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10175. 匿名 2023/10/22(日) 00:18:23
>>10172
12(今夜はここまで)
「貴方のような、上品で保守的な着付をする女性が、明治中期に生まれた女学生言葉を話すということは、比較的最近まで世俗の人間だったということになる(※女学生言葉、所謂『てよだわ言葉』は乱れた言葉と言われ、大正4年当時でも普通の女言葉として認識されていなかった)。鬼になったのはごくごく最近。それでは、喰った人間の数を把握していないことと、全く釣り合わないのです」
強引に話を運んでいるという自覚はある。結局のところ「貴方は鬼ではない」という結論に持っていけさえすれば良いのだ。
「私は、半端者ではありますが、この刀で鬼を狩って生きている者です。だからどうか、人の身で鬼を名乗らないで」
「……鬼狩り様だったの……」
(鬼狩り『様』か)
鬼狩りをそう呼ぶのは、鬼の脅威を理解している人だ。
「貴方はこの屋敷の住人ではない。下調べの上で、複数人でここに来てまで、鬼に接触しようとした。誰かの、仇討ちですか?」
「恨みはあるけれど、仇じゃないわ!あの子は死んでなんかいない!ただ、……あの鬼に騙されたのよ!」
憎々しげに指差した先は、この広間の絵画。緩く波打った金の髪の、男性の絵。
(この人が、鬼?)
「あの鬼は、遥か昔に日本に来たんですって!だけど、そのまま国に帰らなかった。この国を喰い荒らしにでも来たのかしらね!あの子はそんな訳の分からない男に懸想していたのよ!」
「喰い荒らしに来たのではなく、この国で鬼になってしまったのでしょうね。喰われかけたのをきっかけに。残念ながら、起き得ないことではありません。──ただ、鬼の目的が何であれ、もう果たせはしません。最高位の鬼狩りが、彼らしき鬼を追って行きましたから」
彼女の目が、爛々と輝いて見える。
「だったら、あいつがいなくなるのね!?これであの子を取り返せる!」
「……………」
さて、それはどうだろう。胸が痛くなる。
宗教画のような筆致でありながら、背景がこの屋敷のような邸宅の屋内だからか、人間味があるように見える、不思議な絵。描かれた、金の髪の男性。
鬼に想いを寄せていたという「あの子」はどうなった?
喰われていてもおかしくない。
無事に逃げおおせた可能性も、鬼に衣食住を与えられてどこかにいるなんて可能性も、限りなく零に近い。+19
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10263. 匿名 2023/10/22(日) 10:47:11
>>10175
読んでます♡+14
-0
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10808. 匿名 2023/10/23(月) 02:46:23
>>10175
13
「──無事だったらしいなァ」
内心でずっと待っていた声が、広間の入口から投げかけられた。腕を組んで、開け放たれたままの扉に軽く凭れたその人の様子を伺う。
「……はい。お互いに、ですね?」
(頬に小傷。まさか、あれだけで済んだ?)
「姿を見せない、あの速度の鬼をどうやって斬ったのですか?」
「すれ違い様に片脚斬ったら見えたぜェ?ある程度出血したら流石に血気術が保てねえらしかったなァ」
数秒遅れで走り出しても追いついた速度、鬼の脚から先に潰した判断、実際にそれをやってのけた力。
いずれも桁外れだな、と思う。
「斬ったのは、あの鬼でした?」
絵を指差す。
「もうちょい老けてたっつうか窶れてたがねェ。同一ではあるはずだァ」
(鬼が、窶れる……?)
鬼は病も老いもないと思っていた。考えられるのは、どういうことだろう。
「ようやく、あいつが……!ありがとうございます、」
涙声で頭を下げる女性を見て、柱が怪訝な表情を浮かべたので、仕方なく説明する。
「あの鬼に懸想してしまった人がいるそうで。取り返したいのだとか」
「……………」
複雑そうな表情。きっと普段から鬼を相手しているこの人も、絶望的だと判断したはずだ。
「なァ」
「はい」
「──もう一体、居ると思わねえかァ?」
やはりか。嫌な予想ほど、的中する。
「……思っています」
「嘘っ!あの子はどうなるの!?」
女性が取り乱す。まあそうだろう、と思う。
「ねえ!あの子!妹は助けられますの!?」
取り乱して私に掴み掛かる手を、握って止める。しかし、見た目もだが、触れると更にか弱くて、力を弱めてしまった。
女性が、それを察して私の手を振り払う。
その体勢を見て、背筋が凍りつく心地がした。
(さっきと同じ、)
炎の呼吸──
反射的に向きを変えて、窓へ走った。
──壱ノ型 不知火!
窓を壊して、そこから身を乗り出す。+25
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