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10810. 匿名 2023/10/23(月) 02:48:38
>>10809
15(今夜はここまで)
怒らせたな。
子ども時代に、水路に落ちて草履も片方失くして、ずぶ濡れで帰るに帰れず、遅くになってから観念して恐る恐る家の戸を開けた時以来の恐怖だ。
よく泣く母だったけれど、すぐ怒る母だったけれど、泣きながら怒られたのは、その時と鬼狩りになると言った時だけだった。
「きゃあっ!?」
過去の記憶に頭が逃避していた私の身体が、急に浮いた。
荷物のように、肩の高さで抱えられたのだ。
逆さまだった上半身をなんとか起こした時には、既に屋敷の敷地外に出ていた。
「通り沿いの薬屋って言ってたなァ?」
「一緒に、行ってくださいますか」
この人だけでも、充分だろう。「彼女」の手の内を知らなくても、強ささえあれば片付く。
けれど、助けられた以上は、共に行きたいと思う。
「生きて帰す約束を果たさせてくれるんならねェ?」
「……………」
私自身が捨てた「私を生きて返す」という約束が、この人にとっては絶対だったのだ。
(その約束を破らせかけたのは、私)
返す言葉もないが、黙っていても仕方がない。
「さ、先程は……」
言いかけて、止める。
言い訳など不要だ。余計な言葉を全て捨てて、一言だけを絞り出す。
「……ごめんなさい」
少しだけ、視線が低くなったと思ったら、幼児がよくされる、腕に座らされるような抱かれ方に変わっていた。
下ろしてと言う前に、ぽん、と、背中に手が置かれた。
「いい子に謝れたから許してやろうかねェ」
あやすようなその言い草に。
気恥ずかしさと、別の何かが込み上げて。
無性に泣きたくなった。+24
-4
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10828. 匿名 2023/10/23(月) 08:24:11
>>10810
助けてくれるさねみんがかっこいい…+18
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10864. 匿名 2023/10/23(月) 13:37:39
>>10810
お米様抱っこからお子様抱っこ…いい…🤤+19
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11205. 匿名 2023/10/24(火) 02:12:09
>>10810
16(今夜は会話ばかりが続きます💦)
「自分で歩きたいのですが」
「怪我の手当てが済んでからだァ」
「足に傷なんて、」
あちこち痛むのは事実。でも足は大丈夫そうだ。
「この速さで歩けるかァ?」
確かに、屋根の上をこの速度は、厳しい気もする。
黙りこくった私の背をまた、ぽん、と、手が柔らかく弾んだ。
急に、しかし意外に何の衝撃もなく、停止する。
少し離れているが、例の薬屋が見える。
先程とは違う隠が近づいてくる。
「避難はァ?」
「秘密裏ってなると、流石にもう少しかかりますね」
(ああ、成程)
薬屋の周りの住人や通行人を逃がしてくれているらしい。周到でありがたい。
目が合う。白磁のような色の髪は、夜闇の中でも少し浮き上がるのだな、と、どうでもいいことを頭の片隅で思いながら問う。
「先程の女性は、どうなりました?」
「今は落ち着いてますよ」
隠が答えてくれる。そういえば、何度か会ったことのある人だ。
***
「これ、貴方のものですよね?庭木に引っかかってました」
そう言って隠が渡してくれたのは、持って来ていたオペラバッグだ。
「中身、壊れちまったかァ?」
「いいえ。見たところ無事です。──ありがとうございます」
届けてくれた隠に礼を言う。
壊れるものといえば、折り畳みの鏡、馴染みの薬売りから買い続けている傷薬と、今日買ったばかりの目薬の瓶だが、いずれも無事だった。
「さて、作戦会議の時間といこうかァ?」
柱と、一人の隠がこちらを見る。
考えを整理しながら、話していく。
私はずっと、女性の合図で火が放たれたのだと思っていた。
誰かに見咎められたり、捕まりかけたりしたら、火を放って、騒ぎに紛れて逃走なり攻撃なりするために。
「目眩しにしちゃァ、危険すぎて不自然だったってことかァ?」
「はい。中で合図する女性すら巻き込んでしまうのに、撹乱のためにそんな真似をするでしょうか」+24
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