-
10073. 匿名 2023/10/21(土) 22:34:58
>>9432 星月夜⑥(コメントありがとうございますー!!2つ落とします)
太陽がゆっくりと沈んで刻一刻とその色を変えていく空を見上げながら、私もゆっくりと話し始めた。
「今年の春頃に、会社の取引先の部長さんと娘さんが読み聞かせにたまたま来たんです。それから何度か来てくれるようになって、部長さんともお話しするようになって...
その様子を社内の誰かが見かけたんでしょうね。気が付いたら、私が部長さんと外で会って不倫しているなんて噂がうちの社内で広まっていました。
たまたま会ったから話をしただけだって私は弁明しました。ボランティアしてることを最初に正直に言わなかった私もいけないんです。気付いたら私が副業して、それもいかがわしい副業をして、不倫をしているだなんて噂になっていました。
取引先の部長さんも私の上司に事情を説明してくださって、こちらの会社としても取引先の部長さんの立場を傷つけるわけにはいかないですし、これ以上この話はしないこと、話は片付いたということになってますが、どこで誰に何を言われてるかなんて正直分かりません」
煉獄さんは静かに私の話を聞いていた。
話し終わる頃には太陽は顔を隠してしまって、辺りは薄暗くなり始めていた。
通りを車が忙しなく走って、幾つものライトと走行音がうるさい。
「雑音ばっかり...」
私は口をつぐんで、反対に今度は煉獄さんが口を開いた。
「それでも、読み聞かせのボランティアをやめずに、君は強いな」
「強いんじゃないんです...私にはここしかないから。ここ以外、私が落ち着ける場所はないから...」
そう言いながら、きゅっと瞼が熱くなった。涙が溢れて零れないように、私は優しく目を閉じて深呼吸をした...その時。
煉獄さんがぱっと私の右手を掴んで走り出した。
私は腕を引っ張られるまま、煉獄さんの後ろを走った。
続く+22
-3
-
10075. 匿名 2023/10/21(土) 22:37:11
>>10073 星月夜⑦
煉獄さんに手を引かれるまま、連れてこられたのは科学館の地下駐車場だった。
「我慢しなくて良い。泣きたいときは泣いていいんだ」
煉獄さんは私の手をまだ握ったまま、私の目を真っ直ぐ見てそう言った。
ああ、そういえば、この人と真っ直ぐ向き合って目を見て話すのは初めてかもしれない。
それどころか、この変な噂が立って以来、誰かと真っ直ぐ向き合って話すことなんてなかったな...
「ここならあまり人は来ないし、来ても車の影で誰からも見えない。我慢しなくて大丈夫だ」
走ってる間にすっかり引っ込んでしまった涙だったけど、ゆっくりと、じわじわと、私の目に涙が溢れ出した。そして、ぼろっぼろっと、大粒の涙が零れ落ちた。
遠くで誰かが来る足音がする。一人は車に乗り込んだ。一人はバイクのエンジンを掛ける。
「声も我慢しなくて良い。大丈夫だ、エンジンの音で誰にも泣き声なんて聞こえない」
煉獄さんがそう言って頭を撫でるものだから、私は次第に声を上げて泣き出してしまった。
バイクが大きな音を出して走っていく。車がエンジン音を立てる。
あんなに耳障りだった雑音が、私の惨めな泣き声をかき消してくれた。
私が声を上げて泣いてる間、煉獄さんはただ静かに胸を貸してくれて、ゆっくりと背中をトン、トンと叩いてくれた。
ひとしきり泣いて、私が静かになってくると、煉獄さんは優しく微笑んで私の顔を覗いた。
「見ないでください...ひどい顔だから」
「そうだな。ならば、今日は家まで送らせてくれるか?」
「...お願いします」
こんなひどい顔で地下鉄に乗るのも恥ずかしいし、私は今日は甘えることにした。
続く+26
-4
削除すべき不適切なコメントとして通報しますか?
いいえ
通報する