-
10691. 匿名 2023/10/22(日) 22:37:25
>>10679
⚠️解釈違い🐍 ⚠️己の趣味に全振り ⚠️長丁場 ⚠️何でも許せる方向け
『初恋の君を想う時』四十四話
暗いうちに起きて身支度をした。昨日もらった手紙と、ホトトギスを挟んだ帳面を鞄に入れる。それから伊黒さんに短い返事を書いた。伊黒さんの部屋の襖の隙間へ手紙を落とす。自室に戻って水槽を覗くと、金ちゃんは目を開けたまま底の砂利の上で静かに寝ていた。餌をあげずにそのまま出発することにした。きっと帰宅した伊黒さんがあげてくれるだろう。
既に数人の隠さん達が来ていて、朝食やお風呂の準備、掃除と忙しそうにしていた。声を掛けて挨拶してから玄関へ向かう。鞄を背負って引き戸を開けた。初秋の夜明け前の空気は凛と澄み、今日も金木犀の匂いがする。
途中まで電車を使えと言われているが、この時間だとまだ始発も動いていない。電車が動く時間になるまで、線路沿いを行くことにした。
そのうち爽やかな薄明かりが広がり始め、東の空の星々の微睡みを消し去っていった。少し冷たい空気が身体を撫でる感覚が気持ち良い───
その時、いきなり手首を掴まれ、引き戻された。驚いて振り返ると、左右で色の違う瞳が私を見ていた。
「よかった───間に合って───」少し息を切らしている。息切れしている伊黒さんを見るのは初めてだ。珍しいなと思った。
「よく此処だって分かりましたね」他に言うこともあるだろうに、呆気に取られていたのでどうでも良いことしか口をついて出て来ない。
「始発前に出て行ったと聞いたから───」
だから線路沿いを走って来たの?私がいる保証もないのに。なんでそこまで───
掴まれた腕を強く引かれたので、反射的に身を硬くして抗おうとしたが、更に強く引かれて結局抱きすくめられてしまった。
「───ぃやっ…!」伊黒さんの胸を押し戻し、身体と身体の間に隙間が出来る程度になんとか離れた。顔を会わせないように、せっかく早く出て来たのに───なんでこうなるのよ。
「なんて顔をしているんだ───」少し驚いたような、悲し気な顔をして伊黒さんが言う。顔に触れようとするから咄嗟に避けた。
「こうなるのが嫌だったから会いたくなかったのに───」冷んやりとした手が性懲りも無く伸びてきて、結局頬を撫でられる。
「───なんで来たんですか」目の前の顔が見る見るうちにぼやけていった。
※※※
俺を押し返し睨んだかと思うと、今にも泣きそうに顔を歪めた。会いたくなかった、何故来たのかと問われ、困惑した。俺は───何か気に触ることをしてしまったらしい。抱きしめようとするも、またもや抵抗された。頬を撫でるとガル子の眼から涙が落ちた。
「なんでこんなに構うんですか」それは、君が好きだから───。
「しんどいんです、もう───」何がだ───確かに俺は重いかもしれないが───。
「こんな風にされると、勘違いしそうになります」俯いた顔がどんどん涙で濡れていく。
「期待しないようにって言い聞かせても、しちゃうじゃない───こんなことされたら」俺の胸元を掴む拳に額を寄せて、尚も君が泣く。
「どうしたらいいのかわかんない───」そう言うと君は声を上げて泣いた。
ようやく理解した───傷付けていたんだ。俺の、中途半端な態度のせいだ。君への気持ちをこんなにも抑えられないというのに、それでもまだ怖気付いて想いを伝える決心がつかなかったから───。
「想う人がいるなら、どうして私なんかにこんなことするのよ───」ん?「…想う人?」「…心に決めた人がいるって───」あぁ、その事か───「聞いていたのか」「…ごめんなさい」「いや、すまない。謝るのは俺の方だ」そう───俺のせいだ。君は悪くない。
ガル子を抱き寄せると、今度は大人しく腕の中に収まった。
「俺が中途半端だったから───君といると幸せで、君の優しさについ甘えた。想いを伝えることもせず、すまない」
君の髪を撫でる。鼻を啜る音がする。
自分の想いを伝えるのは、君が無事に帰って来てからと思っていたが───それが端から間違っていたんだ。
「想う人はいる。今、目の前に」
額と額をくっつけて、涙でぐしゃぐしゃの顔を撫でる。
「───君が好きだ」
(つづく)+29
-4
-
10700. 匿名 2023/10/22(日) 22:44:41
>>10691
今日も墓の中から読んでます
🪦🕳🧟♀️
最後の一言で心臓射抜かれたよ💘+23
-2
-
10702. 匿名 2023/10/22(日) 22:46:03
>>10691
ずっと読んでます🐍✨+24
-3
-
10703. 匿名 2023/10/22(日) 22:46:52
>>10691
つ、ついに+21
-2
-
10708. 匿名 2023/10/22(日) 22:52:30
>>10691
⚠️解釈違い🐍 ⚠️己の趣味に全振り ⚠️⚠️⚠️🐚苦手な方は高速スクロール推奨❗️ ⚠️長丁場 ⚠️何でも許せる方向け
『初恋の君を想う時』四十五話
ガル子の瞳からまた涙が落ちる。
「私も、伊黒さんが好き───」俺の首に腕を回して君が抱きついた。
もっと早くに君に想いを伝えるべきだった。過去に囚われ、怖気付いていた自分が不甲斐ない。
「大好きだよ」柔い髪に頬を寄せる。何度もこくこくと頷き、首に回した君の腕に力がこもった。
「しんどかったです」「うん」
「手に入らないと思っていたし、手に入れちゃ駄目だと思ってて───」「うん」
「でも欲しくて堪らなくて、苦しかったです」「うん」腕の中に閉じ込めた君の髪を撫でる。甘えるように君が首元に頬を寄せた。
「大好き───」耳元で君の声が甘く響いた。
「このまま連れ帰りたいな」「駄目に決まってるでしょ」涙を拭い、鼻を啜って君が笑う。
「なんでこんな時に言っちゃうんですか。こんな大事なこと」
「こんな流れになるとは思っていなかった」
「私もですよ。そもそもなんで追いかけて来たんですか」
「ひと目だけでも会いたかった」
「ほらまたそういうことをさらりと言っちゃうんだから」「駄目か?」
「そんなだからこっちは期待しちゃうんです。言われた方は本気にしますよ」
「今は言っても良いのだろう?」
何とも言えない困ったような顔をして、君が頷く。頬に手をあて、金茶の瞳を覗き込んだ。掌に君が頬擦りをして言った。
「───もう行かないと」寂し気に君が笑う。
「あぁ、そうだな」君の頬に両手を添えた。
※※※
「あの、此処でそれ取って大丈夫ですか?」包帯を指さして伊黒さんに問いかける。
「あぁ」
「人が来るかもしれないのに?」
「一瞬なら分からないだろう?」
「人の初めてを一瞬で終わらせないでください」口に出してから、しまったと思った。
「───ほぉ」下目遣いの双眸が怪しく光る。
「だったら、お望み通りに───」
包帯を素早く首元まで引き下げると、私の手を取り、傷のある頬に両側からぺたっとくっつけた。
「これで見えない」
そのまま顔が近付いて、彼の唇が私の唇を塞いだ。呆気に取られて見開いたままの私の目を、異色の双眸が射抜くように見つめている。背中に彼の腕が回り、身体をぐいと引き寄せられた。瞳を閉じて、角度を変えて深く唇が合わさると、その隙間から熱い吐息が漏れた。痺れるような感覚に酔いしれる私に、優しい声が囁いた。「足りた?」その声で我に返った。
「───足りたけど、足りない」やっとのことでそう言って、彼の唇に自分のそれを再度重ねた。「痛くないんですか?」痛々しい傷の残る頬をそっと撫でる。「たまに引き攣れるくらいだな」初めて触れる彼の頬が温かくて、思わず笑みを漏らした。
啄むように、傷痕にも唇を何度も落とす。反対の頬にも。それから彼の頭を抱えるように腕を回して、唇と唇をもう一度深く重ねた。
「行かせたくなくなってきた」「我慢してください」「仕方ないな」もう一度、啄むように口付けした。
「───そろそろ行かなきゃ」「あぁ」「だいぶ時間をくっちゃった」「そうだな」そう言ってぎゅっと抱き合った。
「行って来ます」「行ってらっしゃい」彼の首元に鼻先をうずめ、胸いっぱいに息を吸い込む。
「───大好き」「俺もだよ」彼の腕に力がこもり、それから離れた。
「鏑丸もまたね」滑らかな白い身体を撫でると、返事をするかのように赤い舌をちろりと出した。伊黒さんが包帯を素早く巻き直す。
「ガル子」歩き出した私を、伊黒さんが呼び止めた。
「必ず、生きて戻れ」「はい───必ず」頷いて笑った。
後ろ髪を引かれる思いを振り切って、私はお師匠様の元へと走り出した。
(つづく)
+34
-6
削除すべき不適切なコメントとして通報しますか?
いいえ
通報する