-
10809. 匿名 2023/10/23(月) 02:47:30
>>10808
14
窓の外にいる、女性が手を振り上げたのを合図と誤解したらしき男たちに叫んだ。
「今のは合図じゃない!」
一人の手には松明。火を放つつもりだった?石造りの洋館とはいえ、無傷では済まない。
「止めてここから立ち去りなさい!」
私の声を追い抜くように、高く鳴った指笛の音。ほぼ同時に、背後からの風が空を切り裂き、近くの木が真っ二つになった。
それに驚いたのか恐れたのか、声を上げて男たちが走り去っていく。ただし、ご丁寧に松明を「建物側に」放り出してから。
壁をゆっくり広がって上がっていく炎に、思考が止まりそうになる。
「油でも撒いてたかァ?」
片手に抱えた女性を、指笛に駆けつけた隠らしき人に託しながら、柱が心持ち緊迫した声で呟く。抵抗する女性を連れて、隠が建物から遠ざかった。
窓から外に出て確認すると、炎が覆いつつあるのは、広間に入る前に二度見た部屋の窓だ。
女性は何故、二度もあの部屋の扉を開けたのか。何かが気になった?それは、何?
男たちは何故、松明を投げ込もうとしたのか。混乱を誘うにしても、あの部屋を狙った理由があるはず。
あの部屋の風景を思い出す。私が見た中で異質だと思った物は。
あれらが、想像通りのものだとすれば。
危険すぎる。
「今すぐ逃げて、通り沿いの薬屋へ!そこに──」
私が行けなくてもいい。
これだけ強い人が行ってくれるのだから。
そう思って、全力で目の前の人を突き飛ばした──はずだった。
晴れた夜空の下。
落雷よりも激しい轟音。
視界に映る景色すら認識出来ない。
衝撃と熱風に背を叩かれて、飛ばされる。
あちこちぶつけて、上下左右の感覚すら失せた中で、手が確りと強く引かれたことだけは分かった。
***
何も見えない。
頭が動かない。
「、あの」
私の視界と自由を奪っている人に、声をかける。
「──お前なァ……危ねえ真似しやがってェ……」
「……………」+22
-4
-
10810. 匿名 2023/10/23(月) 02:48:38
>>10809
15(今夜はここまで)
怒らせたな。
子ども時代に、水路に落ちて草履も片方失くして、ずぶ濡れで帰るに帰れず、遅くになってから観念して恐る恐る家の戸を開けた時以来の恐怖だ。
よく泣く母だったけれど、すぐ怒る母だったけれど、泣きながら怒られたのは、その時と鬼狩りになると言った時だけだった。
「きゃあっ!?」
過去の記憶に頭が逃避していた私の身体が、急に浮いた。
荷物のように、肩の高さで抱えられたのだ。
逆さまだった上半身をなんとか起こした時には、既に屋敷の敷地外に出ていた。
「通り沿いの薬屋って言ってたなァ?」
「一緒に、行ってくださいますか」
この人だけでも、充分だろう。「彼女」の手の内を知らなくても、強ささえあれば片付く。
けれど、助けられた以上は、共に行きたいと思う。
「生きて帰す約束を果たさせてくれるんならねェ?」
「……………」
私自身が捨てた「私を生きて返す」という約束が、この人にとっては絶対だったのだ。
(その約束を破らせかけたのは、私)
返す言葉もないが、黙っていても仕方がない。
「さ、先程は……」
言いかけて、止める。
言い訳など不要だ。余計な言葉を全て捨てて、一言だけを絞り出す。
「……ごめんなさい」
少しだけ、視線が低くなったと思ったら、幼児がよくされる、腕に座らされるような抱かれ方に変わっていた。
下ろしてと言う前に、ぽん、と、背中に手が置かれた。
「いい子に謝れたから許してやろうかねェ」
あやすようなその言い草に。
気恥ずかしさと、別の何かが込み上げて。
無性に泣きたくなった。+24
-4
削除すべき不適切なコメントとして通報しますか?
いいえ
通報する