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                10808. 匿名 2023/10/23(月) 02:46:23 >>10175
 13
 「──無事だったらしいなァ」
 内心でずっと待っていた声が、広間の入口から投げかけられた。腕を組んで、開け放たれたままの扉に軽く凭れたその人の様子を伺う。
 「……はい。お互いに、ですね?」
 (頬に小傷。まさか、あれだけで済んだ?)
 
 「姿を見せない、あの速度の鬼をどうやって斬ったのですか?」
 「すれ違い様に片脚斬ったら見えたぜェ?ある程度出血したら流石に血気術が保てねえらしかったなァ」
 数秒遅れで走り出しても追いついた速度、鬼の脚から先に潰した判断、実際にそれをやってのけた力。
 いずれも桁外れだな、と思う。
 
 「斬ったのは、あの鬼でした?」
 絵を指差す。
 「もうちょい老けてたっつうか窶れてたがねェ。同一ではあるはずだァ」
 (鬼が、窶れる……?)
 鬼は病も老いもないと思っていた。考えられるのは、どういうことだろう。
 
 「ようやく、あいつが……!ありがとうございます、」
 涙声で頭を下げる女性を見て、柱が怪訝な表情を浮かべたので、仕方なく説明する。
 「あの鬼に懸想してしまった人がいるそうで。取り返したいのだとか」
 「……………」
 複雑そうな表情。きっと普段から鬼を相手しているこの人も、絶望的だと判断したはずだ。
 
 「なァ」
 「はい」
 「──もう一体、居ると思わねえかァ?」
 やはりか。嫌な予想ほど、的中する。
 「……思っています」
 「嘘っ!あの子はどうなるの!?」
 女性が取り乱す。まあそうだろう、と思う。
 
 「ねえ!あの子!妹は助けられますの!?」
 取り乱して私に掴み掛かる手を、握って止める。しかし、見た目もだが、触れると更にか弱くて、力を弱めてしまった。
 女性が、それを察して私の手を振り払う。
 その体勢を見て、背筋が凍りつく心地がした。
 (さっきと同じ、)
 
 炎の呼吸──
 反射的に向きを変えて、窓へ走った。
 ──壱ノ型 不知火!
 窓を壊して、そこから身を乗り出す。+25 -5 
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                10809. 匿名 2023/10/23(月) 02:47:30 >>10808
 14
 窓の外にいる、女性が手を振り上げたのを合図と誤解したらしき男たちに叫んだ。
 「今のは合図じゃない!」
 一人の手には松明。火を放つつもりだった?石造りの洋館とはいえ、無傷では済まない。
 「止めてここから立ち去りなさい!」
 私の声を追い抜くように、高く鳴った指笛の音。ほぼ同時に、背後からの風が空を切り裂き、近くの木が真っ二つになった。
 それに驚いたのか恐れたのか、声を上げて男たちが走り去っていく。ただし、ご丁寧に松明を「建物側に」放り出してから。
 
 壁をゆっくり広がって上がっていく炎に、思考が止まりそうになる。
 「油でも撒いてたかァ?」
 片手に抱えた女性を、指笛に駆けつけた隠らしき人に託しながら、柱が心持ち緊迫した声で呟く。抵抗する女性を連れて、隠が建物から遠ざかった。
 
 窓から外に出て確認すると、炎が覆いつつあるのは、広間に入る前に二度見た部屋の窓だ。
 女性は何故、二度もあの部屋の扉を開けたのか。何かが気になった?それは、何?
 男たちは何故、松明を投げ込もうとしたのか。混乱を誘うにしても、あの部屋を狙った理由があるはず。
 
 あの部屋の風景を思い出す。私が見た中で異質だと思った物は。
 あれらが、想像通りのものだとすれば。
 危険すぎる。
 「今すぐ逃げて、通り沿いの薬屋へ!そこに──」
 私が行けなくてもいい。
 これだけ強い人が行ってくれるのだから。
 そう思って、全力で目の前の人を突き飛ばした──はずだった。
 
 晴れた夜空の下。
 落雷よりも激しい轟音。
 視界に映る景色すら認識出来ない。
 衝撃と熱風に背を叩かれて、飛ばされる。
 あちこちぶつけて、上下左右の感覚すら失せた中で、手が確りと強く引かれたことだけは分かった。
 
 ***
 
 何も見えない。
 頭が動かない。
 「、あの」
 私の視界と自由を奪っている人に、声をかける。
 「──お前なァ……危ねえ真似しやがってェ……」
 「……………」+22 -4 
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