っていた時、チリンチリンとドアのベルが鳴った。
 顔を上げるまでもなく分かった。あの女だと。一度聞いただけだが決して忘れることのない足音が、こちらに近づいてくる。
 凶器のようなパンプスに包まれた足が、手を伸ばせば触れそうな位置でピタリと止まった。そして、想像していたよりも甘い声が囁く。
 ルシアンコーヒー、テイクアウトで、と。
 
 苛立ちが顔に出ていたらしい。
 「交換しましょう」という秘書の提案に、私は無言で頷いた。
 彼女は…こんな時間まで仕事だろうか。ビルまで戻るなら送って…いや、血迷ったか。初対面の男二人がそんな申し出をしたら、警戒されるだけだ。
 
 ほぼ同時に手渡された3つのカップ。
 秘書がカウンターに設置されている蜂蜜とミルクのピッチャーをトポトポトポトポトポと傾けている間に、彼女は出ていった。
 
 道すがら呑み下したルシアンコーヒーは、ほんのり甘い。なかなか美味いなと、もう一口飲み込んだ。
 「こちらへ。先程23時を周りました」
 「ああ、そうだったか」
 秘書の先導で、ビルの夜間入口がある裏路地へと進む。+25 -2 
- 
                1266. 匿名 2023/10/08(日) 10:26:47 >>1262 秘書だけが…知っている… 3/3
 ⚠解釈 ガル子に心を奪われた👹議員、⚠🕶さんゲスト出演
 
 そこに女が佇んでいた。
 扉を凝視する横顔は、不規則に点滅する常夜灯に照らされ妖美な雰囲気を放っている。
 
 私達の足音を聞きつけはっと振り向いた女へ、(ビルの解錠カードをさり気なくチラつかせ怪しい者ではありませんよとアピールしながら)秘書が話しかける。
 「何かお困りですか」
 「うっかりしていて。夜間入口の解錠カードをオフィスに忘れてしまったんです」
 「そうですか。よろしければ我々と一緒に入りますか?社員証など、このビルの関係者だと証明出来るものを確認させていただきますが」
 女がほっとした顔をした。
 「5階の△△オフィスのガル山と申します」
 女が提示した社員証には、ガル山ガル子と書かれていた。
 
 
 片手に熱いカップ、反対の手にはスマホと社員証。両手が塞がっているガル子は夜間入口のスチール扉を体で押すが、ズルズルと押し戻されそうになっている。
 扉を支えようと伸ばした私の手が、ガル子の肩に触れた。
 「失礼」
 私は動揺を悟られぬよう、誠実さと頼りがいを印象付けるいつもの政治家スマイルを貼り付ける。
 「いえ、ありがとうございます。見た目以上に重かったので助かりました」
 そう言って、ガル子は穏やかに微笑んだ。
 
 その瞬間、確かに感じた。
 味気無いココアに、ガル子の甘い声がとろりと注がれたのを。
 
 我々は2階なのでと階段を指差し、ガル子にエレベーターを譲る。
 2、3、4、5と順繰りに光る数字を眺めながら、ぼんやりと考えた。
 恋は、存外に心地良いかもしれない。もっと浸っていたいと思うほどに。
 
 「おい、笑うな」
 「失礼しました…微笑ましくて、つい」
 「分かっているとは思うが…」
 「もちろん、このことは私に胸に納めておきます」
 
 
 おしまい+30 -2 
削除すべき不適切なコメントとして通報しますか?
いいえ
通報する
